6 『合流と再会』

 サツキは、クコとルカに合流した。

 リラを連れていることに、二人もすぐに気づく。

 クコは大きな笑顔でリラに駆け寄って抱きついた。


「リラっ! 無事でよかったです! よくここまで来てくれました!」

「お姉様こそ。リラは再会できてうれしいです」

「わたしもうれしいですよ、リラ」


 肩に手をやって、クコがリラを見つめる。

 リラはその顔を見て、


「ふふ。お姉様、よいお顔になられましたね」


 と微笑み、目に涙を溜めた。

 リラには少しばかり涙もろいところがあり、力強く立つクコの姿を見ると、なぜだか涙が浮かびあがる。姉妹だけに通じる特殊な感覚で、これまでの旅の苦労や心の成長などが、どうしても伝わってくるらしい。ずっと心を通わせ合うテレパシーの魔法の練習をともにしていたせいもあるかもしれない。


「まあ。リラったら、そんなことまでわかるんですか?」


 そんなリラとは反対に、クコは再会の喜びが勝っている。クコの朗らかで楽しそうな笑顔に、リラも目の端に浮かんだ涙がからりと明るく乾く思いがする。


「ええ。わかりますよ」


 それから、リラはルカに顔を向けて挨拶した。


「ルカさんも、お久しぶりです」


 ルカの顔からはクールな無表情がふっとほどかれて、目元には優しさが浮かんでいる。


「本当に、久しぶりね。顔色もよさそうね、リラ」

「はい。わたくし、元気いっぱいです!」


 わざと明るい声で、リラは言ってみせる。この少女のくせで、身体が弱いからよく周りに気遣われるため、そういったときには必要以上に笑顔になってしまうのだ。実際、今は気力も体力も充実していたから、笑顔もきらきらと輝かんばかりである。


