16 『旋る壱番隊』

 えいぐみは一気に進軍した。

 まず、壱番隊。

しんそくけんいざなみなとが率いる部隊である。

 つややかな黒い髪を後ろでひとつに結っているミナトは、その髪を振り乱して白刃を抜いた。

 相方の『げんじゅつこう連堂計人レンドウ・ケイトに呼びかける。


「ケイトさん、とにかく武器を奪いましょう。敵は五人しかない」

「ええ、隊長。仰せのままに」


 キザな言い方でケイトは応答した。

 ミナトは盗賊五人を見回して、


「士衛組、参上。神妙にお縄についてください」


 警告か宣戦布告か。ミナトがそう言うと、ドレッド頭の盗賊はなにをバカなことをと言いたげにゆがんだ顔で笑った。


「オレたちゃ盗賊だ。テメーみてーなガキの指図なんか聞くかよ!」

「うおりゃあ!」

「邪魔すんじゃねー!」


 盗賊たちが怒りをあらわにミナトとケイトにサーベルで斬りかかった。

 だが、剣が遅い。

 一瞬で、ミナトとケイトがそれぞれ二人ずつのサーベルを弾き飛ばしてしまった。


「ひええ!」

「うおおおん!」

「ふあ」

「うそだろ……?」


 サーベルを失った盗賊たちがどうしていいものか迷ったその刹那、ミナトは二人を斬った。

 血が噴き出す二人。


「殺しちゃあいない。さあ、神妙にお縄に……て、気絶してらあ」


 ケイトが相手していた二人は、先に攻撃してきたほうが鮮やかに切り捨てられる。もう片方は、ケイトが見据えた。

 ピタリと盗賊とケイトの目が合う。

 それだけで、盗賊はぴくりとも動かない。


「ハ? どこだここは! どこなんだよ! 真っ暗じゃねえか! なんだ、なんなんだよおい! 動けねえよ! ひぃぃ!」

「あらら。幻惑魔法ですかい?」


 ミナトが聞くと、『げんじゅつこう』は笑った。


「ええ。《幻想視ファントム・ビジョン》といいます。こちらはどうも暴れそうだったので、金縛りの幻を見せています」

「確か、ケイトさんがその目で見ている相手をひとりだけ、幻惑にかけることができるんでしたね」


 ケイトの幻惑魔法に、盗賊は身じろぎひとつできやしない。


「ミナトさん、すみませんが縄で縛ってやってくださいますか」

「むろんですよ。いやあ、さすがはケイトさん。戦い方も紳士でスマートだなあ」


 と言いつつ、ミナトは手刀で盗賊の首を打って気絶させ、それから手足をしっかり縛ってやった。

 残る盗賊たちも、手を後ろにしてしばる。完全に動けないよう電灯の柱にくくりつけ、残りの気絶した盗賊たちも縛り上げて地面に転がしておいた。

 残るドレッド頭の盗賊に、ミナトは聞いた。


「あなた方の頭領はどこのだれです?」

「う、うるせえ!」


 叫ぶドレッド頭を見て、この相手から得られる情報はないと判断する。

 ミナトとドレッド頭の距離、およそ十メートル。

 ドレッド頭は腰を落とし、威嚇のためにサーベルをミナトに向けた。


「オレたちに手を出したら、タダじゃ……」

「残念だが会話にならないようだ」


 トンッと、ミナトはひと息に距離を詰めると、一瞬にしてドレッド頭の身体を真正面から切り捨てた。

 あまりに綺麗に斬って返り血のひとつも浴びないミナトを見て、ケイトは感心する。


 ――すごい腕だ。


 ミナトはケイトを振り返る。


「さて。次に行きたいが、まずはこいつらを警察に引き渡さないとねえ。どうしましょうか」


 ケイトは倒れたドレッド頭を他四人と同じように縛りつけて答える。


「だれかこの辺で手の空いている方に頼むのがよいかと思いますが」

「ではそこのお兄さん、お願いできますか?」


 この様子を一部始終見ていたのは、一人二人ではない。その中で、一人の青年に呼びかけると、彼は応じてくれた。


「わ、わかりました。バミアドパトロール隊が来るのを待って、説明しておきます」

「よかった。ありがとうございます」

「すみませんね」


 いちいち丁寧できれいな挨拶をする二人に、青年はたどたどしくお辞儀を返した。


「あの、いえ、こちらこそ本当にありがとうございました! なんとお礼をしたらよいか――」

「あはは。いいえ。礼などいりません」


 そこで、テレパシーが飛んできた。


『こちら副長クコです。また盗賊三名が壱番隊の近くまで迫っているそうです』

「了解です。あ、そうそう。今五人を捕らえました。クコさん、本当にこんなに離れていてもテレパシーができてますねえ。驚いたなあ」

『玄内先生が魔法道具を作ってくださったおかげです』




 船の中でのことである。

 サツキとクコがこんな会話をしていた。


「《精神感応ハンド・コネクト》を、触れてないときにもできないか?」

「考えたことはありました。でも、これまではどうも難しくて……」

「やってみる価値はあると思うんだ。テレパシーで各隊長と通信できれば、戦場での情報交換において常に相手の先をいける」

「そうですね! 頑張らせていただきます」


 そのときから修業が開始されたのだが、サツキと玄内の工夫で実用化に成功したのである。

 離れた相手とテレパシーで会話するには、三つの条件がある。

 一つは、クコのテレパシー能力を知っていること。

 二つは、玄内が作ったとある魔法道具を所持していること。

 三つは、クコからのテレパシーに、口頭で会話をすること。

 である。

 ただし、三つ目、クコ側はテレパシーによって声に出さずとも会話が可能になっている。

 また、二つ目の条件だが――ミナトら各隊長は、玄内の開発した片耳用のイヤホンのようなものを装着している。実際に耳の穴は塞がず、耳に引っかける形である。これにクコの魔力が込められ、クコと魔法道具がコネクトされていた。

 玄内曰く、


「これにより、クコの声が聞こえる場所を限定し、周囲の音との差別化をはかれる」


 とのことである。実際に隣の部屋に行ったミナトで試してみると、本当に触れていなくともテレパシーで会話ができた。

 しかも、ちょうど今日これの開発が完了したのである。先程サツキが外に出ていたとき、クコとヒナとチナミの手伝いがあって、各隊用に三つ生産できた。


「サツキの異世界の知識からイヤホンってやつをイメージしてつくってみた。まあ、知り合いの魔法も混ぜたんだが」

「知り合いですか」


 サツキの疑問に、玄内はさらりと返す。


「おまえも知ってる『おうばんにん』、その娘だ。《いとつう》って魔法さ。糸がわずかに垂れたような形状なのはその名残だ」

「なるほど」


 魔法の名称を聞いただけ想像をふくらませるサツキを見て、玄内は感心する。


 ――糸を通して音を伝える装置ってのは、元の仕組みは簡単なもんだ。原理だけなら紙コップと糸だけで作れる。サツキならその辺についても予測できるだろうから、《糸通話》がどんなもんか、もう想像できてんだろうな。


 玄内は最終実験に付き合ってくれたクコとミナトに聞いた。


「出来はどうだ?」

「すごいです! これで離れている方とも会話できるとは驚きました」

「さすがは『万能の天才』です。僕には及びもつかないなァ」


 クコ、ミナトが感激してみせるが、玄内はクールにはフッと笑うのみであった。


「まだ改良の余地はある。今はクコ側からじゃないと接続できないが、そのうち各隊長からクコへも発信できるようにしてやるさ」




 現在――。

 テレパシーが可能になった壱番隊隊長ミナトは、副長クコに言われた。


『ミナトさん、五人の捕縛ありがとうございました。今入った情報によると、敵三名が西に侵攻中です。ミナトさんのいる場所から二時の方向に200メートルの地点でぶつかります。この三名を退治したあと、カルハザード記念碑にて合流願います』

「二時に三名ですね。任されました」

『ご健闘をお祈りいたします』

「そちらもね」


 ミナトは耳の機械から手を離し、ケイトを見やる。

 ケイトは聞こえてきたミナトの言葉から理解した。


「二時の方向に三名ですか。了解しましたよ」

「そいつらを退治したらサツキたちと合流です。さっさと片付けましょう」

「ええ」

「では、士衛組壱番隊、参ります」


 ミナトのかけ声で、壱番隊の二人は走り出した。

 その場に残った青年たちは、こんなことをつぶやいた。


「士衛組……まるで、正義の味方だ……」

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