19 『バンジョーとなぞなぞ怪人』
一人クツクツと笑っているドナトを見て、バンジョーはもどかしそうに叫ぶ。
「おい! ルールはなんだってんだ!」
「オー! そうでした、ルール説明デース! ルールは簡単、『なぞなぞ
「……なると?」
「永遠にこの叡智の空間《なぞなぞワールド》に閉じ込められてしまいマース!」
「嘘だろ!?」
「嘘デース」
ズコッとこけて、バンジョーはドナトを指差して非難する。
「てめえ、まぎらわしい冗談言ってる場合かよ! 本当のことだけ言え」
「ルールについては本当のことだけ言いましょう。3問不正解になると、24時間この《なぞなぞワールド》に閉じ込められてしまいマース。その上、魔力をすべて失うのデース。魔力を回復するまで待てば、また魔法を使うこともできマース。ちなみに、なぞなぞ怪人であるワタシは、先に《なぞなぞワールド》から出られマース。ルールはこれだけ。アンダスタンド?」
「なるほどな。とにかく、3問正解すりゃあいいってことだろ? 楽勝じゃねえか」
「その自信、さすがデース」
――やはりミスターバンジョー、頭脳戦はお手の物デスか。しかし、ワタシの《なぞなぞ怪人》はただの頭脳戦ではありまセーン。
ドナトはバッと両手を広げた。
「では、始めマース!」
「おう!」
「第一問」
「なんだ」
「合いの手はいりまセーン」
またバンジョーはズコッとこけて、
「いいから問題を出せ!」
と叱りつけた。
ドナトはバンジョーの大声にも臆することなく飄々と出題する。
「アナタは、花束を二つ持っていマース」
バンジョーは自分の手を見て、
「持ってねえ」
「持っているとしマース」
「おう」
「ワタシが花束を三つ持っているとしマース。その場合、ワタシの持っている花束とアナタの持っている花束をすべて合わせたら、花束はいくつになりマスか?」
バンジョーは迷うことなく答えた。
「一つだ。合わせたら束は一つになる。それで?」
「正解デース」
ズコッとこけて、バンジョーはつっこむ。
「問題の途中じゃなかったのかよ!」
「やはりミスターバンジョー、アナタには易しすぎる問題のようデース」
「まあ、正解したならいいぜ。次だ」
「焦らなくても問題は用意してありマース」
ドナトは次の問題を出す。
「第二問。リンゴとオレンジとチェリーを載せた馬車が九十度の急カーブを曲がるとき、なにかを落としてしまいマース。なにを落とすでしょう?」
バンジョーはあまり考える素振りは見せないが、少しだけ間を置いて答えた。
「スピードだ。さすがのスペシャルでも、少しはスピードを落とす。でも、荷物を落としたことがねえんだ」
へへっと笑うバンジョーを見て、ドナトにも笑みが浮かぶ。
「正解デース。油断なりまセン」
まさかこれほどまでの瞬発力でバンジョーが答えてくるとは、さすがのドナトも思わなかった。しかしドナトはそれがうれしい。
――ミスターバンジョー。そうでなくてはおもしろくありまセーン。これら二つの問題は、いわば思考の柔軟性を試すモノ。彼には失礼な腕試しだったようデース。
ドナトが目をみはると、バンジョーは腰に手を当ててバカ笑いをしている。
「料理バカのオレにでもわかる楽勝な問題だったぜ! なはははは」
「フフン」
と、バンジョーを観察した。
――どうやら、ワタシを挑発していマース。わざとおバカさんを装った笑い方をすることで、ワタシを揺さぶり平常心をかき乱すつもりデース。しかし、ワタシが平常心を維持して問題を出しても、また即解かれてしまいマース。おそらく彼は、さらに裏を読んで、ワタシに平常心でいることを強要するつもりデース。務めて平常心になることは、いつもの自分を取り戻すことでもありマース。そして、平常心であることに安心したワタシが、彼への傾向と対策を考えずに普通に普通のなぞなぞを出すことを狙っていマース。
そこまでは読めた。
ドナトはバンジョーの期待通りを演じるように平常心をわざわざわかりやすく顔と声で表現して、
「出題を続けマース」
「次が最後だな!」
「最後とは限りまセーン。間違えたら、まだまだ続きマース」
「ヘッ! また正解してやるぜ」
あえてなのか、まだ頭が空っぽなさっぱりした顔で応じるバンジョー。拳を握り、気合を入れる。
「来いよ、うおおおお!」
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