47 『算段を砕く最後の突入』

 カルハザード記念碑前。

 視認と同時に、弐番隊の三人が司令隊に合流した。


「弐番隊、合流」

「来たぜ!」

「待たせたわね」


 玄内、バンジョー、ヒナ、この三人はいつも通りにいきいきしているようだった。ヒナなんかは、カルハザード記念碑を見て、いきなりニヒルに笑って言った。


「趣味悪いわね、これ。浦浜マリンタワーといい勝負だわ。だれがこんなもんつくらせたのよ」

「おもしれえじゃねえか。オレは好きだぜ。なっはっは」


 バンジョーは明るい笑顔である。玄内は《風よけスリップストリーム》での移動で優雅そうだが、バンジョーとヒナはいい運動をしたかのように汗を光らせていた。


「そいつはガウマーヌの作品だな。まあ、おれにはやつの趣味はわからないが、おもしろいってのには同意しておくぜ」


 と、玄内も皮肉っぽくニヤリとした。

 みんな元気に見えたが、サツキは一応聞いておく。


「問題はありませんでしたか?」

「ああ。心配無用だ」


 と、弐番隊隊長の玄内が答える。


「それはよかったです」


 が、サツキの前にヒナが駆け寄ってきたとき、大胆に切れたスカートが目に入った。チャイナドレスみたいに左側の太ももだけあらわになっている。


「サツキ、あたしたちかなり感謝されたよ!」


 戦果を報告したいヒナだが、サツキは顔をそむける。


「そうか」

「ちょっと、なんでこっち見ないの?」


 頬をふくらませるヒナに、サツキはポケットからハンカチを取り出した。


「スカートが切れてる。これでも巻いておけ」

「――っ!」


 自分のももを見て、ヒナはハッとなってスカートを押さえる。


「ど、どこ見てんのよ!」

「血が出ていたけど、大丈夫か?」

「だ、大丈夫……だよ。あ、ありがと」


 顔を紅く染めながらしおらしくサツキからハンカチを受け取ると、それを太ももに巻き、切れたスカートの端を結んだ。


「もうっ、なんでこんなことに……」


 口先をとがせるヒナにチナミが声をかける。


「そんなこと気にしてる場合じゃありません。まだ盗賊の頭領が捕まっていませんよ」

「スカートは大事だよチナミちゃんっ」


 そこでやっと、ヒナはサツキたちといっしょにいるシャハルバードに気づく。


「あれ? この人、どこかで……」


 ナズナがそっと言った。


「ガンダス共和国の、ラナージャで……」

「あ! そっか! ガラクタみたいなの売ってた人たちか」


 そう言われて、シャハルバードも笑ってしまっていた。


「はっはっはっ。確かに、ガラクタも多いかもね」


 ケイトがジドを玄内に差し出した。


「玄内さん。こちらの盗賊の魔法《嘘から出た実ハッピートゥルーエンド》、使える魔法だと思います。どうぞ」

「そうか」

「あ、わたしの相手だったバーンさんは」


 とクコが言うと、


「さっきフウサイから受け取った。大丈夫だ」

「そうでしたか」


 玄内は手の中から鍵を出現させる。


「《魔法管理者マジックキーパー》」


 ジドの首の後ろに鍵を差し込む。


「その魔法、没収だ」


 鍵をひねり、玄内はジドの魔法を没収した。ついでに、チナミの対戦相手だった『レッグホッパー』ネバーも玄内に差し出す。


「バネの魔法です。《ハンドホッパー》と《レッグホッパー》。使いようによってはなかなか戦えると思います」

「そうか。その魔法も、没収だ」


 鍵をひねって没収する。


「ほう。自分が跳ねるのに使うのが主で、相手をバネの力で飛ばすことはできない、か。中途半端な能力だぜ。しかし、なんで手と足しかねえんだ」


 疑問に思っている玄内に、ヒナが笑って、


「身体中バネになったら大変じゃないですか」

「それくらいやらなきゃ意味ねえだろ」


 こっそり、玄内は考える。


 ――こいつはあとで改良してヒナにやるか。うさぎだし跳ねる魔法はちょうどいいだろ。やっとヒナにくれてやる魔法も決まったぜ。


 逆に相手をバネの力で跳ね飛ばすことができるようになれば、あまり腕力のないヒナでも剣での戦いが有利になるだろう。逆刃刀という斬ることに向かない剣も、相手を飛ばすことで別の武器になる。さらに、逃げるのにも便利になる。


「先生。この『バミアドの蛇使い』ペラサは、《コブラ踊りロープダンス》という魔法を使います」

「その魔法、没収だ」


 鍵をひねり、ペラサの魔法の没収した。


「ロープを操れるってのは、使い所もあるかもな」

「あ、そうだった」


 今度はミナトもなにか思い出したらしい。


「局長。盗賊団がこんなものを持ってましたぜ」


 ミナトがふところから取り出したのは、本だった。


「それはっ!」


 シャハルバードが食い入るように本を見つめる。

 サツキは聞いた。


「ご存知なんですか?」

「ああ。ワタシたちの連れが持っていた本だと思うんだ」

「なるほど。そうでしたか。では、どうぞ。受け取ってください」


 目でサツキがミナトに促すと、ミナトは本を差し出した。


「その方に渡してやってください」

「いいのかい?」


 シャハルバードとしては、なんの疑いもなく本を渡してもらえることも驚きだった。


「はい。もし違っていたら、そのときはバミアドパトロール隊の方に渡していただければと思います」

「ありがとう。確かに受け取った。本当に感謝するよ」


 ミナトから本を受け取ると、シャハルバードはそれを内ポケットにしまった。

 この中にいて、チナミだけはその本のデザインに心当たりがあった。


 ――サツキさんは覚えてないかな……? 王都でヒロカズさんが使ってる《取り出す絵本》にデザインが似てる気がする。勘違い……?


 王都の夜をサツキと歩いたとき、ふくひろかずの店で置かれている本がちょうどそんなデザインだったのだ。ヒロカズの本はいくつかあり、色も何パターンかある。だから完全に一致しているわけではないと思うのだが、チナミがこのことについて知るのはリラと出会ったあとになる。

 サツキをちらと見上げると、不意に視線が絡まる。


「チナミ?」

「前に……」


 そう言いかけたところへ、アリが駆け足でやってきた。


「おーい! シャハルバードさーん!」

「アリじゃないか。どうしたんだ」


 シャハルバードに聞かれて、アリは大慌てで説明する。


「それが、見ちゃったんだよ! シムシムっていう盗賊団の頭領が、洞穴に宝物を隠してるのを!」

「なんだって!?」


 とシャハルバードが驚く。

 サツキとチナミは会話を止めた。

 アリはシムシムと洞穴について話してくれた。話を聞き、シャハルバードは腕組みして深くうなずく。


「なるほど。状況はわかった。サツキくん。ワタシはシムシムの算段を打ち砕きに行きたいと思うが、ついてきてくれるかい?」

「はい! もちろんです」

「よし! 決まりだな」


 それから、みんなでアリの言う洞穴へと向かうことになった。

 洞穴は、外から見るとただの大きな岩がいくつかかたまっているだけにしか見えない。

 みんなを振り返ったアリは得意そうに、


「これを開けるにはコツがあるんだ」


 と胸を張った。

 アリは大声で唱えた。


「《開けゴマ》!」


 すると。

 ずずず、と岩が動いて、ドアのように開いた。

 中には、たくさんの宝物が輝いていた。

 宝石や装飾品、剣や金銀、短剣など、まばゆいばかりに光っている。

 そして、シムシムもいた。

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