ソクラナ共和国編
1 『しかして千夜一夜の物語が始まり』
時は
ラナージャからは、ルーンマギア大陸をしばらく馬車で移動することになる。
これを引くのがスペシャルである。
肩までの高さで二メートルはあろうかというスペシャルは、馬力がある。サツキが知る馬よりもパワーが勝っているように思う。イギリスのシャイヤーなど大きな馬よりも気持ち大きいくらいになるが、この程度のサイズの馬はどの国にもよくいるとのことである。
各自の部屋は馬車の中にある。
その日の夕方には、別の街にたどり着いた。
宿を取り、夜は各自部屋で過ごす。
サツキとクコは、ケイトの部屋に来ていた。
二人と対面しても、『
「どうされました?」
「俺たちの組織、士衛組についての説明をさせてもらいに来ました」
話は、主としてクコからされた。
サツキはクコの補足程度で、今後設ける隊長職とそこにつく隊士、予定される各隊の人数などをケイトに伝える。
「なるほど。三つの隊をつくり、そこにリラ王女を含めた残りのメンバーを振り分けるのですね。いいんじゃないでしょうか」
「希望があれば聞かせてください。だれと組みたいか、だれとは呼吸が合わせにくそうか。あと、できれば、ケイトさんがどんな魔法を使うのかも教えてくれると助かります」
ケイトは微笑する。
「最初に、隊長職はお断りさせてください。少し外から全体を見たい。また、ボクには今のところみなさんのことがわかりません。ただ、ミナトさんと組みたいですね。なんだか不思議な方ですよ、彼」
「そうですか」
「魔法は、幻惑魔法で《
「どんな幻を見せられますか?」
クコからの問いかけに、ケイトはすらすらと答える。
「闇を見せたり花畑を見せたり、ボクが想像できるものなら基本的にはなんでも。ただ、あくまで幻なので実体はありません。あとは、必要に迫られたら使うことになるでしょうが、幻惑魔法を扱う連堂家の中でも、ボクだけが使えるものもあります。そちらに関しては、詳細はまだ伏せさせてください」
「参考になりました。ありがとうございました」
サツキとクコはケイトの部屋を辞し、参謀役の
翌朝。
まだ草木が起き出したばかりの静けさの中、士衛組の一同にはサツキの部屋に集まってもらった。
各隊を発表するためである。
サツキの左右には、クコとルカがおり、三人のみが前にいて他のメンバーと向き合う形になる。
張り詰めた空気を破る、サツキの第一声。
「以前にも話した通り、すでに役職が決まっているのは司令隊の三人と監察が一人です。司令隊は、局長・
続きをクコが引き取る。
「局長は士衛組のリーダーになります。副長はサブリーダーですね。総長は参謀であり、秘書役を行う文官を兼ねますが指揮権は持たず、局長の補佐をします。局長の発した司令は副長を介して各隊長に伝達され、隊長が隊士に指示を出します。つまり、司令隊は士衛組の最高機関になります。監察はその指揮系統から独立して、直接局長の司令を請け負います。主に、仲間のフォロー・偵察など内々に様々なことをしてもらいます」
「そして、これから各隊を発表します」
そう言って、サツキはルカに目で合図する。
ルカは手に紙を持っている。ここには全員分の役職を組織図として書いており、口頭での発表後にみなが見える場所に貼ることになる。
「まず、壱番隊」
隊は全部で三つ。
壱、弐、参の数字を用いることとする。
サツキは指名した。
「壱番隊隊長、
ミナトはさわやかに返答した。
「はい。承りました」
「壱番隊隊士は、
と、サツキは壱番隊の発表を終えた。
「ご指名ありがとうございます。隊長よろしくお願いしますね、ミナトさん」
ケイトからの挨拶に、ミナトは苦笑した。
「まいったなあ。僕は人の上に立つ器じゃありませんよ。僕が隊長なら、壱番隊は僕だけだと思ったのに」
「そんな話あるか」
つっこむサツキを、ミナトはおかしそうに、かつ満足そうに見てニコニコしている。
「いいえ。ミナトさんは希有な器だと思いますよ」
「持ち上げないでください、ケイトさん」
二人はもう打ち解けているし、合流が遅かったケイトのことも問題ないだろう。
サツキは次の発表に移った。
「続いて、弐番隊です。弐番隊隊長は、玄内先生に頼みます」
「ああ。任せておけ」
