15 『産業革命あるいは文明開化』
「なるほどな」
サツキからの細かな報告を聞いて、玄内も自分たちの旅を話した。
弐番隊の三人とチナミは、一度敵と戦った以外にはなにもなく、倒した敵は放置したそうだ。また、バンジョーの言っていた怪人は確かに存在したらしく、それがアルブレア王国騎士だと玄内が言ったときには面食らった。
アルブレア王国騎士は、最初にサツキが戦ったバスタークのような正攻法のバトルを得意とする
「その《なぞなぞ
「いや。それに関しては不要かと思ってな。命も奪わず、生かしておいた。
渋くてダンディズムあふれる玄内のかっこよさに、サツキも思わず憧れの視線を向ける。自分もこんなことを言える大人になりたいと思った。
「弐番隊の教育はお任せします」
うなずき、玄内はあごをさする。
「しかし、リラは使える」
「ええ」
「今後の世界における、戦闘の概念を変える可能性すらある。《着ぐるみチャック》じゃなく、《
先日の戦術とは、メイルパルト王国で戦ったときのものである。地下迷宮の最奥、ラドリフ神殿を目指して歩いていたサツキたちは、その途中、アルブレア王国騎士の追っ手に気づいた。フウサイが偵察によって報せてくれてからわずかな時間で、サツキはリラに城を築かせた。リラの魔法《
現在は個人の魔法の力が強すぎるため、武器以上に魔法を重視する戦闘も多い。
だが、《
そうした論理や科学を集団戦術に取り入れた戦いが増えると、調略や集団戦、地形を含めた大局的な戦いでないと歯が立たなくなる。この世界においても、個人技よりもそれらに重きが置かれるようになるだろう。玄内はそうみていた。
「ただ、魔法だけであそこまでできるようになるには、生半可な努力では無理でしょう」
「だな。リラによって個人の武勇よりも創造性が重視され、そしてそれを、魔法ではなく科学に転用させる者が増える。科学研究が進んだとき――」
サツキはうなずいた。
「はい。世界は、産業革命を起こす」
「産業革命、ひいては文化革命もな。その足音が聞こえている者はほぼいなかろうが、世界はすでに動乱の時代を迎えているし、あと十年以内に新時代が幕を開けるのだろうぜ」
「俺もそう思います」
おそらく、サツキのいた世界に近づくだろう。あるいは、蒸気機関を中心としたスチームパンクのような世界になるかもしれないともサツキは思っていた。ガンダス共和国への船旅で、この世界が選ぶ未来にその可能性があると感じたのである。
「前に、旅客船『アークトゥルス号』をエミさんが飛行船に変貌させたとき、そのデザインはスチームパンク的なものでした。先生は、俺のいた世界のイメージとスチームパンクの世界、どちらに世界が舵を切ると思いますか?」
「あのときも言ったが、未来視はできない。詳しくは話せないが、おれには物事の善し悪しがわかる程度だと思っておけばいい。未来ってのは不確かなものだからな。だが、おれも蒸気機関の世界のほうが可能性が高いとみている。この先、辿る未来はいくつもの可能性を秘めている。おまえがブロッキニオ大臣に勝つ可能性も、負ける可能性も。おまえが生きて向こうの世界に戻る可能性も、死ぬ可能性も。どこを進んでも通過するポイントってのもあるが、道は無限にある。おまえの胸にだけ留めておいてもらいたいことだが、おまえとブロッキニオ大臣の戦いは、魔法と科学の未来を決める分岐点の一つでもある。それも、史上最大の分岐点だ。結局、魔法が破壊され駆逐されたとしたら、未来なんぞどうなるのかもわからないがな」
「そうですか」
「まあ、産業革命より先に、動乱の世が創る新時代は、もう片足を突っ込んでる。おれたちは、その時代を駆け抜けなきゃなんねえ」
「はい」
ここでのサツキと玄内の会話は、大きな意味を持つことになる。
事実、世界規模の動乱の時代はサツキがこの世界にやってきた頃には小さな産声を上げており、晴和王国では新戦国時代が熟してきて役者がそろい出し、アルブレア王国では革命前夜の静けさが漂い、今まさに、巨大な風雲が起ころうとするところであった。
こんなときに、時代は英雄と幾多の革命家を産み落とす。さらにあまたの人傑才人が登場する。
サツキがその翌日に出会ったのは、これからの時代で、のちにもっとも名を上げる最高の英雄だった。
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