25 『色めき立つ遭遇は空白』
ミナトとケイトは、ジドたち三人を倒したあと、魔法《
「ジドさんの魔法は、玄内さんが没収するのがよいと思います」
「ははは。ミナトさん、名案ですね」
二人でそう話して、ケイトがジドを背負って歩いていた。
「司令隊との合流は、あの天才建築家ガウマーヌの作品――栗の形をしたモニュメント『カルハザード
ケイトに聞かれ、ミナトはうなずいた。
「ええ。その道すがらでもし盗賊を見つけたら適宜、といったところでしょう。僕らで八人は相手にしたので、他でも結構やっつけたんじゃないかなァ」
「特に玄内さんはすごそうですね」
「あの人は一流です」
「ボクから見たら、ミナトさんも一流の剣士ですよ」
「よしてください。僕は修業の身ですから」
サツキからの報告では、それぞれの部隊も盗賊の捕縛は順調であるらしい。
あとは合流するのみ。
そう思っていた。
だが、そのさなか、なにやら騒ぎが起きているらしい声がミナトの耳に飛び込んできた。
「逃がすなー!」
「こっちに来ーい!」
何本か先の路地だろうか。
ミナトは耳の装置に手を当てて、
「司令隊からの連絡はない。ケイトさん」
と呼びかける。
「なんですか?」
「どうも向こうが騒がしいようです。司令隊からの報告はありませんが、盗賊かもしれない。僕が向こうを見てくるので、ケイトさんは先にサツキたちと合流してください」
「わかりました。気をつけてください」
「はい。あ、この本もサツキに渡してください」
「承りました。では、この先の『カルハザード記念碑』へと先に向かっています」
二人はそこで別れ、ミナトは走り出した。
ミナトは走りながら目をつむる。
ほんの一秒、その中で、音を拾う。
――こっちだ。
また目を開けて再加速する。
もうすぐ曲がり角というところで、ミナトは急停止した。
――だれか来る。
かなりのスピードで走っていたが、なんとか止まった。
そこを、目の前に少女の影が飛び込んできた。
「おっと」
少女はかなり急いでいるものらしい。ミナトとは違い、角を挟んでだれかいる予想はなかったものと見える。
危うくぶつかりそうになって、少女がひらりとミナトをかわすようにしたが、ミナトもさっと身を引いたので衝突せずに済む。
「すみません!」
「いえいえ。こちらこそ」
と、ミナトは挨拶代わりに軽く答える。
少女は、水兵服のようなセーラー服姿で、顔立ちは晴和人のようだった。ルーン地方、つまり西洋の雰囲気もわずかにあるかもしれない。長くて綺麗な黒髪の少女の顔は、それでも暗がりでしっかりとは確認できなかった。
「失礼します!」
切羽詰まったように少女は言い残して駆け去った。
――なにかあったのかな?
スッと少女の背中へ視線を切り、それからミナトは角を曲がった。
また走り出そうと思っていたが、そこにはすごい形相をした人たちが走ってきていた。先頭を走るのは二メートルはあろうかという巨大なハンマーを持った青年である。
「待て待てー!」
「おとなしく諦めて、キリヒ様の言うことを聞けー!」
よくはわからないが、ミナトはサツキの言葉を思い出す。
『俺たちは街の人から盗賊を追い払うよう依頼を受けたわけでもない。だが、この街を守ろう。そうすることで、伝聞によって俺たち士衛組が正義の味方であるかのようになっていく』
つまり、正義の味方としてこの街を守ること。
それが今回の任務である。
「ならば、あの賊のような方々は許してはおけないなァ」
ミナトは道の真ん中に出て、立ちはだかった。
「なんだ、邪魔だぞ!」
巨大ハンマーの青年が怒鳴った。
泰然と立ち尽くし、ミナトは宣言した。
「やあ、盗賊のみなさん。街で悪さはいけないなァ」
「なんだと!」
「この人をだれだと思ってる。この人は『マッスルガイ』
取り巻きが答えるが、ミナトにはそんなのはどうでもよかった。盗賊と変わらない物騒なこの人たちを、通りにいる数人が怖がっている。
――おや? よく見れば、アルブレア王国騎士の方々と同じマークかな?
彼らの衣服や武器にマークが見られた。
「どっちでもいいや。この街の平和を守るのが僕の任務です。お相手しますよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます