4 『会-相-合 ~ Meet Inevitably ~』

 四人は食堂に入った。

 朝食をいただこうと食堂へ行くと、どうも騒がしい。

 クコは、すっとサツキに近づき、手を握る。


「(どうしたのでしょう?)」

「(さあな。だが、事件みたいだぞ)」


 一度、クコは握った手を離して、四人はトレーをもらって適当な席につく。席は、六人掛けの長方形テーブルである。サツキの左右にクコとルカ、正面にヒナである。


「朝ごはんに納豆ってサイコー。やっぱりこれが落ち着くわ。ね、サツキ」

「だな」

「うんうん」


 とヒナはにこやかにうなずいて、


「て、なんであたしだけこっち側なのよ!」


 三対一で見合うわけだから、ヒナの疑問も当然である。

 ルカは淡々と言う。


「私も納豆は好きよ。晴和以外では食べないそうだし、船の中でも食べられてうれしいわ」

「なに無視してんのよ」

「え、納豆の話してなかった?」

「したけど、サツキも、だなって言ったし終わりなの。それより、この席おかしくない?」


 ジト目のヒナに、クコもルカもなんの疑問もない。 クコとルカが平然と、


「特別な木材を使っているようには……」

「ただの長テーブルね」

「ちがーう! 席順よ!」


 ヒナは身を乗り出してつっこんだ。

 なるほど、とサツキも納得した。サツキもなんとなく左右に二人がいることに慣れてきて気にしていなかった。局長の左右に副長と総長がいるのはサツキにとって普通のことになっていたのである。

 するとそこへ、バンジョーもやってきた。


「おう。おはようさん。朝からはしゃいでんな、おまえら。オレも混ぜてくれよ。へいへいイエーイ!」


 バンジョーがヒナの隣に座り、一応バランスが取れた。「ぐぬぬ」と少し悔しそうにするヒナだが、黙るしかなかった。


「お?」


 静かになったヒナを不思議そうにバンジョーが眺めて、ヒナがにらみつける。


「なんで悔しそうにしてたんだ? なんか勝負でもしたのか?」

「違うわよ。フン」


 ヒナが顔を背けると、会話が途切れる。

 隣のテーブルから、噂話が聞こえてきた。


「おっかねえ。あのおさろうが斬られたなんてよ」

「あれを斬れるのは『けんせいがきまさみねくらいじゃないか?」

「いや、あの人は否定してるらしいぜ。自分じゃないって言ってる」


 五人は噂話をしている人たちを一瞥した。


「人斬りか。こえーな」

「死んだみたいに言うなよ。まだ医務室にいるんだから」

「だが、なにを聞かれても答えないらしいな」

「よっぽどひどい相手だったのか、ひどいやられ方だったのか。思い出したくもないんだろうよ」


 バンジョーはその会話を聞いて、


「こえー。食欲なくなるようなこと言わないでもらいたいぜ」


 そう言いつつも、「うめえうめえ」を連呼しながら食べ続ける。

 それを、サツキとヒナはジト目で見る。

 しかし、まさか船の中でも人斬りが出るとはクコは思わなかった。

 クコは声をひそめて、サツキとルカとバンジョーとヒナに尋ねた。


「原因はなんでしょう?」

「さあ。もし辻斬りとかなら理由なんてないだろうしな」


 サツキにも見当がつかない。


「人斬りの噂ならあまみやでもあったわね。それとは関係あるかどうかもわからないけど」


 ルカにしてみても、結びつけられる情報が少ない現状では、なんの結論も出せない。


「もうなんなのよ、この船は。初っぱなからこんな事件が起きるなんてぇ」


 うさ耳を立ててヒナは周りを見回している。


「なるべく部屋から出ないほうがいいってことか?」


 頭を悩ませるバンジョー。


「出ても問題ありませんよ」


 という言葉とともに、ヒナの隣にトレーが置かれた。サツキの左前の席である。そこにトレーを置いたのは、サツキと変わらない年頃の少年だった。少年は座りながら、言葉を続ける。


「気をつけるのはそこじゃァない。やたらケンカを売らないことですぜ、旦那」


 言葉はきれいだが、江戸っ子を思わせる。

 少年の顔を見ると、笑顔が浮かんでいた。みずみずしく爽やかである。穏やかだが澄み渡った大きな瞳を持ち、なかなか整った顔立ちだった。緑の黒髪という言葉が合うきれいな髪は白い紐でうしろで一つに結わえられ、黒い袴に青い着物、白い羽織の袖には新選組のようなだんだら模様が入り、首元には浅葱色のマフラーがまかれる。腰には刀。着こなしのあんばいがよく、背丈はサツキより二センチほど高い。クコとほとんど変わらないくらいか。


「あ! ハヤカワさんの言う通り、同じ船の予約が取れていたのですね! よかったぁ」

「どうも。クコさん。浦浜ぶりですね」


 クコは少年を知っていた。

 だが、他の面々は知らない。実は、ルカは王都でしゃべってもいたが、暗くて顔がよく見えてなかったし、ヒナも同じ場面で居合わせたが距離があってハッキリとは記憶できていなかった。


「ここ、座らせてもらいますね」

「それより、ケンカなんてだれも売らないだろ。あんなヤツによ」


 バンジョーが一拍も二拍も遅れて反論すると、少年はくすくす笑った。まるでバンジョーが冗談でも言ったかのように無垢な笑顔である。


「売ったから斬られたんでしょ。旦那はおかしいなあ。みなさん、名はなんというんです?」


 少年に聞かれて、バンジョーは勢い、答える。


「オレはだいもんばんじょう。バンジョーって呼んでくれ。旅の料理人だ。敬語も敬称もいらねえ。オレには料理だけありゃあいいんだ。料理一筋の料理バカだからよ」

「私はたから


 名前だけ短く述べるルカ。


うきはしよ。あんた、同い年くらいっぽいわね」


 と、ヒナは少年の顔つきと座り姿を見て言った。

 最後に、サツキが名乗った。


「俺はしろさつき。キミは?」


 少年は長いまつげを上げた。


「僕はミナト。いざなみなとです。よろしくね」

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