8 『説明できないこと』
翌朝。
まだ日が出たばかりで、早朝特有の静けさである。
サツキはふと目を覚ました。
横では、ナズナが穏やかな顔で眠っている。
――起こしてもかわいそうだ。少し、散歩でもしてくるか。
ひとりで近所の散歩でもしようと立ち上がる。すやすや眠るナズナを起こしたら悪いからと足音を立てずドアまで移動する。
ノブに手をかけたとき、
「……サツキ、さん?」
ナズナが目を覚ましたらしい。
サツキは振り返った。
「起こしてしまったか」
「い、いいえ。おはよう、ございます」
「うむ。おはよう」
「サツキさんは、お出かけ……ですか?」
「少し、散歩でもしてこようかと思ってな」
「いっしょに、行きます」
ナズナも起き上がって、二人は部屋を出た。
外を散歩する。
このあたりは町も小さいために、牧歌的な雰囲気もある。落ち着いていて、朝の散歩をするにも気持ちのよいところだった。
しゃべりながらしばらく歩いて、サツキは聞いた。
「あれから、怖い夢は見なかったか?」
ナズナは、昨晩の夢を思い出す。
「いい夢が……見られました。リラちゃんも、今度は、うれしそうでした。それに……」
「それに?」
その質問は予期せぬものだったのか、途端にナズナの顔が真っ赤になってしまった。
「い、言えませんっ」
うつむき気味にそう言うと、逃げるように走り去ってしまった。
サツキは考える。
――どんな夢を見たんだ? リラの夢だったというのはわかった。今度はうれしそうということからも、昨夜の夢ではリラが危険な目にあったが、今朝の夢ではいい夢に変わったといったところだろう。まあ、他にもいいことがあったならよかったな。
自分の部屋に戻ったナズナは、布団を抱きしめながら、昨日の夢を思い出す。
――言えないよ……。だって、サツキさんの夢だったから……。
その夢は、未来の空想だった。
朝食後には宿屋を出て、次の町を目指してスペシャルの引く馬車は走る。
休憩を挟みながら移動して、夜。
今宵のキャンプ地を決め、バンジョーは料理をつくり始めた。
バンジョーが料理をつくっている間――ミナトはふらりといなくなって、どこかへ修業をしに行った。ほかのメンバーは《
修行中、例外としてフウサイは玄内の指導を受けない。
「忍術は玄内先生よりも、フウサイさんのほうが当然上ですもんねえ」
「ミナト殿」
「いっしょに馬車の見張りをしようってのもありますが、少し相手してください。僕の魔法を見せているのはフウサイさんだけなものですから」
「構わないでござる」
そうやって、ミナトとフウサイが二人で修業をすることもあった。
夕飯のあと、サツキは例によって、クコと額を合わせることで感覚を共有し、クコの魔力の流れを感じ取る練習をしていた。この練習は、みんなが見ていないときじゃないとやりにくいのである。
そんなペースで数日が経過したある日、クコはこの魔力コントロールの修業中に《
「(サツキ様、そろそろサツキ様の成果を見せてください)」
「(成果、か)」
「(ええ。魔力コントロールしながら、もうだいぶスピードに乗った剣を振れるようになっています。わたしがいつもやっているように、やってみてくださいますか?)」
「(わかった)」
サツキは集中して、魔力をコントロールする。小回廊を循環するところから始まり、手や足への移動を可能な限り素早く行う。
「(サツキ様、上手ですよ。こんなに速くできるようになるなんて、驚きです)」
「(クコのおかげだよ)」
「(このペースで練習していけば、アルブレア王国へ到着する頃には、わたしのスピードに追いつくかもしれません)」
「(それはどうだろうな)」
と、サツキは冷静に見ている。
――あのクコのスピードに追いつくのは、かなりの域に達しないと無理なんじゃないか?
サツキの見立ては正しい。クコの魔力コントロールは、スピード・精度共に高レベルであり、才能と幼少からの努力のたまものであった。
だが、サツキもかなりの勢いで魔力コントロールの能力を伸ばしている。サツキ自身はまだまだ満足していないが、サツキの成長速度は目を見張るものがあり、常人が数年かけて到達するレベルを超えていた。
そして、次なる戦いの時も、すぐそこに迫っていた。
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