22 『噂あるいは旧友との再会』
士衛組の悪い噂を懸念していたサツキと違い、「悪いことなどしてないから当然そんな噂など出ようはずがない」と思い込んでいたクコは驚愕していた。
「どのような噂でしょうか」
おずおずと尋ねるクコに、ミツキはあえてハッキリ教えてあげることにした。そのほうが、この利発そうな局長が対策を打ちやすいだろうと考えたからである。ミツキは淡々と述べてゆく。
「士衛組は組織力が乏しく、内部抗争と粛正が多い。さらに危険な思想を持つ武装集団である。そういったあいまいなプロパガンダがありましたね。また、アルブレア王国で士衛組による被害があった、と怪しげな噂も」
――やっぱりきたか。
とサツキは思った。
ここからは、プロパガンダを打たれる可能性があった。スパイであったケイトがいなくなり、次なるスパイもしばらくの間は潜入させにくい。とすると、士衛組の情報収集は難しくなり、情報を得られぬならば様子見などせず、偽の情報を世間に流して士衛組を追い詰めるだけでいい。クコとリラだけ捕縛してどう利用するのかは状況によって変わってゆくだろうが、組織そのものが正義であることにブロッキニオ大臣側としてはメリットなどない。ブロッキニオ大臣に容赦はなかろう。
「りゃりゃ、信じるやつなどいないわ」
「そうそう、あり得ないでしょ」
オウシとスモモの兄妹はそろって興味なさそうに笑い飛ばす。思考の瞬発力が高い二人には、論理的に無理な筋など笑うしかない。だが、ミツキは極めてまじめに言った。
「いるでしょう。現代の情報網は未発達です。信用できる報道機関が多いゆえに、怪しげな報道機関も大いに機能してしまう。士衛組の人数が少ないことから、内部抗争も起きるほどではないとわかる。また、士衛組の移動の痕跡を考えればアルブレア王国での被害などあり得ない話だとわかるので、よっぽどの考えなしでなければ信じないと思います。しかし報道を見かけただけの人は、考えもせず、信じてしまうこともまた多い。しかしこれからが正念場ですね」
はい、とサツキはうなずいた。
「真実がただ真実であるだけでいつかは信じてもらえるほど、甘い世界ではない。俺はそう思ってます。嘘を繰り返されれば、人は簡単にその嘘を信じてしまう……だから、真実は何度でも、世間に訴えていく方針です」
「で、あるか。わかってるな。そうせい。まあ、ここで会ったのもなにかの縁じゃ。困ったら我ら
あっけらかんとしているようで、オウシは理解も電光のように早く具体策もすぐに思いつくし、一種独特の風格がある。その格がいっぱしのものになりかけているところであり、もうサツキを信頼させるには充分な段階にきていた。同時に、先の経営眼と戦略眼の提示なども合わせて、サツキはすぐに、オウシを見習うべき教師の一人とも思った。実はサツキも忍者のフウサイを使って、誤情報が出ないよう士衛組の活躍を事実のみ拡散させる隠密活動を行っているのだが、それはあえて言わないでおいた。
サツキは素直に帽子を手に取って礼を言った。
「ありがとうございます。勉強になります。こちらも、なにかあれば協力します」
「カタい挨拶はいらん。気にするな。で、士衛組は、お主ら八人だけか?」
「噂では、十人以上と聞きましたが」
と、ミツキが付け足す。
これについては、クコが複雑な苦笑を浮かべて答えようとしたが、言いにくいことだからか、ルカが率先して答えた。
「壱番隊隊士が一人脱走。粛正済み。弐番隊隊士は一人が料理中です」
「確かに、弐番隊と参番隊がいるのに壱番隊がひとりもいない」
ミツキがそう言っても、オウシは「そうであるかな」と頬をポリポリかいている。
「壱番隊の隊長については名前だけでも紹介しておきましょう」
ルカはそう濁した。バンジョーについてはともかく、フウサイに関する情報はできれば他人に与えたくない。そんな狙いがサツキにもわかった。壱番隊隊長・ミナトについても、強さは喧伝したいほどだが、ルカさえミナトの魔法を知らないし、鷹不二水軍には強い剣士だと言っておけばよいだろうか。
サツキは上を向いた。ルカが淡々と答えてくれたので、サツキは壱番隊隊長を呼ぼうと思ったのである。壱番隊隊長ミナトは見張り台にのぼって昼寝をしているから、呼べば降りてくるだろう。
そのとき、声をかける前に、ミナトが天から降ってきた。
「ごめんなさい局長、見張りのつもりが寝てました」
「知ってる」
とは答えるものの、サツキはやや戸惑う。
きらり、と天下五剣『
ミツキがそれをみとめた一瞬あとに、
「刀を収めなさい!」
厳しい口調でとがめるが、オウシはこんな状況なのに楽しそうに声を立てて笑った。
「りゃりゃ! なんじゃ気が立っておる!」
「おや? この声は」
「で、ある! わかっとるくせに、すっとぼけたヤツじゃ。久しぶりだな、ミナト!」
オウシがこう楽しげだったのは、旧知の相手との再会を喜んでいたからだったらしい。この場にいるミナト以外の面々はただ驚くばかりである。状況が状況だけに、ミナトと旧知のスモモとチカマルさえ驚きがまったくなかったといえば嘘になる。
ミナトはかちんと剣を収めて、ぺこりと一礼した。
「お久しぶりです、オウシさん。このたびはご無礼を」
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