29 『博士の手紙』
クコが宿に戻ってくると、ヒナがいつものふてぶてしい顔で言った。
「どこに行ってたのよ? 手紙、預かってきてあげたってのにさ」
「ありがとうございます。ヒナさん、チナミさん、ナズナさん。ちょっと汗を流していました」
「は? なにそれ。まあいいけど。はい、これ」
クコは博士からの手紙をヒナとチナミとナズナから受け取った。
ナズナはクコの隣にぴったりと座った。リラの様子が気になるらしい。
「あたしは興味ないし、なにかあったら言ってよ」
「私も席を外します」
ヒナとチナミが部屋を出て、クコがナズナに微笑みかける。
「では、読みましょう」
「うん。楽しみだね」
「はい!」
博士からの手紙には、こう書かれていた。
『クコ王女、よくぞあの『
人数も順調に増えているようで安心しました。まさかもうこれほど集められているとは、クコ王女とサツキ様の人徳かもしれません。ますます実りのある旅となりましょう。
さて、この先の旅程についてです。
元々、タルサ共和国へゆき
ファラナベルという都市のラドリフ神殿の石壁には、碑文があります。最近発見されたそうで、まだ解読はされておりません。
これを解読できるのは、わたくしくらいのものでしょう。しかしわたくしはそちらへゆけません。ですから、リラ王女に碑文の読み方を教えました。
碑文についてのこともあり、もうメイルパルト王国へ旅立たせました。
ただ、リラ王女は知り合った方の魔法により、
ラドリフ神殿の碑文は、きっと歴史をひもとくのに役立つでしょう。
次は、メイルパルト王国のファラナベルに手紙を送ります』
読み終えて、クコは驚いた。
「リラは、晴和王国まで行っていたんですか……」
「もしかしたら、すれ違っていたかも……だよね?」
「はい。でも、同じ道を進むのです。近いうちに会えるかもしれません! 楽しみになってきました!」
「わたしも……!」
と、ナズナがクコと顔を見合わせて、にっこり微笑む。
そのあと、二人は差出人『ライラック』からの手紙を開く。
「これって……」
「あ……」
クコとナズナは宿の中を回って、手紙の内容の報告をすることにした。
バンジョーは、料理する手を止めて、
「やったな! 合流できたらオレが祝いに豪勢な料理をつくってやるぜ。おせちってのに挑戦してえしよ」
バンジョーがニカッと笑った。
「はい。ありがとうございます」
お辞儀するクコ。
ナズナが困ったように手をぱたぱたさせて、
「お、おせちは、お正月に食べるお料理だよ?」
「それまで合流しないつもり?」
と、ヒナがやって来て壁に背を預ける。
「そ、それは困りますっ」
クコが慌て、みなが笑った。バンジョーが一番笑っていた。まるでクコが言った冗談に笑う調子である。
「的外れなこと言い出したのはバンジョーさんなのに……」
ヒナと共にやってきたチナミがジト目でつぶやく。
バンジョーは明るい笑顔で、
「しかし、メイルパルト王国と言えばそう遠くねえ。もうすぐだな」
元々、リラとはイストリア王国で再会するくらいになるだろうと思っていたのである。これはクコとナズナにとってはうれしい報せだった。
ヒナはチナミに聞いた。
「メイルパルト王国も神龍島に近いとこよね? あのピラミッドとかがある」
「そうですね。ピラミッドが有名な砂漠の国です。タルサ共和国からではなく、そちらからでもゆけるかと。ただ、おじいちゃんとの待ち合わせはタルサ共和国です」
「うん」
とヒナ。
ナズナがクコの袖を引いた。
「クコちゃん、リラちゃんからのお手紙は?」
「そうでした! それを、みなさんにもお伝えしたいのです!」
無言で首をかたむけるチナミに、ナズナが教える。
「もう一通のお手紙の……ライラックっていう差出人が、リラちゃんだったんだよ」
「なるほど」
ヒナも合点してうながす。
「ふーん。そうだったのね。じゃあ聞かせてもらおうじゃない。その話」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます