17 『隊旗なびかせ弐番隊は伊万里屋に到着』
弐番隊の出発は、他の隊より少しだけ遅かった。
一分もかからないが、玄内に準備があったのである。
玄内がヒナに言った。
「よお、ヒナ。そこに落ちてる木の枝を拾って上に投げてくれ」
「はい。こうですか?」
ヒナが木の枝を上空に投げる。
そこに、玄内が魔法《
手綱が木の枝に引っかかる。
すると、木の枝は姿を変えて、木馬になった。木馬が手綱をつけたようになっていた。
「おお! なんすか先生それ」
「木馬?」
バンジョーとヒナに、玄内が教えてやった。
「これは《
説明しながら木馬にまたがり、弐番隊隊長の玄内が指示を出す。
「さあ。行くぞ」
「オレらは乗せてくれないんですか?」
「えー」
ぐずぐずしているバンジョーとヒナを一瞥し、玄内は言った。
「おまえらの修業のためでもある。おれはノロノロ仕事すんのが嫌いなんだ。走れ。ついてこい」
木馬がパカラッパカラッと玩具のような音を立てて空を駆け、ヒナとバンジョーがそれを追いかけて走り出した。
「バンジョー、旗を振れ」
言われてバンジョーは「押忍!」と答え、
「
と吹聴しながら大音声で旗を振り、夜八時の街を駆けた。
ミナトとの通信を終えた副長クコは、サツキに壱番隊の報告をし、続いて弐番隊への連絡を試みる。
『こちら副長クコです。玄内さん、そちらの状況はいかがでしょう?』
連絡を受けた玄内は、木馬で空を駆けながら短く返す。
「まだ敵はいねえ」
『そうですか。今入った情報によりますと、
「おう」
『伊万里屋は弐番隊の現在地より北西にあります。盗賊の数、約十名だそうです。よろしくお願いいたします』
「十人か。余裕だな」
『心強いです。ご武運を』
通信が終わり、玄内は弐番隊隊長の名の下、隊士二人に指示を出す。
「バンジョー、ヒナ。伊万里屋だ。敵は十人。数で負けてる分、容赦はいらねえ。全員ぶっ飛ばすぞ」
「伊万里屋っていうと、
「あたしも新しい魔法の力、見せてあげるわ!」
バンジョーとヒナも気力をみなぎらせていった。
目的地は、伊万里屋。
晴和王国風の料亭である。
ここソクラナ共和国にも、晴和王国の料亭がある。日本料理の店が世界中に存在するように、晴和王国の料理屋は多い。
だが、この手の店が襲われるのにも理由がある。
「どうして伊万里屋なのかしら」
「晴和料理はうめーからなー」
ヒナの疑問に的外れなことを言うバンジョーは無視して、玄内が言った。
「晴和の料理は品位が高い。金持ちがよく来る。それゆえ、大切な親睦や議論の場となることもある。そういった金のあるやつらを狙おうって魂胆だろう」
「なるほど! 先生、だったらそのお金持ちの人たちを助けたら、そういう人たちにも恩が売れるってことですか?」
目を輝かせるヒナを見て、玄内は無表情にまた前へ向き直る。
「サツキがそこまで考えたかは知らねえが、そうだな。だからバンジョー、大声で突入するぞ」
「やってやりますよ! アピールするぜ! おおおおおおお」
「ここで叫んでどうする」
と玄内はため息交じりにつっこむ。
サツキは、細かい指示は出していない。大まかな司令で、細かな采配は各隊の隊長に一任していた。あまり小難しいことを言ってきっちりと統率をとろうとすると、ひずみが生まれる。戦場は生き物だ。絶えず変化する。想定外のことはいくらでも起きる。
玄内はその現場における難しいコントロールをして、サツキを補助する考えだった。
――さて。少し暴れるとするか。ほとんどこいつら二人でなんとかなるだろうがな。
弐番隊、伊万里屋到着。
旗を抱えたバンジョーが、『勇』の文字が書かれた旗を入口の地面に突き立てた。
玄内も木馬から降りて、手綱を甲羅の中にしまった。
そして、伊万里屋に突入する。
「御用改めである」
「士衛組弐番隊、見参!」
「あたしたちが相手になるわ!」
セリフを、順に玄内、バンジョー、ヒナが言った。
伊万里屋にはすでに盗賊が押し入っており、怪我人はほとんどいないが、盗賊の仕事もまだ終わっていない。
二階建ての一階部分には三人の盗賊がおり、弐番隊の三人はそれぞれ一人を相手にする。
盗賊たちはサーベルを引き抜く。
ヒナも抜刀した。
「いくわよ!」
勢い込んで斬り込む。
「なんだガキが!」
相手が子供だと甘くみている。そこを、突く。ヒナは玄内によってひたすら修業させられた身のこなしでサーベルを右によける。空いた胴に、逆刃刀を撃ち込んだ。
「《まどろみ》」
逆刃刀には、魔法をまとわせている。
「痛ッ! て程でもねえか……。ふう。たいしたこと……」
そこまで言うと、盗賊は言葉を失した。さらに、立ったまま動かない。
「この技は眠りを誘発するわ。寝てなさい」
たったの一撃で、盗賊は立ち尽くしたままに眠ってしまった。そして、バタン、と倒れて眠り続ける。
玄内はヒナの動きを見て満足する。
――悪くねえ。やっぱり、こいつの耳はこう視界が暗い空間でより活きる。あのサーベルがこちらに振り抜かれたときには、ヒナはすでに音を聞き分けて動き出せている。そして、おれの《
そうなると、玄内は次の計画に移れる。
――士衛組は原則捕縛により、殺しはしない集団だ。戦い方も選ぶ。ナズナの場合、超音波では一瞬の気絶が限度。ヒナが使えるなら、次はナズナにも眠らせる魔法を仕込めるな。
玄内はヒナに指示を出す。
「眠らせたそいつはこの紐で縛っとけ」
「はい!」
ヒナが玄内から受け取った紐で盗賊の手足を縛る。
一方、バンジョーは正面切っての拳による戦いをしていた。サーベルをよけながら、ボクシングをするようにステップを踏んで、殴る。
「《スーパーデリシャスパンチ》! おおおおおおおお!」
技名を叫ぶ声に気圧されたところもあるが、長いリーチを持つバンジョーの腕は、そのまま盗賊のあごに直撃した。
「ぬわあああああ!」
どすんと倒れた盗賊を見て、バンジョーは満足そうである。
「へ! どんなもんだい! 一発KOだったな」
「かっこつけてるヒマないわよ。上に行かないと」
「わ、わーってるよ!」
いそいそと倒した盗賊を縄で縛るバンジョー。
「二階のやつらも気づいたみたいだぜ」
とっくの昔にマスケット銃一発で盗賊一人を麻痺させて行動不能にしていた玄内は、自ら先頭に立って二階にのぼってゆく。
ヒナのうさぎ耳がピクッと動く。
「?」
上の階からは、
トン、トン
と音が聞こえてくる。
まるで地面を叩くような音だった。
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