47 『小槌と宝箱』

画工の乙姫イラストレーター』リラの築いた城。

 その天守閣では、ルカが騎士を一人倒したところである。三本の刀剣と槍をコントロールして、《思念操作》だけでなんとか相手を倒せた。


 ――やっと詰ませた。割と手こずったわね。他の戦況も見ながらだったから余計だわ。でも、いい修業になった。


 そんなルカの横では、リラとナズナが控えていた。二人は相談する。


「ナズナちゃん。あのスティスちゃんとも戦おう」

「スティスちゃん、戦う様子じゃないよ?」

「でもね、ナズナちゃんの《勇気ノ歌》の効果も永遠じゃないでしょ。そう長くない。スティスちゃんの魔法も、いずれ効果が消える瞬間が来る。だから、また強化させないためにも、リラたちで戦ったほうがいいと思うの」


 そんなリラの計算を横で聞いていたルカが、口を挟む。


「無理はしなくていいわよ。私がやってもいいわ」


 ルカはリラには甘いためそう言ってくれるが、リラは首を横に振った。


「いいえ。ルカさんはサツキ様やお姉様になにかあれば、そのとき迅速助けられる準備をお願いします」

「わかったわ。リラ、たくましくなったわね」


 不意に褒められ、リラは頬を赤らめる。


「きっと、旅をしたおかげです」


 自分でも実感があったし、否定はしなかった。


 ――旅を始めて、ヴァレンさんとルーチェさんに出会って、リョウメイさんにアサリさん、スダレさんたち歌劇団の方たちと出会い、トウリさんとウメノさんと出会い、オウシさんやヤエさんたち武賀むがくにの方たちにも出会い、キミヨシさんとトオルさんには本当に長らくお世話になって、せんしょうほうさんやとんぱいぱいさん、シャハルバードさん、ナディラザードさん、クリフさん、アリさん。そして、アキさんとエミさん。本当にたくさんの方に助けられて、リラも成長してきたんだ。自分で自分を褒めたいくらい。だけど、それ以上に、みんながリラを強くしてくれたって思ってるの。


 出会った人たちの顔を思い浮かべると、リラは勇気が湧いてきた。


「やろう、ナズナちゃん」

「うん!」


 リラの気持ちが伝播して、ナズナは力強くうなずいた。


「作戦は、どうしよう?」


 ナズナに聞かれて、リラはにこっと微笑む。


「考えがあるんだ。いっしょにやってくれる?」

「もちろんだよ」


 にこっと、ナズナも微笑みを返した。



 さっそく、リラとナズナは準備を始めた。

 再び《取り出す絵本》から筆を取り出し、手に持つ。


「リルラリラ~」


 鼻歌交じりにリラはすらすらと絵を描いてゆく。クマの人形だった。テディベアのキャラクターである。テディボーイが実体化される。


「できた。リラが好きなキャラクターの『テディボーイ』だよ」

「じょうずだね。かわいい」


 ちょうど、ナズナも浦浜のお土産にテディボーイのハンカチをリラにあげたばかりだ。リラと再会した一昨日の晩、ハンカチを喜んでくれた。くじで当てたハンカチで、本当は大きなぬいぐるみをあげたかった。リラが今、魔法によって描いたのは、あれよりも小さいぬいぐるみだった。

 可愛さにナズナも拍手するが、ふと首をかしげた。


「あれ? これで、戦うの?」


 目的は、スティスと戦うことだ。

 このままではまだ小さなぬいぐるみでしかない。ぬいぐるみがどうやって戦うのだろうか。リラにはほかに魔法があるのだろうか。

 そんなことを考えていると、リラはまた絵本から物を取り出した。今度は二つ。《うちづち》と《着ぐるみチャック》である。

 二つとも、仙晶法師にもらった魔法道具だった。


「ナズナちゃん、見ててね」

「うん」

「まず、《打出ノ小槌》さん、お願いします。おおきくなーれ、おおきくなーれっ」


 小さかったテディボーイのぬいぐるみが、ルカよりも大きいサイズになった。身長はシャハルバードくらいあるだろうか。リラはそのテディボーイにチャックを取りつける。


「これは《着ぐるみチャック》。この中に入れるんだ。それに、元が可動する物であれば、動かせるの」

「すごいチャックだね」

「機能は、チャックを取りつけた物と同じになるんだけど、テディボーイは力持ちだから、このぬいぐるみに入れば……」

「力持ちに、なれるんだね」

「うん」


 うなずくが、リラはちょっと考える。


「あと、なにか一つ工夫があればいいんだけど。スティスちゃんがいるところまで、戦場を駆け抜けるためのなにかが……」


 このまま戦場に降り立つと、クコやサツキの戦いの邪魔をしてしまう。マルコ騎士団長は城からは遠い場所でサツキと戦っているし、スティスはその奥でみんなの戦いを見守っている。

 どうにかスティスとの距離を埋めたい。それも、戦闘中のクコとサツキの邪魔をしてないで。


「なにか……」

「なにか出てこないかな」


 と、リラは小槌を振るように下ろした。

 すると、目の前に、宝箱が現れた。


「あら? た、宝箱?」


 一体全体、どうして急に宝箱が出現したのか、リラにもナズナにもわからなかった。なにかきっかけがあっただろうか。そして、これはなんなのか。


「なんだろうね……」

「あ、開けてみる?」

「リラちゃん、大丈夫?」

「わからない。でも、開けよっか。モノは試しって言うしね」

「そうだね」


 二人が警戒しながらも宝箱を開けようと試みる。

 その横では、ルカが思考を巡らせていた。


 ――小槌を振ったら、物が出てきた。その効果は、エミさんが持ってる《打出ノ小槌》と同じだわ。物を大きくする効果もそう。まさか……。


 リラが宝箱を開けると、中からはピカァっとまばゆいばかりの光があふれてくる。

 しかし、ナズナは薄く目を開けて、


「なんにも、ないよ?」

「光だけで、空っぽ?」

「いいえ」


 そう言ったのは、ルカである。


「ルカさん。なにか知ってるんですか?」

「この宝箱は、中に入れば、この視界にある範囲の場所なら好きなところにワープできるものなの。つまり、ワープ装置よ」

「じゃあ、ここに入ればスティスちゃんのところに……」

「ええ。リラ、その小槌は私の知り合いの物とほぼ同じ効果を持つ。あとで説明してあげる。でも、今は――」


 リラは力強く言った。


「はい。そうですね。戦わないといけません」

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