昨夜、サツキとクコから頼み、なんとか了承を得た。本当は表に立つことはしたくないと言っていたが、隊長ならと引き受けてくれたのだ。
他の提案として、
「ミナトと二人で組んで、普段はほかの隊のメンバーを育てる、というのもあります。どうでしょう?」
とサツキが聞いたところ、玄内もそれよりは隊長になったほうがいいと思った次第である。
「特に面倒見てやりてえのが二人もいるしな」
これが、弐番隊の残る二人のことだ。
そんな会話を昨夜して、弐番隊が決定したのである。
現在、まだ名前を呼ばれず残っているのは五人。
サツキはその五人の中から、相性と玄内の希望を兼ねた解答として、隊士を選んだ。
その結果が、
「弐番隊隊士は、
となった。
「はい。あたしが弐番隊かぁ。て、チナミちゃんと別!? えー」
ヒナは幼なじみのチナミと同じ隊になれないと聞いてあからさまにガッカリした。
「文句言うなよ、ヒナ。オレはどこでもいいけどよ。オレは飯が作れりゃあだれと組んでも構わねえ」
なっはっは、と笑う料理人のバンジョーだが、その顔はすぐに崩れることになる。
玄内が感情を出さない渋い声でこう言った。
「これから、おまえら二人のことはビシバシしごいてやるから覚悟しておけ」
「うぇぇん、サツキぃ」
ヒナに涙目で見られると、サツキもちょっとだけ居心地が悪い。いくらバランスをみた結果とはいえ、チナミと組みたいというヒナの意向だけ反映できなかったのだから。
バンジョーは焦った顔で、
「おい、サツキ。ちょっとタンマ! マジで言ってんのか?」
「あんたさっきどこでもいいって言ってたじゃん」
「取り消しだ、そんな発言! ヒナ、オマエならわかんだろ」
「そ、そりゃわかるけどぉ」
ガチャ、と……。
泣き言を言っている二人のこめかみに、玄内のマスケット銃の先が当てられた。玄内の鋭い目が二人を捉える。
「返事は」
「はい!」
と、二人は声をそろえて大きな返事をしたのだった。
そんなヒナを見て、年下のチナミは「やれやれです」と小さくつぶやいていた。口や態度に出さずともヒナを姉のように慕って心配しているが、玄内に見てもられば大丈夫だろうと安堵した。
ミナトはおかしそうにくすくす笑って、ヒナに「むぅ」とにらまれている。普段はクールなフウサイもフッと笑いが漏れ、バンジョーからにらまれてしまった。
「フウサイコノヤロー。覚えとけよ」
ふいっとフウサイはバンジョーから顔をそむける。
バンジョーとフウサイは幼なじみだが犬猿の仲でもあり、約十年ぶりに再会して士衛組に入っても、相変わらずケンカばかりである。
バンジョーはこそっとつぶやく。
「へへーんだ。今度フウサイのおにぎりにチョコレート入れてやる。先生のおにぎりにもチョコ入れたら、少しは甘くなってくれっかもな」
チラとバンジョーが玄内を見ると、
「聞こえてんぞ」
とバッチリ目が合い、バンジョーは玄内の隣に正座させられた。
サツキは、ナズナとチナミを見た。
「最後は参番隊だ。参番隊隊長は、
「はい。ありがとうございます。頑張ります……!」
「承知しました」
ナズナとチナミはこの参番隊の編成を快諾した。王都に住んでいた頃もお隣同士の二人は、隊の希望を聞かれたときも互いに組むことを希望していた。
さらに、ナズナはいとこのリラとも仲良しであり、そんなリラとチナミの二人と組めるとあって安心した様子だった。今もチナミの手を握って、
「チナミちゃん、よろしくね」
「うん、よろしく」
チナミは静かに微笑んでみせた。
ヒナが悔しそうに、「あの笑顔、本当はあたしに向けられるはずだったのにぃ」とまだ泣き言を言っている。
「これが組織図です。ご確認を」
ルカが組織図の書かれた紙を貼った。
クコが進行役のように呼びかける。
「以上です。もしなにかわからないことがあれば、わたしかサツキ様の元へ聞きに来てください。質問はいつでも受け付けています。変更はありませんので、よろしくお願いいたします」
これにて、各隊の編成発表は終わった。
今後はこの隊を基盤に動いてもらうことになる。どうなるかはサツキにもわからないが、やっと士衛組が組織らしくなってきた実感があった。
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