17 『忍者はどこにでもいるよ』

 アキとエミそれぞれを前に告白を聞き、クコとチナミがそれぞれ驚嘆した。

 その反応に、二人は満足していた。

 まず、クコとサツキとルカに対してアキが言った。


「そうさ! て言っても、一時期門下生になって免許皆伝をもらって卒業したから、今は写真を撮る傍ら、各地の情報をたまに里に報せに来るだけなんだけどね。この里のみんなとは友だちだからさ」



 一方、エミも説明をしていた。

 抱き合った状態から離れ、チナミが押し入れに降りると、エミは天井裏から逆さまに顔だけ出して言う。


「だからね、今回もそのお報せに来ただけなの。おこづかいももらえるんだよ。忍術も教えてもらえるしね」




 話を聞き、サツキはアキとエミについての情報を整理する。


「つまり、アキさんとエミさんはこの里から免許皆伝をいただいた卒業生で、普段は裏の稼業として忍者をしている。集めた情報をこうしてたまに里へ持ち込む。対価としておこづかいをもらったり忍術を教えてもらったりする。そういうことですか」

「その通り!」


 アキはパチンと指を鳴らした。

 おずおずとクコが尋ねる。


「で、でも、サツキ様。アキさんはいつからそこにいらしたんですか? わたし、気づきませんでした」

「それか。俺たちが通りかかるときからずっと座っていたよ」

「うんうん」


 得意げに腕組みしてうなずくアキだが、サツキは続けて言った。


「寝てたぞ」


 そう指摘されて、アキは他人のことのようにおかしそうに笑った。


「あっはっは! そうなんだよね、眠くなって寝ちゃってたんだ」

「どうしてクコが気づかなかったかだが、これは魔法が関連してる。おそらく、アキさんがくわえていた巻物にその秘密がある。それをくわえると使える忍術があるとみた。そしてその巻物は、魔法によって作られたものだ。だから俺の目に魔力反応が見えた。こういうことだと思いますが、どうですか」


 サツキの推論を聞き、アキは拍手した。


「すごーい! 正解だよ! 免許皆伝の証としてもらえるこの巻物は、《かげにんじゅつまきもの》。里長のフウジンさんが魔法で作ってくれたものさ。さっきボクがやった忍術は、《かげしゃじゅつ》」


 術の説明を聞いたクコは感心する。


「なるほど。指を立てる構えをすると、存在感が極端に薄まり、影のように人に認識されにくくなる。ですか」

「うん。でも、あくまで気づかれにくいだけ。だからあんまり勝手には動けないのさ。だって、影が変な動きをしたら気になっちゃうだろう?」

「はい。つまり、完全に存在感がなくなるわけではないのですね。素晴らしい忍術です」

「少しずつなら動いても大丈夫だよ」

「わたしも欲しいです、その巻物」

「免許皆伝の試練を受けて、合格すればもらえるよ」

「わあ! わたし、試練受けます」


 うれしそうなクコにルカが釘を刺す。


「クコには向いてないと思うわよ。いったいどれだけここに滞在する気?」

「ボクとエミは三か月くらいここにいて、生活しながら体術とかも学んで、最後の二日間が試練だったんだ。試練は一発で合格したよ」


 アキの体験談にクコは肩を落とす。


「そうでしたか。わたしに忍者の体術は難しそうです。学ぶ時間もあまり取れないかと思いますので、今回は諦めます」

「うん。人生長いし、また機会はあるよ」


 陽気に励ますアキにクコも笑顔を浮かべる。


「はい」




 その頃、エミの話を受けてチナミが言った。


「なるほど。忍者の活動は裏稼業ですか。天下のどこに忍者が潜んでいてもおかしくありませんし、納得しました。免許皆伝の話も、フウカから聞いてましたし、門下生が里の外にいても不思議じゃないと思ってました」

「まさか、エミさんが……忍者だったなんて……」


 驚くナズナに、エミがにこやかに言う。


「うん。忍者はどこにでもいるよ」

「あ、あの……じゃあ、エミさん、忍術……使えるんですか?」


 ナズナが質問した。

 エミはニコッと笑って答える。


「ちょっとだけねー!」


 顔を逆さまに出したまま、巻物を取り出して口にくわえる。

 指を立てるポーズでウインクして、これからやるよ、と合図する。


「《かげぶんしんじゅつ》」


 一瞬にして、エミが二人になった。


「はわ……」


 ナズナは驚いて口を押さえている。

 チナミは冷静だった。


「分身体が横に一人増えた形。つまり、本体が存在し、分身体はなにかの条件で消えてしまうんですか?」

「その通り!」


 エミはうれしそうに言うと、口からポロッと巻物を取りこぼした。これをチナミがキャッチしてエミに返す。


「ありがとうチナミちゃん。でね、分身体はダメージを受けると消えちゃうの。かすり傷くらいなら大丈夫なんだけどね。あと、分身体は自分の第二の目になるから、二つの場所を同時に見る訓練をしないとコントロールが難しいよ」

「欲しい」

「ん? チナミちゃんも免許皆伝の試練を受けるの? チナミちゃんならきっと大丈夫だよ。アタシとアキは試練に二日かかったけど、チナミちゃんは一日で合格できると思うな。里の子は試練に半日もかからないしね」

「志願して、チャンスをいただけたら頑張ってみます」

「うん! 応援してるよ!」

「ありがとうございます」

「が、がんばってね」


 ナズナにも応援してもらい、こくりとチナミはうなずいた。

 ふとエミが小首をかしげる。


「あれれ? アタシが今捕まったから、あと何点集めればいいの? 実はね、天井裏でずっと寝ちゃってたから状況がわからないんだっ」


 頭をかくエミと同じ動作の分身体を見て、チナミはジト目で答える。


「おそらくあと二点です」


 ちょうどアキも捕まったとは知らないこちらの三人も、エミが捕まったと知らない向こうの四人も、そう認識した。

 そんな中、チナミは考える。


 ――試練の最中に居眠りをするなんて、マイペースというか神経が太いというか。忍者には必要な心構えなのかも……いや、そんなわけ無いか。私も頑張ろう。


 かくして、サツキとクコとルカがアキを捕獲、ナズナとチナミがエミを捕獲し、点数は二点加算され、合計六点になった。

 第一の試練は七点で合格だから、あと一点を残すのみとなる。

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