19 『波動の共鳴あるいは鷹不二水軍一軍艦』
オウシは「おう」とリラに答え、士衛組一同を見回して、堂々たる挨拶をした。
「わしこそが
文字だけならば偉そうな言葉だが、不思議とこの青年が言うと愛嬌がある。
『
年の頃は二十三歳。背は一七一センチ。腰に差した剣も位はわからないが業物の一振りと見えるし、かなりの剣客だとサツキにはわかる。青を基調とした袴姿に鮮やかなウルトラマリンのマントを羽織り、くせ毛に茶筅まげといった目立つ風貌をしている。
リラは、士衛組の仲間たちが挨拶するより先に質問していた。
「あの。それでは、あの船は……鷹不二水軍のみなさんのものですか?」
「そうじゃ」
「つまり、一軍艦……」
蒸気船が近づいてくると、そこに乗っている船員たちの顔ぶれがハッキリと見えるようになった。
「リラちゃーん! 久しぶりやねー」
うれしそうに手を振っているのは、リラが体調を崩したときに治療をしてくれた軍医であった。
リラも手を振り返す。
「ヤエさーん!」
と相手の名前を呼び返す。
船が並走を始めると、メガネの少年が最初に飛び移ってきた。そこから四人がやってくる。
嬉々とリラが挨拶した。
「ご無沙汰しています。お久しぶりですね」
「偶然だよねえ」
ハンサムな茶人がそう言うと、リラはヤエに「先日は本当にありがとうございました」と改めてお礼を述べた。「元気そうやね」とヤエも笑顔で応じる。
そして、リラは士衛組のみんなに鷹不二水軍について説明した。
「こちら、
「姉のクコです。妹がお世話になりました。ありがとうございます」
さっそくクコがお礼を述べてぺこりと頭を下げた。
続いて、リラが士衛組に手を向ける。
「そしてこちらが、わたくしの仲間、士衛組のみなさんです」
茶人がうんうんとうなずき、「なるほどねえ」となにかに納得する。
「じゃあ、士衛組さんより先に、うちから挨拶させてもらっていいかな?」
「はい。どうぞ、ヒサシさん」
リラが答えると、ヒサシと呼ばれた茶人が挨拶する。
「どうも。さて、一応もう一回言っておこうか。うちの大将はこの『波動使い』鷹不二桜士くん。武賀ノ国の国主だよ。で、操舵手なのにボクらといっしょに飛び移って来ちゃったこの子が大将の妹、『
「スモモです。よろしくお願いしますね! 士衛組のみなさん」
スモモは、年は今度十八歳になる。背は一六一センチ。黒い着物と桃色の袴に足元はブーツ。ミニハットが頭に乗っている。兄オウシ同様くせ毛で、顔立ちもよく似ている。兄妹そろって美形といえた。この家系は美形ぞろいなのである。
「まあ、船のほうは大丈夫なんだけどね。それ以外のメンバーはわざわざ言うほどでもないし、まずはボクから。ボクは、鷹不二氏五奉行兼黒袖大人衆の一人にして鷹不二水軍総長、『
口ぶりはさわやかなのに役職名が長く二つ名も多くて、それゆえか弁の立つ印象がある。茶人を思わせる衣装の割にスタイリッシュという言葉が似合う。背は高めで一七九センチほど、年は四十代前半、手には杖を持っている。
「次は『
「では、私が」
メガネを指で押さえ、少年は会釈した。
「はじめして。私は岡守三基と申します。参謀を務めています」
書生風の出で立ちで、手には扇子が握られている。大きく切れ長な瞳は怜悧な輝きを放っており、見ただけで、ヒサシとミツキの二人は特に切れ者だとわかる。背は一六五センチ。腰には業物八十振りの一つ、『
「はい、次。『
ヒサシが次の人物に目を移す。
「オウシ様の秘書をしております巴智花丸です。士衛組の皆様、どうぞよろしくお願いいたします」
この中で最年少になるチカマルは、リラたち参番隊より一つ年下で今年十一歳。身長もリラと変わらない。その愛らしい顔には常に微笑が浮かび、おかっぱ頭は初々しい。太刀はミツキ同様業物で、名を『
「次、『
「あたしはヤエ、軍医ばい。よろしくね」
ヤエは、年はオウシと変わらない。二十三歳になる。和装だがナース風味のある帽子をかぶり、髪は肩にかかる程度まで伸び、鼻筋が通った整った顔立ちをしている。背はオウシよりもわずかに高いだろうか。
「最後に、『
ヒサシが呼びかけると、ゴスケはひと言だけ。
「で、ごわす」
ゴスケは坊主頭の大柄な黒人で、身長二メートル以上はあるだろう。ガタイがよくたくましい筋肉が身体を覆っていた。
さらにリラが付け足すには。
「そして、一軍艦には副長のトウリさんと側近のウメノさんがいらっしゃいます。今日はごいっしょではないんですね」
「まあねえ。ごめんね、リラくん」
ヒサシは軽い調子で謝った。リラがトウリとウメノの二人と仲が良いと知っているからである。リラは慌てて、
「いいえ。謝っていただくことでは……」
「あのお方が留守を守ってくださるからこそ、我々は国を空けてこられています」
と、ミツキが敬意を込めて言った。
「その通りでございます。トウリ様とウメノ様は、いつもリラ様からのお手紙を楽しみにしておられますよ」
にこっとチカマルがそう言うと、リラにも笑みが浮かぶ。
「そうでしたか。わたくしは、あのお二人に出会えたからこそ、鷹不二氏のみなさんとも知り合うことができましたから」
思えば、リラが鷹不二氏とつながりを持てたのは、ひとえに王都で起きた様々な偶然が重なったからだった。
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