26 『白兵戦のバックステージ』
サツキとシャハルバードは、盗賊団を相手にするために、一時行動を共にすることにした。
偶然の出会いから道連れになった両者だが、シャハルバードの仲間アリだけが別行動を取る。
アリは自分たちの馬車へと向かって走っていた。
「荷物が盗まれたら大変だよ。ま、馬車の商売道具もぱっと見じゃ変なガラクタにしか見えないだろうし、平気だと思うんだけどさ。キミヨシくんとトオルくんだっているかもしれないもんね」
独り言を口にしながら走る。
その途中、盗賊団らしき人たちの姿を発見した。
――あれは……! やっぱり、盗賊団だ。
五人いる。
会話も聞こえてきた。
「順調みたいだな。あとはオレがいなくても平気だろ。頼んだぞ」
「わかりました、頭領」
「オレは先に洞穴に戻ってる。財宝をちゃんと持って来い、いいな?」
「はい!」
どうやら、盗賊団の頭領だけ、洞穴に行ってなにかをするらしい。
――これはすごいところに出くわしたぞ! まさか洞穴がやつらのアジトとは思わないけど、なにかありそうだ……!
四人が頭領から離れて駆け出した。
アリは頭領だけをじぃっと見つめる。
頭領が歩き出した。
――おいらがついて行って、洞穴ってのを確かめてやる! シャハルバードさんも戦ってるんだ、おいらだって……!
戦地になっているバミアドの街の中を抜けると、砂漠のような砂地が広がっている。途中までは道と呼べるものだったが、だんだんと外れてきた。ちょっと街の外れに来ただけなのに、砂地と岩場の合わさった土地になっている。
――いったいどこまで行くんだ?
こんな砂漠をずっと一人で旅するなんて盗賊の頭領のすることだろうか。アリはますます怪しむ。
バミアドの中心地から歩くこと二十分。
疑問を抱きつつも追跡を続けていると。
「なんだあれ!」
思わず声に出して、慌てて口を押さえる。
頭領が振り返る。
アリの心臓はドクドク鳴る。
しかし、頭領はだれの姿も見つけられない。
「気のせいか」
砂地とはいえ、サボテンもあるし岩場もある。
アリは岩場に身を隠してなんとか見つからずに済んだ。
そっと、アリは頭領の観察を再開する。
――あんな大きい岩、なにかあるよね……?
見ていると、頭領は岩に向かって叫んだ。
「《開けゴマ》」
すると、岩がずずずっと横に開いてゆく。
まるで岩の扉だった。
もう少しだけ近づいて確認すれば、洞穴の中には財宝がいっぱいにあった。それを手に取って頭領はうれしそうに笑う。
「しっしっしむ! このシムシム様の財宝がまた増える! バミアドはいい街だぜ! しぃーっしっしっしむ!」
アリは口を押さえたまま、ほんのわずかな思考をした。
――わかったことは二つ! 一つは、この洞穴を開ける呪文が《開けゴマ》だってこと。もう一つは、やつらはずっとバミアドの街で悪さをしてきたってことだ!
ずっとここにいても仕方ない。
シムシムが洞窟に入り、岩の扉が閉まったのを見て、アリは急いで街へと引き返す。
「ここから街まで走れば十分もかからない! みんなに知らせないとー!」
リラは、騎士たちから逃げていた。
一心不乱に駆け続け、気づいたときにはだれの声も聞こえて来ない。
――逃げ切れたのかしら?
拠点にしている馬車まではやや離れたが、近くに騎士も盗賊もいないのであれば、なるべく人目につかないように歩けばいい。
息を整えながら歩く。
だが、元々リラは身体があまり丈夫なほうではない。
体力も使って、歩くのも厳しくなってきた。
民家の壁に手を置き、足を止めた。
「少しだけ、休んでもいいよね……」
周りに注意を払いつつ、リラは壁に背を預けた。
そのとき。
「あら?」
民家の家のドアが開いた。
そこから顔を出したのは、おばあさんだった。優しそうな顔つきで、リラに気づくと驚いたように駆け寄った。
「どうしたの。大丈夫?」
「は、はい」
「こんなに疲れ切ったような顔をして」
「それほどでもありませんわ」
「強がらなくてもいいの」
優しそうな顔と声に、リラは一度に緊張が緩んでしまった。
――まだ気を抜いていていいときではないのに。
おばあさんは言った。
「さ。まずは中にお入り。今は盗賊がいるというよ」
厚意に甘え、リラは家の中に入った。
「わたしはダーフィラーン。あなたは?」
「わたくしは、リラと申します」
「リラちゃん。まずは座って」
促されるまま座って、リラは自分が旅をしていることを告げ、バラバラになっている仲間が心配だと話した。
話を聞くと、ダーフィラーンはドアを開いて外を見る。
右、左、右と確認する。
ダーフィラーンはドアを閉めた。
「きっと平気だよ。今もね、空に天使がいたわ」
「え?」
天使など本当にいるわけがないと思い、リラは目を丸くした。
「なにか歌ってたみたい」
ダーフィラーンがしわを寄せて優しい笑顔を見せる。
リラはつられて笑顔になった。
「ありがとうございます」
――きっと、ダーフィラーンさんはリラを安心させようとして言ってくれたんだわ。
そう思うだけで、リラは心が温まり、安心してきた。
「リラちゃん、お腹は減らない?」
「はい。もうご夕食はいただいたので」
「そう。じゃあ飲み物でも入れようか」
「すみません。手伝いますよ」
「そうかい? じゃあお願いしようかね」
ダーフィラーンは一人で暮らしているらしいとわかる。
他に同居人はいないようである。
「リラちゃん。お湯を沸かしてもらえる?」
「わかりました」
リラは鍋に水を入れて、お湯を沸かし始める。
「あら? パンがありますけど、ダーフィラーンさんはご夕食を召し上がりましたの?」
「それは明日の朝の分。ガンダスカレーを包んで、このあと揚げようと思っていたのよ」
「晴和王国で発明されたカレーパンですね。では、油も火にかけておきましょうか?」
「ありがとうね。頼むね」
「お任せください」
油を注ぎ、リラはそれを火にかけた。
ダーフィラーンは微笑む。
「それじゃあ、少しお話でも聞かせてあげようかね。この『
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