34 『奇遇アレンジメント』

 ミナトは船の案内所に来ていた。

 案内所では、案内係の五十がらみの男性が対応してくれた。

 男性はやすはやかわと名札をつけている。


「すみません。チケットを持ってまして。予約をしたいんです」

「お客様、チケットをお持ちですね。はいはい。ほう! ガンダス共和国、ラナージャゆきですか!」

「はい」

「おもしろくていいところですよ」

「だとうれしいなァ」

「では、いつがよろしいでしょう?」

「ええと、僕の友人が明日の九時に出発する便に乗るようでして」

「むむっ?」

「?」


 ふわりと微笑みを浮かべ、ミナトは小首をかしげる。

 ハヤカワはうれしそうに手を叩いた。


「そうでしたか!」

「僕もそれに乗りたいのですが」

「やあ、よかった!」

「あはは。喜んでもえらえるなんて、おかしいなァ」


 くすりとミナトが笑うと、ハヤカワは自分ばかり事情を知っているようにしゃべる。


「おかしなものは巡り合わせというものです、お客様」

「いやあ、それには同意です。しかし、どういう意味です?」

「どうもこうもありません。いやはや。これは運がいい! 結論から言えば、空きができたばかりなんです」

「すごいなあ」

「さっきね、変更を希望された二人組のお客様の分で一度は埋まってしまったんですが、そのあと今日の便に変更された方がまたちょうど二人もいて。二枠空きができたばかりなんです」

「それはいい。確かにそいつは、とことん巡り合わせというものですね」

「ええ、ええ。それはもう。よい天運をお持ちですね」

「だといいなあ」


 のんびりと笑うミナトに、ハヤカワは幾度もうなずき、


「きっと喜ばれることでございましょう」


 というのは、あのアキとエミが喜んでくれるという意味であり、ハヤカワもおかしな巡り合わせを見てご機嫌だった。


「では、よろしくお願いします」

「はい。かしこまりました」

「ありがとう存じます」


 無事、ミナトは船の予約を済ませることができた。

 外に出る。

 ミナトは浦浜の街を眺めた。


「もう夕方だし、公園に行ってもみんな帰ってるかもだよねえ。残念だけど、僕も帰るとしようかな。どうせ、明日には同じ船で会えるんだ」




 サツキとヒナは共に歩いていた。

 十人目の仲間、うきはし

 うさ耳のカチューシャが特徴で、黒いセーラー服。

 年を聞けば、サツキと同学年である。


「サツキは……見たところ、あたしと同い年ね」

「俺は来月、十三歳になる」

「でしょ?」

「ヒナも同い年だったんだな」


 サツキが同い年だとわかって、ヒナはこの少年に親近感以上のものを覚えた。

 約束の集合時間に宿屋の前に行くと、サツキ以外は士衛組全員が集合していた。


「あら! サツキ様! 傷だらけで服もボロボロです」


 駆け寄るクコに、サツキは平然と答える。


「大丈夫だ。八重桜の忘れるの効果で、服は直せる」

「でも、サツキ様の怪我は……」

「これくらいの切り傷ならそのうち治るさ」

「私が《ばんそうこう》で治してあげるから」

「ありがとう、ルカ」


 ルカも今では《ばんそうこう》という魔法道具を作り出せるようになっている。サツキには頼もしい限りだった。


「ただ、あんまり無茶はしないでね」

「うむ」


 言いつつも、ルカはさっそくサツキに《ばんそうこう》を貼っていた。

 これでサツキの傷も治るとわかってホッとしたクコが、サツキのすぐ横に視線を移す。


「あーっ! あのときのっ」


 クコは驚き背をそらせる。口を押さえてヒナを見る。

 ヒナがニコニコと明るい笑顔でみんなに挨拶する。


「はじめまして。あたし、浮橋陽奈です。今日から仲間になります。よろしくお願いします!」

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