21 『影響力ある嘘は現実を捏造してゆく』
壱番隊は、副長クコから聞いた情報の通りに進んだ。
そこで、三人の敵に遭遇する。
「おっしゃる通りに三人だ」
「なるほど、素晴らしい指示でしたね。的確です」
ミナトとケイトが敵を前に、足を止めた。
盗賊三人は、ミナトとケイトに気づく。
三人の中のリーダー格らしき頭巾をかぶった盗賊が自信満々に言った。
「貴様ら、オレたちに敵対する気だな?」
「対立したいわけではないのですが、言っても引いてはくれないでしょう?」
柔らかな声でミナトが聞き返すと、
「当然だぜ! オレ様は、ジド。最強の魔法を持つ者。魔法の使い道だけなら団長よりもヤバイ。ついた異名は『
ジドは糸でつり上げたのかというほどに、口の右端だけを器用につり上げてみせた。
「すごいなあ。僕にも見せてください」
「ミナトさん。気をつけて」
のんきに感心するミナトに、ケイトが小声で言った。ミナトはわかっていますというようにふっと口を結んだ。
クツクツと笑い出したジドだが、こらえきれなくなったように笑い声を大きくしていった。哄笑し、
「クハハハハ! 聞きたいか。貴様らのようなガキを相手に本気を出すオレじゃあねえ。特別に教えてやるよ。オレの魔法は、ドーン! 《
「そう来ましたか」
ミナトはにこりと微笑みを浮かべた。
そんなミナトを横目に、ケイトは敵への警戒とミナトへの驚きが同時に起こった。
――嘘を本当にするということは、即効性を持たせることもできるが、この状況では宣言までに時間をかけるだろう。魔法を使う前に叩くのも一つ。しかし、ミナトさんのこの余裕。なにか策があるのかな? いずれにしても、物怖じしないのは美徳ですよ。
ケイトがジドに問うた。
「条件もあるのでしょう?」
「むろんだぜ! 現実に起こりえないものは、さすがのパーフェクトなオレ様も神ではないからできない。この魔法は、オレ様が嘘をつくと、その嘘が本当になるための行動をオレ様自身や指摘した相手に取らせるものだ」
「ほほう。応用できて厄介なことです」
と、ミナトが穏やかに言ってのけると、ジドはさっそく魔法を発動させた。
「こんな風に使うのさ! オレはその通行人から金をもらった! ドーン!」
「な、なんだ? うわぁ、え?」
近くにいたおじさんが、ジドに近寄ってきて財布からお金を取り出して手渡した。
「なんで?」
そう言いながら、通行人のおじさんはぽかんとした顔になった。
「てめえは邪魔だ。失せな!」
ジドはそのおじさんを「ドーン!」と言って突き飛ばし、仲間に言った。
「よし。おまえはやつらの後ろに回り込め。そして、おまえは隙を突いてオレといっしょに攻撃だ」
「おう」
「わかったぜ」
「オーライ、ドーン!」
二人がジドから離れた。一人は指示通りミナトとケイトの後ろに回り込み、もう一人は少し離れた位置に構える。槍を使うようだ。
ケイトは三方の敵に注意を怠らない。
――面倒な魔法だ。あれは受けられない。
「ミナトさん。ボクがやりましょうか」
「いや。彼はおそらく、僕を先に狙う。様子を見ます」
「……わかりました」
不安が残るケイトだが、ミナトへの信頼も強い。ミナトならなんとかしてくれると思い、従うことにした。
ジドが人差し指を立て、空に向け大きく手を振り上げた。そして、叫びながら指を下ろす。ビシッとミナトに指を向けるためである。
「貴様は仲間を斬った! ドーン!」
鼻息を荒くして魔法を発動させた。
が。
決まったと思ったはずなのに、当の対象者が指の先にはいなかった。
「ど?」
間抜けな声が漏れて、判断力が鈍る。
「相手を間違えてますよ」
「なんだと!?」
ミナトの声に振り返って、
「後ろか!」
カッと目を見開く。
「貴様は仲間を斬ったんだよ! ドーン!」
また指を差すジド。
しかし、ミナトの姿はすでになく、そこにはもうひとりの仲間がいるだけだった。
「なにィ!? なんて速さだ。まるで見えなかった……。ど、どこだ!」
首を回すと、存外あっさりミナトを発見できた。
にらむような視線を受けてもミナトは飄々としたもので、かわいらしく首をかしげて教えてやった。
「後ろです。気をつけてください」
「後ろ……? はっ!」
と、さすがの『
また元の向きに直ると、そこにはサーベルでジドに斬りかかる仲間の姿があった。
「そういえばさっき、オレ様の指は……」
「ええ。あの方を指していましたね」
「くおぉー! オレ様の《
「すみませんジドさーん!」
叫びながら逃げようと走り出したジドだが、正面からもうひとりの仲間が襲いかかり、挟み撃ちにあう。
「おれもあんたを斬らないといけないみたいっすー!」
「くおぉー! しまった! こっちも指差してたんだったー!」
逃げ回ろうとするジドであったが、ミナトは構わずに剣を抜いた。
「仲間割れは美しくないなァ」
どうしても軌道修正が効かずにジドへと一直線に斬りかかるジドの仲間たち。そして逃げる『
「ドーン!」
と声をあげてジドは倒れた。
「命は奪いません。いや、僕はなにも奪わないし奪わせない」
「こちらも終わりましたよ」
ケイトも、ジドへと襲いかかろうとしていたもう一人を始末した。
「助かります」
「しかし、呆気ないというか、間の抜けた相手でしたね」
くく、と笑うケイトにミナトも笑い返した。
「嘘つきは泥棒の始まりと言いますが、最後に嘘をつかせてしまったなあ」
「ああ」
と、ミナトの言わんとすることがケイトにもわかった。
「確かに、仲間に斬られませんでしたね」
「でも、よかったのかなァと思います。仲間に斬られるのは、あまりに辛い。僕は優しい嘘は好きなんです」
ケイトは少しだけ哀しみを含んだ目を伏せ、口元には小さな笑みを浮かべた。
「ミナトさんは優しいな。この人も幸せ者です」
ふと、ミナトはジドの横に落ちている本に視線を落とす。
「なんだろう。彼が盗んだ物だろうか」
「一応、預かっておいてはいかがです? 判断は局長に仰げばよいかと思いますが」
「そうしましょう」
それは、さっきジドたちが少女から奪った本だった。
本を拾って、ミナトはふところにしまった。
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