12 『こんな古典的な手にかかるとは』

「まさか、こんな抜け道があったなんて。驚きです!」


 クコが囲炉裏の下に仕掛けられた抜け道を見つけた。


「サツキ、どうする?」

「行きますか?」


 ルカとクコに問いかけられ、サツキは考える。


「ちょっと待ってくれ」


 少し考えた結果、《とうフィルター》を使うことにした。


 ――俺の予想が正しければ……。


 人差し指でこめかみを叩く。

 囲炉裏の下の抜け穴を見る。

 暗いが、中は迷路状になっているのがわかる。


 ――やっぱりな。


 確証を得てから、《透過フィルター》をリセットし、サツキは自分の推論を話す。


「この囲炉裏の下は、おそらく迷路だ。迷路の地図は忍者たちだけがわかるようになってる。追っ手が到着するまでにこの中に入り込み、追っ手をまく。しかし、それ以外にも有効な手段がある。追っ手が迷路に侵入したところを狙い撃つこともできるんだ。まあ、今回は攻撃しないルールだからその点は安全だが、迂闊に入ると迷い込むことに変わりない。特に今回の試練においては、期待できる戦術がある」

「戦術ですか」

「俺たちがこの場所を見つけ、喜び勇んで飛び込む……それを、どこかに隠れて見届ける。で、ここまで来て囲炉裏をスライドさせて出入り口を閉じる。あとは、暗闇の迷路の中を時間まで彷徨ってくれたら、こんなに簡単なあしらい方はない」

「なるほど。ということは……」

「うむ。この部屋で潜んでいる可能性が高い」


 サツキとクコの話を聞き、ルカも「そうね」とうなずく。続けてサツキが予想を言う。


「もし、ここが本当の戦場になったら……この囲炉裏を相手が見つけたところで、後ろから突き落とすことも考えられる。背後や上から隙を衝くのは常套手段なんじゃないだろうか」


 考えながら話すサツキの意見を受け、クコは自分の背後をまず振り返り、そのあと上を見る。


「ひゃああ!」


 クコは上を見上げたまま尻もちをつく。


「なに?」


 ルカがクコの顔を見て、その視線の先を見上げる。


「い、いました!」


 天井の隅に張りつくようにこちらを見下ろす忍者。

 一拍遅れてサツキも見上げ、予想と可能性を話しておきながら、その自分が見落としていたことに気まずさを感じる。


「考えてばかりで見逃していた……。こんな古典的な手にかかるとは」

「よく気づかれた。貴殿の推理、十全と言えよう。ゆえに名乗ろう。拙者はかりさわふうりゅう。だが、簡単には捕まらないでござる」


 片目を隠した髪型の忍者フウリュウが、堂々と言い切る。


「私がクナイによる《とうざんけんじゅ》を横から咲かせて、隅に固定する?」


 ルカの提案も悪くはないが、


「それじゃあ俺たちも近づけない。かといって、攻撃してこない相手に後ろから攻撃するのは気が進まないし……」


 もしかしたらルカが大量のクナイを突き出させた攻撃さえ避けることも考えられるが、相手が攻撃をしてこない条件ならば、可能な限りフェアにいきたい。また、当たって怪我をさせたら申し訳が立たない。

 クコは閃いた。


「サツキ様! 帽子です」

「帽子?」


 と、サツキは帽子を手に取る。


「はい。帽子を足場に、膨らむ効果で跳ねるんです」

「そうか。クコ、ナイスアイディア」

「えへへ」


 その間もずっとフウリュウは三人の出方を黙ってうかがってくれている。両手両足で身体を支えるのも、まだこのあと何時間でもやっていられそうな涼しい顔である。


「壁際に追い詰めたことに違いはない。あとはこの一手で決まりだ」

「サツキ様、わたしに飛ばせてください」

「わかった。いくぞ」

「はい!」


 サツキは帽子を回転させながら低い軌道で至近距離に投げる。クコがそれに右足で飛び乗る。すると、クコはゴムで跳ね返されるように反発して、フウリュウに向かって飛んだ。


「捕まえました!」


 フウリュウに届くと確信して手を伸ばすクコだが、フウリュウは冷静に手を素早く動かした。印を結んだのである。その間、身体は足だけで支えており、そう長くは手を離していられないはずだが、手の動きは一秒とせず終わる。


「《ぬけあなじゅつ》。さらば」


 そう言うと、フウリュウの背後に穴ができて、その穴に背中から倒れるように消えた。その動きはまるで、走り高跳びにおける背面跳びのように美しく流麗だった。


「え?」


 クコは驚きながらも、自分もその穴に向かって飛んで行こうとする。

 が。

 穴が塞がって外には出られず、額を壁にゴツンとぶつけて、部屋の床に落ちてきてしまった。


「ううぅっ! 痛いですぅ。サツキ様ぁ」

「今のはなに?」


 ルカが疑問を呈する。

 サツキはクコの頭を撫でながら予想を話す。


「おそらく、印を結ぶと、抜け穴を作れるんだ。俺の《いろがん》で見えた魔力の流れからして、今のは忍術ではなく魔法だ。意識的に魔法を解いたように見えたから、抜け穴の大きさ、持続時間も任意で操作できるのかもしれない。壁抜けみたいなことができるオーラフ騎士団長との最大の違いは、他人も抜け穴によって通り抜けられる点だと思う」

「なるほど! 消えるように抜け穴が閉じたのはそのためだったのですね。おかげでおでこをぶつけてしまいました。せっかく捕まえたと思ったのに、残念です」


 悔しそうなクコにサツキが声をかける。


「切り替えていこう」

「今のは相手がすごかったわ」


 まだ床に座り込んでいるクコを見て、サツキは聞いた。


「大丈夫か?」

「わたし、お腹が減ってしまいました。お昼ごはんにしませんか?」

「そうだな。もうお昼を回ったようだ」


 部屋の壁に掛かった時計を見ると、十二時五分だった。


「サツキ様、ルカさん。せっかくですし、さっきの中庭を眺めながらいただきませんか」

「それがいい」

「ええ」


 三人は、廊下から足を投げ出し、中庭を眺めながらお昼ごはんのバンジョー特製おにぎりをいただいた。


「池の鯉を眺めながらのお食事もいいですね」

「うむ」

「あら? サツキ様、あそこ……池に、竹が浮いています」


 クコがなにかを発見した。


 その頃、ナズナとチナミも昼食にしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る