6 『二人の珍客あるいは偶然の連続』
フウサイの警戒が解けたことで、サツキもその必要がないと悟った。
すると、とびっきり明るい声が静かな歴史的空間に響き渡った。
「やっとついたー!」
「とうちゃーく!」
聞き慣れた男女の声は、「ばんざーい!」と両手をあげて喜びを表す。サツキは予想外の珍客にすっかり心がほぐれていた。
「ばんざーい!」
「ばんざーい!」
「ばんざー……あれ?」
「ばんざー……うわぁ!」
二人は軽快な足取りで駆け寄ってきた。
「サツキくん! こんなところでなにやってんのさー?」
「クコちゃんってばシャハルバードさんといっしょかぁ! あ、リラちゃんもいるー! おーい!」
「アキさん! エミさん!」
クコが驚きの声を上げる。
まさか、こんな迷宮の奥にまでやってきたのが、この二人だと思わなかった。
サツキにとっては、この世界にやってきてクコ以外で初めてできた友だちである。クコに召喚された翌朝、
そんなアキとエミを知っていたのは、サツキとクコだけじゃない。リラもだった。だから、リラはクコとあの二人を見比べてしまう。
「お姉様、アキさんエミさんとお知り合いだったんですか?」
「はい! バンジョーさんと
二人の会話を聞き、アキとエミは笑っている。
「あはは。クコちゃんとリラちゃんが知り合いだったなんて、ボクらも驚いたよ」
「言ってくれたらよかったのにね! て、あれれ? 今、お姉様って言わなかった?」
「うん。言った気がする」
「まさか、それって」
クコはうなずいた。
「はい。わたしが探していた妹は、リラだったんです」
「えぇぇぇぇぇ!」
とアキとエミは大げさなほどにびっくり仰天していた。
リラはつい噴き出してしまう。
「ふふ。おもしろい偶然もあるものですね」
「はい。旅は偶然の連続なんですよ、リラ」
と、クコは楽しそうだった。
サツキは友との再会をうれしく思いながらも、気になったことを聞いた。
「お久しぶりです。俺たちは碑文を読むために来たんですが、お二人はなんのためにここまで?」
「そうそう。ボクらは写真を撮りに来たんだ」
「いっぱい撮ろうと思ってね」
「今朝はスラズ運河でいい朝日も撮れたし、気合入ってるんだよ」
「ね! アタシたち急いでここまで来たんだから!」
ルカは首をひねる。
「スラズ運河って、一日でも来られる距離だけれど、ちょっと遠くないですか? 朝日を見てからここまで来るのは難しいわ」
「送ってもらったんだ」
「ピラミッドの中は魔法道具でショートカットしちゃった」
えへ、とエミはさわやかにウインクしてみせる。
適当な説明に、サツキもつい笑ってしまう。
――この二人ならなんでもありに思えるから不思議だ。ワープできる魔法の使い手とかに送ってもらい、魔法道具もちょうどいいものがあったのかもな。
少し前。
アキとエミは、ピラミッドの入口にいた。
「ここからは迷宮なんだって。どうやって進む? アキ」
エミの問いにも、アキはからっと笑ってみせる。
「迷ったら《
「そうだね! そーれ、なんか出てこーい」
にこにことエミが《
すると、トロッコが出てきた。二人は顔を見合わせて、ニッと笑う。そして、声をそろえて言った。
「ラドリフ神殿まで連れてって」
二人の声に反応し、トロッコの先に線路が引かれてゆく。
「行っくぞー!」
エミが意気込んで乗り込み、アキも飛び乗ってビシッと指差した。
「しゅっぱーつ!」
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