13 『チナミと数独』
そのあと、サツキはナズナの魔法もみせてもらうことになった。
この時間、遠く離れた地で、チナミは紙を広げていた。ひざをついて左手もつき、小柄なチナミだと小さな子供がお絵かきをしているような恰好になる。
「むむぅ」
しかしやっているのはお絵かきではない。真剣な顔で、九かける九のマス目に数字を入れている。
弐番隊の三人とチナミは、タルサ共和国の港町・マリノフを目指して旅をしている。メイルパルト王国へ行ってリラと合流する組に先行してタルサ共和国へ行き、チナミの祖父・海老川博士に話を通しておくためである。
四人は現在、タルサ共和国に入ったところだった。国境を越え、街を一つ過ぎた森の中にいる。今夜は森の中で一晩明かすことになる。
バンジョーがつくった夕飯を食べ終えたあと、おのおのが休息していた。
「なにしてるの? チナミちゃん」
一生懸命になにかを書いているチナミにヒナが声をかける。
「数独です」
「すーどく?」
首をかしげて目をぱちくりさせるヒナ。
チナミは説明する。
「前に、サツキさんに教えてもらいました。サツキさんが元いた世界の頭脳ゲームだそうです」
「へえ、サツキの世界の遊びか」
「はい」
「ねえ、どんな遊びなの? 教えてよー」
「頭を使うんですよ。ヒナさんにわかるんですか?」
「わかるもんっ。チナミちゃんと将棋だってやるし、囲碁はあたしのほうが強いでしょ? だから教えてよチナミちゃんっ」
ほっぺたをふくらませるヒナを見て、チナミは小さく笑ってうなずく。
「これを使って説明しますね」
と、チナミは淡々と説明を始めた。
話を聞きながら、数字に強いヒナはすらすら理解して、マスの数字を当てていく。
「なるほどね。おもしろいじゃん」
「さすがヒナさんですね」
サツキや玄内と天体観測と研究をして、地動説証明に向け頑張っているヒナには、こうした論理的な問題は難しいものではないのかもしれない。物理学にも通じているし、数独のコツのつかんできている。
横でチナミはそれを見ていたのだが、結局ヒナは途中で根をあげた。
「うーっ、なんか疲れたよぉー」
「もうちょっとじっくり考えたらどうですか? 囲碁や星の話ならどこまでもじっくり考えられるのに……」
チナミが呆れたようにつぶやくと、ヒナは口先をとがらせて、
「だって、星の話は飽きないんだもん。碁は経験でそれがふつうなの。あたしは『
「そうですね。そこがおもしろいところです。まあ、私はメモもいいと思いますが」
昔から、ヒナはチナミが詰め将棋をいっしょにやろうと言っても、面倒になって投げ出してしまう。好きなことにはヘトヘトになるまで頭を使ってもまだまだ頑張れるのに、そうじゃないと諦めも早かった。
だから、ヒナは一旦チナミとの数独をやめてしまった。
チナミはそのあとも黙々と数独パズルをつくる。
――今度会ったら、サツキさん驚くかな?
実はもう、ここ数日でサツキに解いてもらう用の数独パズルを二つもつくっていた。普段からつくったら互いに交換して解くき合うのがサツキとチナミの遊びだった。サツキが自分のつくった数独パズルをやる姿を想像すると、楽しくなってくる。チナミは声にならないにこにこした笑顔で、「ふふ」とうれしそうに数独パズルをつくっていく。
その隣では、ヒナが空を見上げていた。
――サツキも、この星空を見てるのかな……。
サツキは、メイルパルト王国の砂漠から見えた星空を、あとで教えてくれると言っていた。ヒナは、砂漠の星空に思いを馳せてみる。
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