 ――この健康も、トウリさんと出会えたことが大きいように思う。《へんそう》でリラの体力を増やしてくださったおかげだわ。


 この波瀾万丈な旅の中でも、武賀むがくにの青年・たかとうとの出会いは特別だった。

 なんといっても体力がついた。

 トウリに魔法で体力を増やしてもらってからというもの、リラは一度も熱を出すほどに身体を壊したことがなかった。

 ルカは小さな苦笑で、


「まあ、無理はしないことね。たいへんなことは頼れる姉に任せてしまいなさい」

「そうですよ! リラ、お姉様に任せて頼ってください!」


 テンションがあがっているクコである。元来、人に頼られることが好きなクコだが、特に妹が相手だとその気持ちが強くなるらしい。

 リラは、ルカと顔を見合わせて、苦笑が移った。


「もうお姉様ったら。……でも、頼りにしてますね!」

「はい!」


 三人の様子を見ていたサツキは、


 ――そういえば、この三人は互いに知ってるんだもんな。


 と当然のことを思う。

 ただとにかく、リラがもうこの士衛組にうまく混じり合えそうでサツキは安心している。

 ひとりでそんなことを考えているサツキの腕に、リラは自分の腕を絡めた。


「それに、サツキ様がいるんです。きっとすべてがうまくいきます」


 リラはにこやかにサツキを見上げる。

 この様子を見るや、ルカはやや目を鋭くさせて、


「この子、どうしてサツキにこんなにもなついているのかしら」

「そうですよ。サツキ様はとっても頼りになるんです!」


 クコは自分が褒められたみたいにうれしそうに誇らしそうに、サツキに腕を絡めるリラごと、二人を抱きしめる。


「リラがサツキ様と仲良くなっていてわたしもうれしいです!」

「まったく、厄介なライバルがまた増えたわ」


 蚊の鳴くような声で、ルカはひとりごちた。

 サツキは青葉姉妹に抱きつかれるような形になってしまっている。このままじゃれているわけにもいかないので口を開こうするが、そこでルカが横から言った。


「さ、二人共サツキから離れなさい。リラと再会したことだし、さっそくミナトたち三人と合流するわよ」


 ルカの言葉でまずクコがサツキとリラから離れて、リラも腕を放して、やっとサツキは落ち着いた。


「そうだ。その前に、フウサイも挨拶しておいたらどうかね」

「はっ」


 と答えてフウサイも姿を現し、挨拶を交わす。


「拙者、よるとびふうさいと申す。サツキ殿に仕えている忍びでござる」

「まあ。本物の忍者に会えるとは、感激です。わたくし、あおと申します。よろしくお願いいたしますね、フウサイさん」

「先に言っておくと、フウサイは忍術によって普段は俺の影に身を潜めている。あまり人目につかないようにしているが、それは覚えておいてくれ」

「はい」

「さて。クコ、ミナトに通信を頼む。噴水広場に集合するように」

「はい。了解です」


 クコは嬉々とミナトにテレパシーを送った。




 噴水広場で、リラはナズナとも再会した。

 ナズナは泣き虫だから、リラの顔を見た途端に泣いてしまった。


「久しぶりだね……リラちゃん。会えてよかった」


 いとこの泣き顔に、リラもつい感極まる。


「ナズナちゃんは相変わらず泣き虫さんだね」


 と、リラはナズナの頭をなでながら目に涙を溜めた。泣き虫さんだねと言いながら、涙もろいがゆえにナズナにつられて泣きそうになってしまう。


「ふふ。リラも、もらい泣きしちゃった」

「リラちゃんっ……」


 お互いにこの約四ヶ月の間という長くもあり短くもある時間にいろいろあったからこそ、話したいこともたくさんある。でも、無事で会えたことがナズナには心からうれしかった。


 ――リラちゃんが無事でよかったよ。……ただ、お父さんとお母さんが閉じ込められているって、サツキさんたちが言ってた。リラちゃん、つらいよね。でも、わたしが隣にいるよ。同じ参番隊になったんだもん。わたし、がんばるからね。


 想いを強く持ち、ナズナは涙をこぼしたあとには明るい笑顔をつくった。


「王国を、救いに行こうね」

「うん。もちろん」


 ナズナの笑顔を見て、リラもにこっと笑った。

 この二人の様子を見ても、ケイトはスマートに紳士的な挨拶をする。


「リラ王女。お久しぶりです。アルブレア王国騎士団にいました、れんどうけいです。今は士衛組の一員としてお供させていただいております」


 リラはナズナから離れ、丁寧に挨拶を返す。


「ケイトさん。お久しぶりですね。ご助力いただいているとのことで、たいへん感謝しています。これからもよろしくお願いいたしますね」

「ええ。こちらこそよろしくお願いします」


 気取った礼をして、ケイトはミナトの後ろに下がった。

 ミナトはにこやかに一礼した。


「はじめまして。僕は士衛組壱番隊隊長、いざなみなとです。以後お見知りおきを」

「こちらこそ、はじめまして。わたくし、あおと申します。よろしくお願いいたします、ミナトさん」


 リラは深々と慇懃なお辞儀をした。

 ふとミナトもリラも、互いの顔に覚えがないが、やや首をかしげたくなった。


 ――声かな。聞いたことがあったろうか。


 すれ違うばかりか、ソクラナ共和国の首都『せんいちものがたりでんしょうするまち』バミアドでは、二人はひと言ずつ会話している。


 ――なんだか、シルエットか、しゃべり方か……どこかで覚えがあるような……。リラの勘違いかしら。


 これについては、このあとも互いにわからないままになるのだが、ひとまず顔合わせが済んだのだった。

 これにて、弐番隊の三人とチナミを除いた隊士たちの顔合わせはできた。

 たったひとりリラの顔すら知らなかったミナトは、合流して挨拶のひと言ばかり話してみて、愉快そうに笑った。


「おどろいたなあ。クコさんにそっくりだ。どちらも明るい笑顔をお持ちです。でもこの姫君は、副長殿とは性格がぜんぜんちがいますね」

「あの。そういえば副長など役職があるみたいですが、組織図としてはどのようになっているのですか?」


 一同を見回して、リラがだれにともなく尋ねた。

 サツキは局長として説明する。


「リラ。ではさっそく、我々士衛組について話そうと思う。聞いてくれるか」

「はい、お聞かせください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る