20 『株式会社あるいは正義の味方』

 せいおうこくの王都では、リラはクコを探してさまよっていた。

 いとこのナズナの家に行くだろうと予想し、自分もおと家に向かっていたが、その途中で怪しい陰陽師に出会った。彼は王都少女歌劇団を取り仕切る管理者であり、歌劇団のメンバーが一人怪我をしたから手伝って欲しいと持ちかけた。リラは迷ったが、彼についていって代役を務めることになり、そのせいでクコやナズナとはすれ違ってしまった。リラはシャルーヌ王国から晴和王国までワープしたから、それを知らないクコたちは待つことを考えもしなかった。

 しかしその結果、いざ王都を離れて、うらはまへ向かう折、ちょうど王都を訪れていたトウリとウメノに出会ったのである。

 こうした細かい人物描写までは聞いていなかったサツキとクコは、リラの旅については知っていても、リラがお世話になった相手の顔は初めて知った。

 クコが聞いた。


たかすいぐんとおっしゃってましたが、一軍艦というからには、戦闘のための船のメンバーということですか?」


 と、リラと一軍艦の面々を見比べる。

 これに答えのはヒサシだった。


「そうそう。鷹不二氏に仕える武士たちで組織した私設海軍が鷹不二水軍って言ってさ、貿易、運輸、政治などなんでも行うんだよね。投資って形で支援を受けて、利益でそれに還元するわけ。そんな中でも特に一軍艦はいろいろやるんだけど、こうやってたまには遠征もするんだよ」


 ヒサシの解説を受け、サツキはピンとくる。


 ――つまり、近代的な株式会社に類似した組織か。


 それに比べて、晴和王国の人間で鷹不二氏を知らない者はない。国主のオウシを顔まで知っているかはともかく、晴和王国は今のところ、二宮三十三国に分かれている。そのうちの一つ、くにでは、鷹不二氏が国主の家柄にあり、オウシは現在の当主であった。

 ただし、オウシの評価は未だ半々といったところで、なかなかの人物だと注目する者が半分、侮って馬鹿にしている者がもう半分だった。少し前までは『大うつけ』の二つ名で呼ばれていたくらいだから仕方ない。

 そんなオウシも、最近では晴和王国でもっとも大きな港町『世界の窓口』浦浜をおうみさきくにから交渉によって得た上、そのおうみさきくにと同盟まで締結させたとあって、ただ侮る者も少なくなった。少なくとも、オウシを不気味には思っている。

 そして、晴和人であるルカ、ナズナ、チナミ、玄内、フウサイ、ヒナはそのあたりのことまで理解していた。

 玄内に至っては、思うところもあった。


 ――つい先日……。しょうくに星降ほしふりむらにあるおれの別荘に、たかおうの双子の弟・たかとうが訪れた。そのことはこの場のだれも知らなそうだな。


 心の内で小さく笑う。


 ――まあ、それならあの一夜のことは、おれとあいつら二人だけの秘密にしておくとするか。あの『ほほみのさいしょう』とは馬が合って、話が弾んで互いにいろいろとしゃべっちまったしな。


 互いに相手がリラとつながりがあることまで会話の端々から推測して、しかもそれが友好的な関係だと読み切る、和やかながら楽しい腹の探り合いをしていたのだ。玄内もトウリも、互いにこのときの邂逅はそれぞれの仲間内にも報せていない。ちょうど、玄内がガンダス共和国に到着した日の晩のことであった。

 クコは「なるほど、そうでしたか」とにこやかに言った。


「では、今度はわたくしたち士衛組の番ですね」

「士衛組……」


 反応したのはミツキである。メガネがきらりと光る。


「わたくしたち士衛組は、正義の味方をしている組織です」

「個人の目的を持つ隊士もいますが、掲げている看板は正義の味方なのです」


 とリラも続けた。

 オウシはこの場にいる士衛組の隊士たちを見回して、サツキまで視線が泳いだところで、目を瞠った。


「……」


 サツキも見つめ返すと、


「で、あるか!」


 だれも言葉を発していないのに、うんとうなずいて、ひとり納得するオウシ。得体の知れない笑みでニッと口元をゆがめ、


「お主がここの隊長であるか。どうじゃ、いっしょに船旅でもせんか。船はいいぞい」


 どうしてわかったのか、とサツキは警戒する。だれもサツキが組のトップだとは言っていない。世間的にもソクラナ共和国での盗賊退治の活躍でさえ局長がだれかは新聞でも記されていない。士衛組を代表して挨拶していたのもクコである。だが、その警戒も、オウシの圧倒的な奇妙さを前にすると無駄に思えて、小さく微笑んでいた。


「俺は士衛組局長、しろさつきです。少し、船旅もお付き合いいたします。あなたのお話というのもうかがいたい」



 のちにこの乱世を終わらせる英雄、たかおう

 この若者と出会ったのは、サツキにとってはひとつの運命でもあった。

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