32 『あの二人、忍者みたい』
里の修復作業は里の者みんなで行った。
それも半日で終わってしまう。
正確に言えば、たったの数時間で終わった。
『
完成は十三時。
少し遅めの昼食をいただいた。
食後、アキとエミはみんなに挨拶した。
「じゃあボクたちはもう行きますね!」
「お世話になりました!」
「またいろいろと集めた情報の報告に来ます!」
「チナミちゃん、免許皆伝の試練がんばってね!」
応援を受け、チナミはこくりとうなずいた。
「はい。ありがとうございます」
「《ブイサイン》」
「《ピースサイン》」
必勝祈願の《ブイサイン》と安全祈願の《ピースサイン》をチナミに送る。
アキはサツキたちにも手を振った。
「みんなもまた会おう」
「ごきげんよーう!」
エミがいつもの去り際のセリフを残して、二人は陽気な足取りで駆けて行った。
サツキはクコにささやく。
「アキさんとエミさん、次はどこに行くんだろうか」
「わかりませんが、またすぐ会える予感はあります」
「うむ。俺もそんな気がする」
フウジンがチナミに声をかけた。
「さあ。あの二人の応援もあったことですし、試練を始めましょうか」
「はい」
「試練は、早ければ今晩中には終わります。他のみなさんは明日の出発までゆっくりなさってください」
出発は明日。
それまでに、チナミだけは試練を受けて合格しなければならない。
ルカはフウミから声をかけられる。
「では、ルカさんは薬の勉強をしましょう。教えますよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
フウゼンもバンジョーに呼びかけた。
「さて。それなら、バンジョーくんはおれと薬膳料理だ」
「押忍! お願いしまっす!」
他のメンバーはそれぞれに修業や勉強をすることになった。
フウカがチナミに「頑張るでござる。難しいことはないでござるからね。落ち着いて、丁寧にでござるよ」とこっそりアドバイスして、チナミはフウジンのあとに続いて試練に向かった。
結果から言えば、試練もチナミにとっては難しいものではなかった。一日あればこなせるものでもあり、この晩、無事に免許皆伝の試練を合格した。
『
「さすがのものでございましたな。チナミさん、合格です」
「では、こちらが免許皆伝の巻物です」
フウジンの妻フウミが、黒い小箱を開ける。中には、アキやエミが持っていたものと同じデザインの巻物が入っていた。
「ありがとうございます」
チナミは丁重に受け取った。
「巻物をくわえると、変身できます。今、その身にまとっているくノ一の衣装と髪型になります。元々着てらっしゃった浴衣よりも動きやすいでしょう」
「変身……」
チナミがつぶやく。
フウジンは指を三本立てる。
「変身したら、三つの忍術が使えるようになります。一つは、《
「助かります」
「本来は巻物を口にくわえていないと忍術を使えないのですが、変身している間は巻物なしで好きなだけ忍術を使える設計にしました。この点は、アキさんやエミさんとは異なる要素です。あなたの才能を見込んで、特別にね」
「あ、有り難いことです」
ぺこりとチナミは頭を下げた。
「今後も、風才と共に忍術でサツキさんたちをお支えなさい。免許皆伝を手にしたことで、あなたはもうこの里の一員です。いつでも帰っておいで。そして、忍術を磨くのも忘れないように」
「はい」
うん、とフウジンは優しい顔でうなずいた。孫娘のよき友人への優しさと、里の一員として実の家族になった子供への温かさがそこにはある。
チナミもまたお辞儀をして部屋を辞し、自室に戻った。
一度、部屋に戻って浴衣に着替えてみる。
だれもいないことを確認して、巻物を口にくわえた。
すると、巻物がポッと消えて、チナミが忍び衣装に変身した。一瞬で変わるという感じではないが、足下から順番にパーツごとに変化していく。
最後に髪型が変わり、額当てが装着される。
「よし」
チナミは満足した。
実際に忍術を使ってみたが、どれも練習していないのにちゃんと使えた。巻物の効果はすごい。
――確か、変身を解くときは額当てを外す……。
額当てを手に取ると、一瞬で元の姿に戻った。手に持っていた額当ては、ボンと小さな煙を上げて巻物になった。この巻物をくわえれば、また変身できるというわけだ。
――ふふ。これはいいかも。
一人で盛り上がってきたチナミは、また変身してみることにした。
ドアがノックされたのも気づかぬまま。
変身が始まる。
部屋のドアが開かれたのも気づかず、チナミは気持ちよく変身していた。最後に、くるっとターンまでして、人差し指と中指だけ立てる忍者っぽいポーズもしてみた。
「決まった」
が。
その決まった瞬間を、サツキとナズナに目撃されていた。
視線の端に二人がいる。
チナミは顔に汗が浮かぶ。
無表情で二人を見て、
「なんですか」
とクールな声で聞いた。
「ドア、ノックしても……お返事がなくって……」
「無事に免許皆伝の試練を突破できたか気になったんだ。でも、その様子だと合格できたみたいだな」
「当然です」
「や、やったね」
「おめでとう」
「はい。ちょうど、忍術修行に精を出していたところです」
言いながらも、チナミのほっぺたはどんどん熱くなる。
サツキは「そうか」と言って、きびすを返す。
「邪魔したな。あんまり無理するなよ」
「わ、わたしも、今日は寝るから、おやすみ。チナミちゃん」
「はい。ナズナもおやすみ」
パタン、とドアが閉まって、チナミは小さな手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「気づかなかった……。あの二人、忍者みたい」
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