25 『目撃の報告』

 ヒナとチナミとナズナが宿に戻ってきて、バンジョーに買ってきたものを渡す。


「ただいま。買ってきたわよ」

「おう! サンキューな!」


 バンジョーが野菜を手に取り、料理をしながら言った。


「おかげであとはそんなに時間かからずに作れそうだぜ」

「クコはどこにいるの?」

「さあ。さっき出てったぞ。先生の湯飲みと皿を下げに行ってくれてんだ。お? そういや、もう五分以上してんのに帰ってこねえな」

「ふうん。まあ、クコも先生に魔法の相談とかしてんじゃないの」

「だな!」


 チナミはヒナとバンジョーの会話を無言で聞いているのみだったが、ナズナは外を見てそわそわと落ち着かない様子だった。


「ナズナ、大丈夫だよ」

「う、うん」


 幼馴染みのチナミにそう言われて、ナズナもうなずいた。


「そうだね。手紙も、あとで渡せばいいよね……」




 これより少し前。

げんじゅつこうれんどうけいは、この日最後の船でラナージャに到着して、街を歩いていたところサツキを目撃、『鋼鉄の野人アイアンマン』ジャストンとサツキの会話と戦闘を影から覗き、また歩いていた。


 ――士衛組への合流は、明日ゆっくりでいい。まずは、アルブレア王国騎士にラナージャ到着と明日合流することの報告だ。さて、どう報告して切り抜けるか。


 そう思って、ケイトはくすりと笑った。


 ――ボクだってアルブレア王国騎士なのに、なんだかもう士衛組に入った気になってる。気持ちはハッキリしていたんだな。


 アルブレア王国騎士が集まることになっている場所へと向かって歩く中、ケイトは知り合いの騎士を発見した。

 相手もケイトに気づき、声をかけられる。


「ケイトか。おまえも今日到着だったんだな」

「はい」

「士衛組にはもう会ったのか?」

「……いえ、こっちに来てからはまだです」

「やつらは今もこの街にいる。到着は今日だったからな。ここに来るまで、見なかったか?」


 やや視線をそらしてしまう。それを悟られぬよう、空を見た。


「ええ。この時間です。どこか宿にいる可能性のほうが高いでしょう」

「そうだな」

「ボクは今日から、みなさんとは別行動になります。今後の接触はなるべくなくして、内部に潜入して参ります」

「そうか。やつらの場所はわかるか?」

「いいえ。ただ、この街での合流は約束していますから、明日にも船着場を探してみようかと思ってます。その際には手出し無用でお願いします」

「わかった。頼んだぞ」

「はい」


 と、ケイトは恭しくお辞儀した。胸の前で右の手のひらを返すようにして、左手をさっと伸ばす形。西洋風のお辞儀で、ボウ・アンド・スクレープに似ている。

 ケイトがきびすを返して歩き出すと、背中に声がかかった。


「おまえが合流してからは組織の始末より情報収集を優先する。魔法や組織図など、わかることはなんでも調べて報告するんだ。わかってるな?」

「はい」


 足だけ止めて、振り返らずにケイトは答えた。


 ――クコ王女やサツキさんの本当の目的がなんなのか、まるでだれも気にしていないかのようだ。知りたくはならないのだろうか。……いや、ブロッキニオ大臣の命令しか頭にないだけなんだろうな、彼らは。


 再び歩き出す。


 ――報告は、適宜することになるだろう。しかし、重要なことは伏せてもいいかもしれない。


 暗い街に向かって、ケイトは父の言葉を頭の中で繰り返す。


 ――状況を見て、身の振り方を考えろ。必ずしも、命令に従う必要はない。ボクは、本当にアルブレア王国のためになることをしたい……。


 本当の敵はなんなのか、闇の中にあるそれを、ケイトは探していた。

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