20 『頑張りの結晶』
リラは、馬車に揺られていた。
馬車は幌馬車。
幌で覆われているため、外は見えない。
この馬車を運転するのは、クリフ。『ガンダスの風』と呼ばれる商人・シャハルバードの右腕である。
シャハルバードの妹ナディラザードと、まだ十歳の少年アリもいっしょに旅をしている。
キミヨシとトオルを合わせて、クリフの運転する馬車には六人が乗っていた。
「今日もいい汗かいたなあ」
うれしそうにアリがそう言うと、キミヨシが自分も楽しくなったように聞いた。
「アリくんは今日も頑張ってただなもね。働くのが好きなんだなも?」
「あはは。おいら、働くのは好きさ。でも、それだけじゃないんだ」
「ほほう。それだけじゃないと」
「うん。おいらの魔法は《
「へえ。いい魔法だなもね!」
話を聞くと、キミヨシは我が事のようにアリの楽しみを喜んだ。
――我が輩、頑張ってる人を見るのが好きなんだなも。きっと、この汗の積み重ねがキラキラ輝くキレイな宝石を作ってくれるだなもよ、アリくん。
リラも「すごいです」と相槌を打っていたが、ふと気がついて質問した。
「もしかして、アリさんが首から下げている宝石も、魔法で作ったものなのですか?」
「よく気づいたね、リラちゃん! そうなんだ。色もそんなにキレイじゃないし、他の人にとってはたいした価値なんてないだろうけど、おいらにとっては初めて作った大事な宝石さ」
「いいえ。とってもキレイですよ」
「ああ。オレから見ても、輝いてるのがわかるぜ」
本心からリラとトオルが褒めてくれたとわかり、アリは照れたように頭をかいた。
「えへへ。ありがとう。おいらの宝物だからうれしいよ」
「きっとそれは未来の輝き。アリくん、旅の間、我が輩たちといっしょに汗を流そうだなも」
「おー!」
キミヨシとアリがしゃべっている横で、シャハルバードがトオルとリラに言う。
「楽しそうにはしてるけど、アリはよく働く子だ。気が利くし、頑張り屋だしね。この間《汗ノ結晶》で生成した宝石なんかを見ると、アリが商売も魔法も頑張ってるんだってわかる」
「そうやって成長が目に見えるのっていいですね。オレは自分がどうなのかなんて、まるでわからないんで」
「わたくしもです」
そんな二人に、シャハルバードは力強い笑みで言った。
「大丈夫さ。二人が懸命に毎日を生きているって、わかる人にはわかる。ワタシにはそれがわかるんだ。だから、ワタシはキミたち三人とこうして旅ができることを、喜ばしく思うし誇りに思う」
「褒めすぎです」
トオルが苦笑して謙遜する。
リラも微笑んで、
「そうですね。特にわたくしは、まだ一生懸命なだけです。いつかだれにも誇ってもらえるような自分になるために、もっと頑張りたいと思っています。アリさんにだって、負けていられません」
「ああ。その意気だ」
大きくうなずくシャハルバード。
妹のナディラザードはご機嫌に、
「アタシももっとヴィナージャのキーホルダーが売れるように腕を磨かないとね」
と気合を入れていた。
めずらしく売れたからやる気も違うのだろう。
幌馬車の運転手クリフは、後ろの会話も少しは聞こえる。
――シャハルバードさんが気に入る人たち。オレにはまだその特別さやすごさがわからない。これから共に旅をする中で、彼らを少しずつ知っていこう。オレもシャハルバードさんのような商人になるために、人を見る目も養わなければならないからな。
そう思って手綱を握り、通りを走っていると。
少年と少女とすれ違った。
二人は十三、四歳と十七、八歳くらいに見える。
ムスリム商人のような白いローブをまとっているようにも見えるが、そのローブもまとい方がクリフのよく知るこの地方の商人たちとやや異なるように思える。慣れていないのか、ただの白布で代用するほど貧困なのか。
――こうしてオレは、馬車を走らせながら、道行く人々をよく見る。たとえしゃべったり商売をしたりしなくとも、一方的に見るだけで、人間観察になるからだ。そこへいくと、今の二人は貧しい商人……とも思えない。顔つきは晴和人、おそらく変装の一種。目的はわからないが、なかなかの使い手とみた。
少年は、どこかの武闘家なのか、それとも旅の剣術家なのか。少女のほうも魔法の腕は立つようだと直感だけで見抜く。
――元はオレも
クリフは幌馬車の手綱を引いて、角を曲がった。
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