40 『スティスとガラガラ』
舞台を踊る役者は二十名。
サツキ陣営では十人が臨戦態勢を取り、マルコ側はハントする獣の目で行動を開始する。先のサツキの売り言葉に、マルコは買い言葉で応じた。
「生意気な悪童め! 聞いていた通りのバラガキだな! 『
口はそう言いつつも、サツキへの怒りなどはなさそうである。サツキから見ても、思った以上に冷静だった。
――これは手強そうだ。
サツキがそう思ったのも無理はない。
戦う勢いを強く持ちながら頭脳が冷静な者は、一筋縄ではいかない。
「その小芝居に乗ってやろうじゃないか。進撃!」
仲間に呼びかけた『ランプの主人』マルコ。
「おう」
と『ミイラ男』サーミフが叫び、騎士たちは一斉に駆け出した。
「ん」
メイド服のプリシラだけは小さな声で返事をしてクコめがけて走り出す。
サツキは薄い微笑で答える。
「ようこそ」
――せっかくリラが創造したこの舞台、ヘタな芝居は打ってくれるなよ?
桜丸の柄に手をかける。鯉口を切った。
最初に、速攻で『天空の歌姫』ナズナが魔法を発動させた。
「らららー」
《
だが、向こうも一手目が速い。
「《ガラガラ》」
と、ナズナと同い年の少女スティスが、手に持っていた楽器を鳴らした。子供をあやすためのがらがらのようなもので、それをマラカスのように振ると音が鳴る。
「みーんな強くなっちゃえ!」
サツキはその言葉の意味を即座に理解する。
――ナズナの魔法と同じか。スティスの言葉を率直に読み取ると、単純な能力アップ系の魔法。おそらく、戦闘における有効性を考えれば、ナズナと同じく味方のみを強くするもの。
ただし、能力アップする分野や範囲の詳細がわからない。
――まあ、系統も、こちらと同じで筋力やら魔力といったところだろう。敵に使われると迷惑な魔法だ。
どおりであんな子供が戦闘に参加しているわけである。
自分もあの少女スティスと一つしか違わないのに、そんなことを考えるサツキであった。
ひとまず、《緋色ノ魔眼》を発動して魔力の増幅率を見る。
――やはり魔力は増強されている。筋力も。
サツキはそこまでを手早く処理してから、司令を飛ばした。
「相手は、能力アップ系の魔法を使いました。魔力は増強され、筋力も高まっています。物理攻撃、魔法共に気をつけてください」
これにもみなが返事をした。
両軍の距離が縮まる。
マルコ騎士団長たちがサツキ陣営に侵入してきた。
地形は、ここまでの道とは異なる石畳である。これを敷いたのがリラであり、敵陣より自陣がやや低くなっている。
誘い受けするには、相手にとって仕掛けやすくなければならない。
それも、視覚的にそうするのが効果的であり、早々に仕掛けてくれればその分だけ短期決戦に持ち込める。
このサツキの読みと計算は、すでに大方当たっている。スティスの魔法で能力アップしているマルコたちには、この傾斜は勢いをつける要素にすらなっていた。
そして、メインステージへの道は、絞られている。
こちらへ来るまでに道幅が狭くなり、また二又に別れさせた。これによってルカの攻撃が直撃しやすくなる。
「《
地面から大量の刀剣が飛び出す。
ルカの魔法攻撃《
一つ目の魔法、《お取り寄せ》によって、別の場所にある物を好きな場所に取り寄せることができる。ただし、取り寄せられる物は、自分の所有物か許可を得たものに限る。たとえば、今回出現させた武器なんかは、自分が保管している武器庫から自分の武器を大量に取り出しているということになる。
二つ目の魔法、《
《
「チッ! 『
そんなルカの異名もこの技から来ていた。
ルカは攻撃の手を緩めない。さらに、今度は正面からも刀剣を飛ばす。
騎士たちは、走る勢いが普段以上なため、まっすぐ走りやすくなり、攻撃もよけにくい。突っ込むような形になる。
騎士たちは、踊るように飛んでは下からの攻撃をよけ、正面からの刀剣をなぎ払う。ほとんど逃げ場のない中でそれを斬り下げて道を拓く技に、ルカは小さく感心した。
「やるわね」
ナズナは左手の親指と人差し指で、ピストルのような形を作る。
「《
左手に装着したアクセサリー、その手の甲の宝石が光り、ブレスレットから弓状になった羽が出現する。
光る魔法の矢を放つ。
「えいっ、《
魔法の矢は何本も降り注ぐ。
「ぬるい!」
しかしこれにやられたのは、たったの一人だけであり、
「《
ルカ二度目の《
マルコは思案する。
――敵陣深くに侵入成功。城の堅牢な守備以外に、トラップらしきものは見当たらない。背後にもトラップは見えない。一応の警戒は必要だが……いける。
「突撃!」
怜悧なマルコ騎士団長の指示に、七人は従った。
逆に、マルコはそこで足を止めた。
――遠距離型の戦闘スタイルか。それとも、警戒心によって深くまで来ないでいるだけか。
マルコを注意深く観察するサツキだが、味方への司令は忘れない。
「みなさん、いよいよです。それぞれ分担をお願いします」
「おう」
「はい」
みなが返事をして、サツキはクコにだけ小さく言った。
「やるぞ、クコ」
「はい」
サツキが待つメインステージにやってきた七人を、サツキたちが迎え撃つ。
先程築いた城の天守閣には、リラ、ナズナ、ルカだけがおり、それ以外は城を背に立っていた。
サツキたち七人が舞台上で接近戦を繰り広げようとしている。
マルコだけが敵陣奥で動きを止めたため、サツキはそちらまで行かねばならない。
――もし、マルコ騎士団長もスティスと同じく味方を補助・援護するタイプの魔法を使うとしたら、クコやシャハルバードさんたちの戦いの邪魔をされる。やはり、俺が出ていかないと。
シャハルバードが隣のクリフに声をかける。
「さあ、やろうか。クリフ」
「はい」
二人は騎士たちと剣戟を繰り広げる。
どちらも鮮やかなものだが、クリフは影の世界にいた人間の躍動であり、シャハルバードは華やかかつ力強い剣術を見せた。
サツキはシャハルバードの腕を見て微笑が浮かぶ。
――思った以上だ、シャハルバードさん。すごい。クリフさんも実力は並の騎士以上。
さて、と自分の敵対する相手の洞察をする。
――この傾斜の中、マルコ騎士団長は自制して動きを止め、あそこに留まっている。味方の援護を狙っている可能性もある。でも、俺を誘い出そうとしている可能性のほうが高いか。
なぜなら、マルコはサツキをやると宣言したからである。
――俺の戦いをしっかり見据えている場合、マルコ騎士団長は自分の戦いやすい、自分のもっとも得意なパターンに持ち込む気だ。周囲に味方を置かず、マルコ騎士団長自身が敵に邪魔されない形。だとすれば、広域的な攻撃手段を持っていることも考えられる。どちらの場合でも、冷静で強いのがわかる。本当はもう少し分析したかったが、行くか。
サツキは駆け出した。
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