25 『キミヨシとトオル』
場所は戻って、メイルパルト王国。
修業を終え、ベッドに入ったリラとナズナ。
同室の二人は、久しぶりに同い年のいとこ同士、二人だけでおしゃべりしたり楽しく過ごした。
「あ、そうだ。リラちゃん」
「なに? ナズナちゃん」
「お土産。浦浜の」
と、ナズナはクマのぬいぐるみのキャラクターが描かれたハンカチを渡した。
「わあ、可愛いっ! リラ、テディボーイ好きだからうれしい」
テディボーイは、テディベアがモチーフのキャラクターで、リラのお気に入りだった。それをナズナも知っていたのだ。
「浦浜でね、くじがあって、やってみたら、ハンカチだったんだよ。本当は、おっきいぬいぐるみ、あげたかったけど」
リラはハンカチも可愛いと喜んでいた。
実は、あの日の浦浜で、チナミがぺんぎんぼうやというキャラクターのくじをやったあと、ナズナもテディボーイのくじをやってみた。お土産に大きなぬいぐるみを当てたかったが、もらえたのはハンカチだったというわけである。
浦浜ではほかにも買い物をした。魔法道具にもなっているシール帳で、これをリラにも見せてあげる。
「これ、《マイシールアルバム》っていうんだよ」
「アルバム?」
リラが小首をかしげると、ナズナが教えてくれた。
「シール帳のね、ページを、このアルバムに押しつけると……ほら」
「あ。写った。転写されるんだね」
「うん。シールを……張り替えて、気に入ったのを、アルバムに残せるよ」
にこっと楽しそうに言うナズナに、リラは「可愛い魔法道具だね」と笑顔を返す。
「それでね、これが……わたしと、リラちゃんと、チナミちゃんだよ。参番隊、集合」
「わぁ、可愛い」
船旅の間、ナズナが張り替えて遊んでいたときに作ったページだった。
三人の女の子のシールにはリボンがつけられていたりと可愛く飾り付けられている。リラの反応を見て、ナズナはうれしそうだった。
そのあと、二人でシール帳を使ってケーキ屋さんごっこをして、ちょっぴり夜更かしした。
しかしさすがにナズナも目をしぱしぱさせて、「もう寝ようか」とリラが言うと、素直に「うん」と答えて眠ってしまった。
リラはベッドから窓の外を眺める。
星がキラキラ降り注ぐ。
「綺麗な星空……」
ふと、友の顔が浮かぶ。
「キミヨシさんとトオルさんも、こんな空を見てるかな……」
晴和王国にいる友人たちは、トウリとウメノ、王都にリョウメイやアサリたち歌劇団も、もう朝日の中にある。
だが、西へ進んだあの二人は違う。
――キミヨシさんとトオルさんには、本当にお世話になった。別れもさみしかったけど、なんだか、いつかまた会える予感はあるの。
リラが共に旅をしてきた二人の青年、『太陽ノ子』
共に今年二十歳になる二人だが、彼らとは晴和王国から四ヶ月、ずっといっしょだった。
晴和王国の浦浜で出会って、いっしょに船に乗り、嵐に遭って
だが、そんな二人とも別れの時は来る。
リラは、キミヨシとトオルとの別れの場面を思い出す。
あれは数日前、サリヤ共和国でのこと。
これからメイルパルト王国へと向かうことになるシャハルバードの幌馬車から、キミヨシとトオルは降りることになった。
「我が輩たちは、アルブレア王国へ行く身。本当ならアルブレア王国へ行く者同士、リラちゃんと旅は続けたかっただなも」
「だが、オレらの留学には下宿先のこともあって、ある程度の到着時期は決まってるんだ。悪いな」
「いいえ。晴和王国の浦浜で出会って、ここまでずっといっしょに旅をしてきて、リラはとっても楽しかったです。お二人のおかげです。キミヨシさん、トオルさん。本当にありがとうございました」
深々とお辞儀するリラに、キミヨシは顔をそむけて袖で目をごしごしこする。
「ほんとにおまえは。笑い上戸で泣き上戸、困ったやつだぜ。泣くな、キミヨシ」
「泣いてないだなもよ、トオル」
「ふふ。なんだか、リラまで泣きそう……」
と、リラの目の端には涙がたまる。
キミヨシはパチパチと自分の顔を叩き、ニッと笑顔を浮かべて右手を差し出した。
「リラちゃん! 我が輩たちはずっと友だちだなも。また絶対、会おうだなも」
「はい」
泣きそうになりながらもリラも笑顔を作って手を伸ばし、ぎゅっと握手した。
トオルは頭をかき、
「んな恥ずかしいこと、よくできるな。まったく」
キミヨシが、「ほら、トオルも」と言おうとするが、トオルはすでに右手を出していた。
「リラ。オレとキミヨシは、おまえを応援してる。なにかあるってんなら、隙を見てでも駆けつける。だから泣くな」
「はい」
リラはトオルとも握手する。またキミヨシの手も取り、リラは三つの手を重ねた。
「いつかまた、共に明日を描けるなら」
「ああ。望んだ場所で」
「互いが互いを支えるために、めぐり合おうだなも!」
そして、三人顔を見合わせて笑顔を浮かべる。キミヨシは満面の笑みであり、トオルはこわばっているが付き合いの長いリラにはわかる優しさがあり、リラはまだ振り切れないさみしさを隠せていたかわからない笑顔だったと思う。
――いつの日にか、必ずお会いしましょう。
メイルパルト王国、ファラナベルの宿の一室で、リラは二人にそう呼びかけていた。
自分の横で赤ん坊のようなふんわりした寝顔で寝息を立てているナズナを見やり、リラはどこか力強く微笑む。
「がんばるよ、リラは。まずは、明日……『歴史が眠る迷宮』ラドリフ神殿」
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