52 『花火とスカーラ広場』
イストリア王国。
首都マノーラ。
石造りの白い階段が円状に広がり、その下に広場の中心があった。
白い大階段を背にしたここは、スカーラ広場。
周囲にはジェラートの屋台があり、アコーディオン奏者が優雅な音色を鳴らし、道行く人々が明るい笑顔で挨拶を交わし合う。大階段には座っている人も多くいる。噴水の水も美しい。
この広場に、二人の青年が降り立った。
なんの前触れもなく、なんの脈絡もなく、突如として出現したのである。
「やっぱりジェラートだなもね、ここに来たら」
「やっとマノーラに来てそれかよ」
「そんなこと言って、トオルもちゃっかり買ってるだなも」
「どんなもんか味見だよ。綺麗な街だし観光も悪くないが……」
「だなも。むしろ商売にちょうどいい。観光客を取り込むだなもよ。やっと来ました観光地、またちょっと針でも売って資金にするだなも」
「ああ。やるぞ、キミヨシ」
二人の青年が降り立った場所のほんの二メートル後ろから、そんな会話が聞こえてくる。
ちらっと首だけ後ろを振り返り、やや長めの金髪とその髪の間から覗くイヤリングを揺らせて、青年は微笑を浮かべる。
「今度はぶつからなくてよかったな、ロメオ」
「あと少しズレていたら、また
頭にゴーグルをつけ、前髪を逆立てたグレーの髪色をした青年が答えた。
「サツキくんは元気かな?」
「レオーネが《
「それはそうなんだけどさ、頑張り過ぎるところがありそうだからね」
二人は、共に身長は一七五センチ程度で、この町を拠点に生活する組織『
金髪の青年が『千の魔法を持つ者』
ゴーグルの青年が『無敗の総督』
レオーネは手に持ったカードをしまう。
「本当はルーチェに送ってもらえたらよかったんだけど、あいにく晴和王国まで行くそうだからな。《
「しかし、ヴァレンさんも面倒見がいい」
「それは、きっとあの二人のためだろう。彼らはおもしろい。いつ会ってもね」
「『トリックスター』。アキさんとエミさんか」
ロメオも、その名を口にすると微笑みが浮かぶ。
レオーネは肩にかけた上着を風になびかせ、空に向かってカードを一枚投げる。
「なあ、ロメオ。この世界は退屈しないな。あんな不思議な二人もいれば、サツキくんのようなどこか人を惹きつける人もいる。事件も絶えない。アルブレア王国は革命を控えた喧噪と静けさを同時に抱え、お隣のシャルーヌ王国では怪盗が闇夜を駆け世間を賑わせる。そして、ここイストリア王国では、地動説を唱える
「ヴァレンさんは革命家だから、地動説を推すだろう。ワタシは真実を知ることができたらうれしい」
「オレもだ。そして……」
宙を舞うカードが、広場上空で弾けて花火を作った。
周囲にいた人々はなにが起きたのかと空を見上げる。
すでにレオーネとロメオは歩き出しており、言葉を続けた。
「そして……オレは待ってる。
「彼らも来るといいな。鷹不二水軍ということなら、ワタシは尊敬するあの方に会いたい」
「きっと来るさ。彼らになにがあっても。すべての道はマノーラに通ず。オレの占いでは、みんなが集まるのだからね。まあ、ロメオの敬愛する『
魔法による占いで、レオーネはそんな結果を受けていた。
二人の姿は、賑やかになる広場の人ごみにまぎれて消えてゆく。
そこで、猿顔の晴和人が振り返った。
しかし、もうそのコンビの姿は見えない。
「うきゃきゃ。いいコンビがいたものだなもね」
太陽のような笑顔を持つ青年『太陽ノ子』
「シャハルバードさんと出会って眼力が鍛えられたのかしら、我が輩には今の瞬間移動して花火を打ち上げたあの二人組にシンパシーを感じただなも」
「ろくに会話も聞こえなかったが、ただ者ではなかったな。オレらより一つか二つ上ってところか」
「トオル。我が輩たちは急ぐ旅にある。やることも山のように多く、なすべき努力もまた多い。『ガンダスの風』シャハルバードさんに言われた通り、我が輩なんかは並大抵の努力ではいけないから、人の三倍努力して人の三倍頭を使う必要があるだなも。運がうなぎ登りに上向きになるまで、今はまだ辛抱のとき。だから裁判も見ずに明後日には旅立つだなもよ」
「元よりその予定だ。さっさとアルブレア王国に乗り込むぞ」
「だなも。再会するなら、きっとそこで。協力も惜しまない。リラちゃんとその仲間たち……名前を確か、
この二日後、キミヨシとトオルはイストリア王国マノーラを旅立った。
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