16 『忍者だったんですか!?』

 バンジョーは、歩いても忍者を発見できずにいる。


「先生、どこにいるかわかりますか?」

「おれに聞いたら試練の意味ねえだろ」

「なんでですか。先生もオレたちの仲間じゃないっすか」

「悪いが、仲間でも協力できないときもある。おれにはこの付近に隠れている忍者がわかるが、それを教えちまったらおまえの成長につながらない」

「お? じゃあ、この付近にいることはいるんだな! よーし、ちょちょいと捕まえてやるぜ! なっはっは!」


 腰に手をやって豪快に笑うバンジョーだが、後ろから声が飛んでくる。


「捕まえられるもんなら捕まえてみるでござる!」


 挑発したのは、少年忍者フウタだった。

 慌てて振り返ったバンジョーが走り出す。


「待てー!」

「待たないでござるー!」

「待て待てー!」

「待たないったら待たないでござるー!」


 また追いかけっこする二人を見て、玄内は小さく嘆息した。


「やれやれだぜ」


 そして、振り返ることなく、後ろに問いかけた。


「で、なんの用だ?」




 サツキは屋敷の廊下を歩いていた。


 ――この廊下のどこかに、また仕掛けがあるかもしれない。


 注意深く観察しながらの歩行で移動が遅くなり、クコとルカが先を進む。

 ふと前方を見て、サツキは目をこらした。


 ――なぜだ?


 疑問がよぎる。

 理由は明快だった。

 前を進むクコとルカが、忍者らしき人が座っている横を、平然と通り過ぎたからである。


 ――あれは、忍者ではないのか? いや、そんなはずはない。どう見ても人じゃないか。いかにも忍者らしき服をまとってる。ついでに言えば、船をこいでいるようにさえ見えるぞ。


 うつらうつらと眠気に誘われ、もしかしたら眠っているのではないだろうか。

 クコがサツキを振り返った。


「サツキ様、どうされましたか?」

「……」


 船をこいでいる黒装束のほんの数歩先にいるクコが、その黒装束には気を留めずにいる。


 ――クコには見えていないのか?


 ますます深まる疑問に、サツキは無言で歩を進めて黒装束の前で立ち止まり、ポンと肩を叩いた。


「捕まえた」


 すると、叩かれたのに驚いたのか、黒装束は肩をビクッと跳ねさせた。口にくわえていた巻物をポロッと取りこぼし、驚きの声を上げる。


「うわ! 寝ちゃってた。捕まっちゃったかー」


 その声に、サツキとクコとルカは目を丸くした。

 黒装束はサツキを見上げて、忍者には似つかわしくない太陽のような笑顔を浮かべた。


「あ! サツキくん! なーんだ、試練に挑戦する人たちってサツキくんたちだったのか!」

「ア、アキさん!?」


 なんと、黒装束はアキだったのである。

 アキはサンバイザーをトレードマークにした陽気な青年で、いつもエミという女性とコンビでサツキの前に現れる。『さいてのむらほしふりむらで出会って以降、王都や城下町など度々顔を合わせていたが、ここ鳶隠ノ里でも会うことになろうとは思っていなかった。しかもただこの『かぜめいきゅう』に迷い込んだわけでもなさそうなのである。

 頭が整理しきれないサツキに代わり、クコが疑問を呈した。


「どうしてアキさんがここにいらっしゃるんですか? それに、いつからそこに?」


 アキはニカッと笑った。


「へへへーん。実はね……ボクとエミは、忍者なんだ!」

「忍者だったんですか!?」


 クコが頓狂な声を上げた。




 ナズナとチナミは屋敷内を探索していた。

 とある部屋に入る。

 割合、狭い。

 小さな部屋だから、調べられるものも少なそうである。

 タンスや掛け軸など、いろいろと調べてみる。

 しかし仕掛けらしい仕掛けはない。


「ダミーの部屋かも」

「そ、それって……なにも、ないってこと?」


 こくっとチナミがうなずく。


「でも、まだ押し入れは調べてない。狭い部屋である疑問は、掛け軸の裏側に秘密の空間があるから。そうにらんだけど違った」

「じゃあ、その空間が、押し入れの中の可能性が……」

「うん」


 二人は押し入れを開けた。

 押し入れは上下に分かれており、その下部を調べてみる。すると、壁が回転した。どんでん返しである。


「あ、あったね」

「だね。でも、なにもない……」


 暗いから見えないだけかもしれない。だが、チナミが見てもなにもないように思われる。


「上も、見る?」


 こくりとチナミは顎を引いた。


「見よう」


 二人は押し入れの上段の壁を調べ、チナミが天井を押してみると。


「……」


 ほんのわずかに、天井の板が動いた。


 ――これは、天井裏になにかある。もし天井裏に潜むとすれば、入口のここにいるわけはない。おびき出すには……。


 押し入れの奥に移動し、チナミは天井をトンッと蹴った。チナミが小さいからこそできる動きである。


「きゃっ!」


 悲鳴が上がる。

 チナミは高速で移動して天井の板を上げると、天井裏に飛び上がり、天井裏入口から足を垂らして座った。

 そのとき。

 目の前に突っ込んでくる忍者を、チナミは捉えた。

 が。

 その忍者が、チナミの知っている人だったので目をしばたたかせて、突っ込んでくる忍者を抱き止めた。


「確保」


 ぎゅっと忍者を抱きしめる。


「え? その声、チナミちゃん!?」


 突っ込んで来た忍者は、エミだった。

 天井裏入り口を挟んで、二人は抱き合った格好になる。チナミは入口の縁に腰掛け、エミは前のめりになっている。下にいたナズナはチナミの足しか見えない。

 しかし、エミの声は聞こえた。


「エミさん……?」


 ぽつりとナズナがつぶやく。


「おや? 下にはナズナちゃんもいるね?」

「います。エミさん、こんなところでなにをしてるんですか」


 チナミの疑問に、エミはまだチナミに抱きついたままひまわりのような笑顔を咲かせる。


「えっへへー! 実はね……アタシとアキは、忍者なんだよ!」

「エミさんが、忍者……?」

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