5 『世界の崩壊あるいは成り立ち』
ルカとサツキしか状況を把握できないのにたまりかね、シャハルバードが言った。
「とりあえず、順番に教えてくれないか。サツキくんが異世界人だってことは聞いたが、それも関係のある話なんだろう?」
サツキはルカを一瞥する。
「ルカ、頼めるか」
「ええ。一応、ここから言うことは仮説としておきます。まず、サツキの世界には、世界大戦があった。それがサツキの生きている時代までに何度あったかはわからないけど、九回以内。そしてサツキは3033年より前の時代を生きていた。本人が今言ったように、2000年代ね」
「おいらたちも今1600年代を生きてるよ」
と、アリがあっけらかんとした笑顔で口を挟む。
「私たちの生きているこの
「そっか。
「ええ」とルカがうなずくと、サツキが「俺の世界では
「おう、西暦っていうのか」
アリは楽しそうだ。ナディラザードは頭を使うことが苦手なのか、すでに苦い顔をしている。ルカはそれを無視して、
「で、サツキはその3033年より前の時代を生きていたことになるの」
「俺が生きていたのは、ざっとその千年ほど前だな」
「とすると、サツキたちの生きていた世界とこの世界が同じ線上に存在しているとするなら、サツキは過去から未来に来たというわけね。しかも、私たちよりずっと高度な科学文明を生きていた時代から、ね」
「うむ」
サツキはうなずきつつも、「まだわかったことがあるよな?」とルカに目で問い、ルカもうなずき返す。ルカが話を続けようとすると、クコが首をひねって聞いた。
「あら? でも、サツキ様は眠りの中にいるとき、博士の呼びかけでわたしたちの世界に来たと言ってましたよね?」
「それが次元転換装置、つまりタイムマシンだったってことでしょ。別の世界という壁ではなく、時間と空間に働きかけたのよ」
「だろうな」
と、ルカの言葉にサツキが同意した。
ルカはサツキと目を合わせてからしゃべり出す。
「最後に、引っかかったのは『芸術の塔』《ARTS》ね。これは、和国にしかないと言っていたわ」
「和国って、晴和……ですか?」
おずおずとナズナが聞いた。
これはここにいるだれもが察することができた。だからサツキはナズナに答えて、
「おそらくそうだ。俺のいた世界では、日本という。よく『和』という字を使って日本を表したんだが、もし和国が晴和王国を指すとすれば――」
と、サツキはクコを見据え、
「『芸術の塔』《ARTS》は、すなわち――《世界樹》となる」
クコは口を押さえた。
「え」
「ちょっと突拍子もないんじゃないか? 《世界樹》は塔じゃない。木だ」
クリフが冷静に反論してみせるが、ルカは落ち着いた姿勢で言う。
「そう。突拍子もない。あくまで可能性の話です。ただ、可能性の話でも、情報の共有は大事です」
サツキは表情を変えず、
「とはいえ、俺が異世界に来てしまっただけかもしれないけどな。俺が気づいた点は以上だ」
そこで言葉を切って、リラに翻訳の礼を言った。
「ありがとう、リラ。おかげでいろいろわかった」
「お役に立ててリラもうれしいです」
リラの言葉から数秒の沈黙のあと。
「そうか。ありがとう。そんなことまで教えてくれて」
自分なりにこの話を咀嚼し、シャハルバードは穏やかな微笑みで言った。
そのとき、サツキは人の気配に神経をとがらせた。それはシャハルバードもそうで、目が合う。
「近づく者があるね」
「はい」
クコは困ったように、
「敵、でしょうか?」
と一同を見る。
しかし、フウサイの声がそれを否定した。
「違うようでござる。それどころか……」
余裕のあるフウサイの声色に、サツキたちはこの空間への入口へと目を移す。
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