30 『それでは、最後の試練です』

 深夜、士衛組一同はよく眠った。

 翌朝、七時。

 外は明るい。

 里の者はみんな集まっていた。

 もちろん、アキとエミもいて、玄内も見守るようにしている。


「頑張れー」

「よく見てー」


 アキとエミは元気に応援してくれていた。

 最終試練、参加者はサツキ、クコ、ルカ、バンジョー、ナズナ、チナミの六人である。

 フウジンは合図を出した。


「それでは、最後の試練です。風才。始めなさい」


 フウサイは術をする際のポーズを取る。


「《かげぶんしんじゅつ》」


 一気に、フウサイが六人になる。


「うおっ、六人になったぜ。なははっ」


 楽しそうなバンジョーに比べ、チナミは冷静だった。フウジンに問う。


「これって、私たち六人全員が答えを一つに合わせるんですか?」

「いいえ。それぞれ自由に答えてくれて構いません。全部で三回行います。その中で、ひとりでも三回すべて正解すれば、第三の試練突破です。ただし、不正解になった者はその時点で失格となります」


 説明を聞き、ナズナがほっと胸をなで下ろす。


「よかったぁ……。チャンス、たくさんあるね」

「うん。でも、簡単じゃない」


 と、チナミがやや険しい表情になる。

 ルカも同意した。


「そうね。一度でも失敗すれば終わり。回数を重ねるごとに難易度も上がるでしょう。バラバラに選べば一回目はひとりだけ突破できるけど、二回目以降が厳しくなる」

「はい。ルカさんの言うとおりです。しかし、相談して可能性の高いところに複数人ずつ賭けていくのも、先を見据えると賢いとは言えません。全員が自分の観察眼を信じて、おのおのの力でやりましょう。どうでしょうか、サツキ様」


 クコの提案を、サツキは受ける。


「そうだな。それが一番いい。やろうか」


 実は、クコはサツキの眼の力を知っているから、勝算があった。それでダメなら縁がなかったと諦める覚悟でいる。


「では、六人の中から選んでください。本物だと思う風才の前へ」


 フウジンに促され、一同はそれぞれ選ぶ。


「コイツしかいねーわな」


 バンジョーは自信満々に選んだ。

 サツキはバンジョーと同じ選択であり、他の四人はそれぞれ別のフウサイの前に立つ。

 その結果、当たったのはサツキとバンジョーだけだった。


「やったー! 当たったー」

「すごよー! サツキくんバンジョーくーん!」


 アキとエミの声援に、バンジョーが手をあげて応える。


「バンジョー、よくわかったな」


 ぽつりとサツキが言った。

 バンジョーは快然と笑う。


「なっはっは。なんとなくだ」

「それでは、二回目です」


 フウジンの音頭で、フウサイ二度目の影分身を始める。


「《影分身ノ術》」


 二度目の分身では、フウサイは倍の十二人になった。


「さすがに多いな……」


 今度は、サツキとバンジョーは別々になった。


「おまえがソコを選ぶならオレはこっちにしておくわ」


 バンジョーも迷ったが、サツキと回答を変えることにした。

 正解は、


「サツキさん、二回目も成功です」


 とフウジンが言って、アキとエミが歓声をあげる。


「また正解だー!」

「次で最後だよー!」


 バンジョーが悔しそうにぼやいた。


「ちきしょう。やっぱそっちだったかー! サツキと同じになっても変えなきゃよかったぜ。サツキ、頑張れよ!」

「うむ。わかってる」


 静かにうなずき、サツキは集中する。

 昨晩の戦いの疲労が、今になってぶり返す。相当疲れていたらしい。魔力のコントロール精度が下がっている自覚もある。次で、サツキも最後だ。


「では、風才。三回目、最後の影分身です」

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