24 『ミナトVSオウシあるいは勧誘』

「じゃあボクが審判しようかな。どうぞ、二人共並んで」


 ヒサシがつかつかと前に出てきてそう言った。

 ミナトはサツキの横に来て、


「借りるね」


 と竹刀を借りる。

 二人が向かい合うと、ヒサシは合図した。


「では、始め」


 オウシが力強く打ち込む。

 が、ミナトの光速の剣が乱れるや、サツキでさえ目で追うのがやっとの剣撃が繰り広げられた。サツキと玄内以外には見えてもいないだろう。それがたったの数太刀であり、その後、オウシがあっさりと突かれて、バタンと大きな音を立てて背中から倒れた。


「りゃりゃ! これはしたり。やっぱり強いな」

「いいえ。オウシさんが弱くなりました」

「で、あるか。て、そんなわけあるかい! お主は昔からだれにも負けん天才剣士であった」

「困ったなァ。そんな冗談みたいな剣で遊ばれちゃあ、かなわない。オウシさんに初めて勝ったのがこんな試合ではみんなに笑われてしまいます」


 サツキはオウシが使う魔法など知らないが、太刀筋だけでかなりの腕なのがわかる。ミナトが、サツキ相手には見せない本気を垣間見せたことは事実である。それでもどこまで本気だったのかはうかがい知れない。

 一方で、オウシに初めて勝ったという言葉からも、オウシが本気じゃないのもよくわかる。

 スモモはそれさえもわかった上で、「さすがだねえ、ミナトくん」と褒めた。

 オウシはがばりと起き上がってあぐらをかく。


「なあ、ミナト。わしは、乱世を終わらせようと思うておる!」


 今、晴和王国せいわおうこくは、新戦国時代と呼ばれる乱世である。梟雄たちが覇を競い合う知恵と力の時代。だが、そればかりじゃない。世界がうごめいている。争いが争いを呼び合うだろう。科学技術も進歩してゆくだろう。乱れた浮世が変わってゆく革命期が始まっているのだ。


「乱世の収束……?」


 ミナトが可愛らしく小首をかしげると、オウシは大仰にうなずいた。


「で、ある! 世界はこれから荒れる。動乱の時代になる。いや、もう片足は突っ込んでいる。それを正しい方向へ導くには、政治とともに武力が絶対的に必要になる。わしやトウリは国内での天下統一がメイン事業じゃ。たか水軍を率いる海軍の長はコジロウに任せることになろう。そして内陸共に、我が鷹不二の最高戦力となるべき人材が必須、ゆえにミナト、お主の剣が必要じゃ」

「つまり、ミナトに仲間になれと?」


 サツキが尋ねると、オウシは子供のように笑った。立ち上がってサツキの肩をぽんぽん叩いて、


「怖い顔しないでくれ。わしは昔の同士を集めて、晴和王国を統一する。世界も平和にする。それだけじゃ。ミナトをそのうちの一人にしたい」


 顔をミナトへ向け、サツキは答えを待った。

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