13 『里の子供はみんな持ってるでござる』

 ナズナとチナミは、くノ一のフウカと屋敷内にいた。

 二階の一室。

 窓から外の景色、連なる山々が見渡せる。

 フウカは二人が最初に捕まえたくノ一であり、二人が唯一捕まえた忍者でもあった。また、フウカは二人と同い年であったため、すぐに仲良くなれた。

 戸棚から急須を取り出して、湯飲みに緑茶をついで持ってくる。二人にお茶を出してやりながら、フウカは言った。


「この里では同じくらいの年の子はあと二人しかいないから、チナミとナズナとお友だちになれてうれしいでござる」


 自分でもおにぎりを作って持ち寄り食べるフウカに、チナミが質問した。


「二人って?」

「まだ十歳と八歳の男の子でござる」

「へえ。じゃあ、他に子供はいないの?」

「十五歳、十七歳、十八歳の子もいるでござるよ。男の子は十五歳のフウガさんっていうお兄さんで、あとの二人が女の子。十七歳はあたしの姉で、十八歳の子と一番の仲良しでござる。あとはあたしよりずっと小さい子でござる」

「そっか」


 つまり、年が近い姉は友だちではないし、六つ年上の女の子も姉が親友で、フウカにとって互いに一番の友だちの女の子という存在がいないのである。十歳以下はわからないが、フウカには物足りない相手かもしれない。


「里の、外にも、お友だちは……?」


 ナズナの問いにフウカは胸を張り答える。


「いるでござるよ。二人にも紹介したいでござるが、この話はまたあとでさせてほしいでござる。一つ目の試練が終わったあとにでも」

「うん」


 今度はチナミが質問する。


「忍術って、どんなのがある?」

「いろいろあるでござる。あたしがやったのも、《しょうえんじゅつ》以外は忍術でござる」

「私も覚えたい。できるかな?」

「チナミちゃんなら筋が良さそうだから、二日もあればちょっとはできると思うでござる」

「やってみたい」

「うん。それに、あたしのおじいちゃん……ええと、里長のフウジン様なら、巻物を作る魔法で免許皆伝の巻物をくれるかもでござるね」

「免許皆伝?」

「里の子供はみんな持ってるでござる。て言っても、あたしくらいの年には免許皆伝の巻物も使わず忍術を使いこなす必要があるでござる」

「それを持ってるだけで、忍術が使えるの?」

「そうでござる。免許皆伝の試練を受けて、認められるともらえる巻物でござる。巻物をくわえると、三つの忍術が使えるでござる。《かげぶんしんじゅつ》、《かげがくれじゅつ》、《かげしゃじゅつ》の影忍術三つ。《影分身ノ術》は二人に分身できる術、《影身隠ノ術》は人の影に隠れて潜む術、《影模写ノ術》は存在感が極端に薄まって影のように人に認識されにくくなる術でござるよ」

「便利」

「ふふ、そうでござろう。おじいちゃんは『にんぽうそうしょう』とも呼ばれるすごい人なんでござる」


 チナミはおにぎりを口に入れてもぐもぐ噛み、飲み込む。そして立ち上がった。


「フウサイさんを仲間にする試練も突破して、免許皆伝の試練も受けたい」

「応援するでござるよ!」

「わたしも、応援してる」


 フウカとナズナの応援に、こくっとうなずき、チナミは屈伸運動をして準備体操する。

 二人も食べ終わると、フウカが言った。


「この試練の間、チナミとナズナのコンビネーションも大事だと思うし、あたしは下がっているでござる。本当は協力せずともいっしょに見て回りたかったでござるが、影ながら応援させてもらうでござる」

「ありがとう。フウカちゃん」

「頑張る」


 にこっとナズナが微笑み、チナミが拳を握ってみせる。




 バンジョーと玄内もお昼ごはんを食べている。

 場所は庭。

 微風のそよぐ木陰での昼食だった。

 山の中にある屋敷の庭園には、ピーヒョロロと鳥の鳴き声が聞こえてくる。それがなんの鳥なのか、バンジョーにはわからない。だが、なんだか懐かしくて嬉しい歌声に感じられた。

 雲の流れはゆっくりしていて、試練の最中でなければここで料理を作ってみんなでゆっくりと過ごしたくなる。

 さっそくバンジョーは食事を終えた。


「ごちそうさまでした! ふい~。うまかったぜ。オレのおにぎりってなんでこんなうまいんだろうな」

「うまいのには同意だが、おまえ、本当に味わったか?」

「もちろんっすよ!」

「よし。じゃあ、午後もしっかりやれよ」

「押忍!」


 午後も、というか、午後は、と言ったほうが適切かもしれない。そうは思ったが、玄内は余計なことは言わなかった。

 そのとき、のけぞるように空を見上げたバンジョーが発見する。


「お? 今、目が合ったぞ?」

「ほう」

「木の上に隠れてたのか! 捕まえてやるぜ」


 勢いよく立ち上がったバンジョーが、木にのぼる。

 が。

 忍者はくるくるくるっと回転しながら飛び降り、タンと着地する。

 少年忍者だった。

 まだ年は八歳、身長は随分と低く、背の低いチナミより少し低い程度。そんな小さな身体に合わせた小さい刀を背中に、手にはヨーヨーを持っている。


「ぼくはなかふう。お兄ちゃんがフウサイ様のなんなのか知らないけど、フウサイ様は渡せないでござるよ!」


 遅れて着地したバンジョーが言い返す。


「オレはバンジョー! フウサイとは幼馴染みだ!」

「ふん。知らないでござる。じゃ」


 フウタはヨーヨーを別の木に投げる。

 ヨーヨーは木の枝に絡みつき、ヨーヨーの紐が巻きつく力に引っ張られてフウタは木の枝まで運ばれてゆく。


「なんだあれ! ヨーヨー使ってるぞ! カッケー!」

「ぼっ、ぼくは、まだ筋力がないからヨーヨーに頼ってるわけじゃないでござるからね!」


 少し恥ずかしそうに悔しそうに言い放つフウタだが、バンジョーは心からカッコイイと思っている。


「おう!」

「フウサイ様はぼくの憧れ! 渡さないでござるからね!」


 器用に木の枝を渡り、いつの間にか姿をくらますフウタ。それを追い切れなくなり、バンジョーは玄内の元に戻ってきた。


「先生、あいつすばしっこいっすよ」

「だろうな。まあ、相手が子供だからっておまえが甘く見てたわけじゃないのもわかる」

「はい! そりゃあもう!」

「だったら実力不足を反省しろ」

「は、はいっす!」

「さて。おれも食い終わったし、行くか」

「押忍!」


 バンジョーが返事をして、二人も再び、試練を再開した。

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