12 『サツキ……あいつ、船に乗ってないでしょうね』
この日の夕方。一人の少女が東海道を歩いていた。
空が暗くなってきたので、少女は望遠鏡を取り出して月を観察する。
「……よし」
観察した月をスケッチして、また少し歩く。
「
少女・
ヒナが歩いてると、大きな造船所を見つけた。
『
「ここ川蔵は数年前までは黄崎ノ国だったけど、今は武賀ノ国。だから武賀ノ国の船を作ってるのよね」
父から家督を継いだ新しい国主が、水軍にも力を入れている噂はあった。
「え……」
わずかにヒナは驚いた。
――あれは、蒸気船。『
しかし、ヒナにはそんなこと関係ない。
――まあ、だからあたしがなんだってこともないけどさ。
造船所では、六十を過ぎた棟梁がせっせと働いているのが見えた。
「棟梁、この調子なら数日以内にできそうですね」
「ああ。頑張るか」
若い船大工の肩を叩き、棟梁は小槌を打っていた。
それを見て、ヒナは歩き出した。
「もう少し歩いたら、今日は宿に泊まろう」
ヒナは、とある目的のために旅をしていた。
その旅の中で出会った少年サツキが、ヒナの目的にかかわる大事な鍵を握っているような気がしてならない。
「サツキ……あいつ、船に乗ってないでしょうね。話したいこと、あるんだから」
――あたしにもお父さんにも導き出せない
それからまた少し歩くと、ちょうど宿が見えた。
「まあ、今日はここまでってことで!」
空もすっかり暗くなったし、ヒナは休むことにした。
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