10 『遊園ディスカバリー』

 クコは、アキとエミの二人と『うらはまコスモランド』に向かっていた。

 キリッとした顔つきで、クコは気持ちも奮い立ったように聞いた。


「アキさんエミさん。『うらはまコスモランド』ではどのようなことをするのでしょう?」


 これから、クコは自分が修業に行くと思っている。

 ささいなすれ違いから、アキとエミはクコの話の大事なところを聞き逃し、この勘違いが生まれてしまった。

 むろんアキとエミは、このエリアを遊び倒すつもりだった。


「なんでもやれるね。でも、体力が必要だよ」

「最初に回る予定のキッズファイターエリアでは、体力の他にバランス感覚とかも使うね!」

「す、すごそうです! なんだか強そうですね!」


 ファイターという単語が、クコには立派で力強いものに感じられた。


「ボクとエミが子供の頃なんて、相当このキッズファイターエリアに入り浸ったものだよ」

「そうそう。ずっと回って回して、足がちぎれるかと思ったよー」


 あはははは、とアキとエミが声を合わせて大笑いする。

 だが、クコは真剣だった。


 ――足がちぎれるほど……キッズファイターエリア、強敵みたいです! 新しい修業方法を発見した思いがします!


 このとき、アキとエミは馬鹿な会話をしていたのだが、クコは聞いていなかった。その内容とは。


「空中をサイクリングするやつは眺めもいいけど疲れるんだよね」

「もう次の日は筋肉痛だったもんねー」

「メリーゴーランドは休憩にいいけどさ」

「言えてる!」


 その部分を聞かずに、クコはちょうど見かけたバンジョーの元へと手を振りながら駆け寄っていた。


「バンジョーさん!」

「おお、クコか」

「手に持ってるのは、ハンバーガーですね!」

「おうよ! やっぱ浦浜に来たら食うだろ? だから食ってんだよ」

「そうでしたか」


 アキとエミもすぐにやってきた。


「やあバンジョーくん」

「お食事中だったんだね」

「このハンバーガーがうまくてよ」


 と、バンジョーは親指で自分の背中にある店を指し示す。

 それを見ると、アキとエミはお腹が減ってきたらしい。お腹を押さえて、クコに言った。


「食べよう!」

「でも、さっき食べたばかりじゃ……」


 また食べたがるアキにクコがそう言うと、エミはぐっと拳を握ってみせる。


「腹が減っては戦はできぬ、だよ」

「ですね!」


 三人はハンバーガーを注文し、バンジョーといっしょに食べた。バンジョーは楽しげに、


「そういや、この四人だけで飯食うのはイストリア王国からガンダス共和国まで馬車で旅したとき以来だな」

「そうだね!」

「昨日のことみたいだよ」


 約半年前はこの四人で旅していたことを考えると、クコも「ここまで、随分と早かったですね」と思った。

 食後。

 バンジョーは陽気に手を振った。


「頑張ってこいよー!」

「はーい! 頑張らせていただきます!」


 クコが手を振り返し、三人は『うらはまコスモランド』に向かって歩き出す。

 アキとエミ、そしてクコがバンジョーと分かれてすぐ――。

 ベンチに座ってハンバーガーを食べていた騎士三人が、クコに気づいた。


「なあ。今通り過ぎたのって、『純白の姫宮ピュアプリンセス』じゃないか?」


純白の姫宮ピュアプリンセス』とは、アルブレア王国内における王女クコの通り名のようなものである。ここ晴和王国をはじめとしたアルブレア王国の外でこの呼び名が使われることは多くない。


「オイオイ、『純白の姫宮ピュアプリンセス』だと?」

「どれだよ」

「あれだ。ちゃんと見ろ」

「オイオイオイ、『純白の姫宮ピュアプリンセス』って言ったか?」

「あ、いたいた。いたよ、あれか」

「な? いただろ」

「オイオイオイオイ、『純白の姫宮ピュアプリンセス』と言えば、おれらが探してるクコ王女だろ?」

「おまえは黙ってろ!」

「そうだ、おまえはなにもしゃべらなくていいからおれらについて来い!」


 行くぞ、と三人組の一人が声をかけ、彼らはクコを追いかけて動き出したのだった。


「オイオイオイオイオイ、待ってくれよぉー」




 サツキとルカは。

 玄内と分かれ、この近くにある浦浜赤レンガ倉庫を目指して歩いていた。

 もう一つの目的地、宇宙科学館は少し離れているので、そのあと回遊船を使って向かう予定である。

 波止場の前を通りかかり、サツキは聞いた。


「あそこにある『くじらかん』にも寄って行かないか?」

「いいわよ」


 さっき、『くじら館』の説明をルカに受けたとき、「行ってみないか?」と言おうとしたところで、ローマンたちに遭遇してしまった。

 いざ行ってみると、近くで見上げた船は大きく、中の商業施設も充実していてこの中だけで数時間は過ごせそうだった。

 屋上のくじらの背中に来て、サツキとルカはジャズの演奏を聞いた。


「今日はジャズの演奏だったのね。どこからか聞こえると思っていたけど」

「俺はこの船に近づいてくるまで演奏なんて聞こえなかったよ」

「私もガンダス水塔の近くでかすかに聞こえた程度よ」


 現在演奏されているジャズの曲は穏やかな波のようにゆったりとした広がりのあるものだが、二曲ほど聞いて、三曲目に入り、曲調がやや変わった。嵐の前の静けさのような曲になる。

 その音がどんどん激しく騒がしくなるようで、サツキは言った。


「ルカ。そろそろ行こうか」

「ええ」


 サツキは、この曲がこれからの自分たちが巻き込まれ巻き起こす一幕を暗示しているような気がした。


 ――アルブレア王国騎士には、なるべく遭遇したくないものだ。


 二人は『くじら館』を出た。

 ここからでも浦浜赤レンガ倉庫が見える。

 地理的には、山上公園から波止場を挟んで向こう側にあるので、距離としては近いのである。

 さっそく浦浜赤レンガ倉庫に移動した。

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