12 『うつし世スパイラル』

 せいおうこく武賀むがくに

 鹿じょうでは、ウメノが風鈴の音を聞きながら、小箱を取り出した。


「トウリさま。今日もまたトランプをしましょう」

「いいよ。なにがいいかな」

「またババ抜きです」

「じゃあ、今度は他にだれか探していっしょにやろうか」

「はい。探してきますね」


 ウメノがぱたぱたと廊下に出ると、早足にちょこちょこ動き回る。

 そして、すぐに自分と同じくらいの背丈の少年を発見した。


「チカマルさま!」


けんていなるしょともえまる

 国主にしてトウリの兄・たかおうの側近であり、普段はどこへ行くにもオウシについて回るのだが、今日はめずらしくオウシとは別にこの城内にいた。オウシは参謀・おかもりみつを連れて王都に出かけている。

 ウメノと同い年の少年で、髪型もおかっぱ頭と類似点がある。凛々しい袴姿が利発さを引き出しているが、整った柔和な顔には愛らしい微笑が浮かぶ。


「おはようございます、ウメノ様。いかがなされましたか」


 大人びた口調で聞かれ、ウメノは聞き返す。


「お忙しいですか?」

「一応、用事はありますが……ご用件を承りましょう」

「トウリさまとトランプをして遊ぶので、ごいっしょにどうですか?」


 チカマルは、トウリさまとその名が出たことで、貼り付けてあった微笑にうれしさが滲む。


「ぜひ。ごいっしょさせてください」

「はい! こちらです」


 トウリの待つ部屋に二人そろってやってくる。

 美しくお辞儀して、チカマルは挨拶する。


「おはようございます、トウリ様」

「おはよう。チカマルくん、忙しかったでしょう? ごめんね」

「いいえ。お呼びいただけて光栄です」

「今回はめずらしく兄者もチカマルくんを連れて行かなかったし、私の相手をしてくれるとうれしい」

「トウリ様のお側にいられること、喜ばしい限りです」

「コジロウの近況も聞かせておくれ」

「もちろんでございます。トウリ様は兄とは親しいので大抵のことはご存知でしょうが、お役に立てれば幸いです」


 幼いのに機転の利く如才ないチカマルだが、尊敬するトウリの前ではつい言葉も弾む。仕事ではない時間を共に過ごせるというのもある。

 ウメノがしびれを切らしたように言った。


「トウリさま、チカマルさま。トランプをやりましょう」

「そうだったね」


 手元のカードを取り、トウリはババを見る。柄は世界樹だった。この世界における『魔法』というものの象徴である。裏面に縁起の良い火ノ鳥が描かれたトランプだが、世界樹も縁起物とされている。だからそれがトウリにはおかしかった。


 ――まるで、ジョーカーではなく、宝の象徴のようだ。


 世界樹、またの名を魔法樹。

 この世界最大の宝といっていい。


 ――さて、この宝がだれの手をどう巡るか。


 トウリは薄く微笑み、三つの山になるように均等に配る。

 三人が手札を持つと、さっそくウメノが苦い顔をしているのがうかがえた。

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