ケース2 『大陰陽師曰く』

 その顔見ればわかるわ。

 ほんまおおきに。

 うちの話が聞きたいんやろ?

 理由は、愉快な寿司屋がなに言ってるのかいまいちピンとこんかったからか、あるいは、おたくが風狂人だからか。

 まあ、どっちでもええわ。

 ほな、語りましょう。



 サツキはんとクコはんの物語。

 それは同時に、リラはんの物語でもある。

 そして、その三人を中心とした組織の物語でもあり、そこに関わるすべての人々の物語でもあるわけやな。

 けど、物語ゆうんは常にどこかは目に見えへんもんや。

 三人だけじゃなく、他のだれかの物語もあって、物語には筋がつく。

 筋道立たざる理屈などないように、物語も多角的に見れば、すべてに原因やら因果はあんねんか。

 今回の王都の物語みたいにな。

 せやかて、すべての人間がすべての因果関係まで理解する必要はあらへん。

 それこそ、王都の物語をなんとなく楽しみたければ、その程度の差こそあれ、サツキはんとクコはんとリラはんの知識が少しあったら表面的には充分やねんからな。

 寿司屋の話だけでも事足りるやもしれへんけど、うちからは与太話でもさせてもらおうか。



 まず、この世界のことだけ知っておいてもらえるとありがたいわ。

 ここは、魔法の世界や。

 世界樹っちゅう魔法の木が、人々に魔法を与えてんねん。

 けど、魔法を使えるのは人口の一割程度やろか。

 個人が自ら自分だけの魔法を創造し、扱えるわけや。

 ただ、ほとんどの人間は一種類しか使われへん。

 中にはうちみたいに、複数種類を使わせてもらう人間もおるんやけど、それはさらに魔法人口の一割……全人口の一パーセントくらいやろな。

 誤解せんといてな。

 自慢やないねん。

 うちは家系で一つは使えるようになるから、うちが偉いわけやないし、のちにサツキはんやクコはんたちも複数種類を使えるようになるしな。

 まあ、もうちょっとだけ先のことやけど。



 前提はこのくらいにして、サツキはんとクコはんの話にいこか。

 実はな、サツキはんはこの世界の人間やないねん。

 異世界から転移してきたいうねんか。

 いわゆる召喚やな。

 その召喚魔法を発動させたんが、クコはんや。

 サツキはんは今年十三になる少年で、クコはんは十四になる少女や。それも、クコはんは王女様やねん。

 その王女が、アルブレア王国ゆう国から海を渡って、世界樹のある晴和王国まではるばる旅して、世界樹の根本までてくてく歩いて来て、サツキはんを召喚した。

 あとでサツキはんから聞いた話やと、アルブレア王国がイギリス、晴和王国が日本っちゅう国にそっくりみたいやねん。世界地図までよう似てるらしいわ。時代はもっと以前の感じらしいけどな。

 で。

 なんで一国の王女がそんな旅までして、世界樹の根本で異世界に住むごく普通の少年を召喚したのか。

 それは、クコはんの国に悪い大臣がおったからやねん。

 クコはんの父親は国王やねんけど、身体がそんな丈夫やないらしくて、そこはリラはんも似てもうたかな。

 国王が体調を崩すと、悪い大臣が執権を握り国を実効支配し始めた。

 さらに、その大臣は魔法の源、世界樹を奪って世界を掌握しようとしてるとわかってん。

 それに気づいたんが、ちょうど新しくクコはんの家庭教師になった博士でな。

 晴和王国で古代文明を研究してはった方やねんて。

 このまま過ごしていたら国が完全に乗っ取られて、世界まで滅茶苦茶にされるとわかったクコはんは、博士の進言で旅立ちを決めたんやな。

 博士は古代文明の研究をする中で、過去にも異世界から召喚された勇者の記述を見つけてな。勇者が世界を救ったゆう話になぞらえて、勇者召喚を計画したみたいやねん。

 老齢の博士は、城に残った第二王女――つまりクコはんの妹・リラはんに魔法の手ほどきをし、リラはんだけの魔法を身につけさせた。

 その間に、世界樹を目指して旅する姉クコはんは、物語の結末を変える『トリックスター』アキはんとエミはんに出会うねん。ついでに、『料理バカ』な『ナイスガイ』はんにもな。



 さて。

 話は戻って、サツキはんとクコはんが出会ったところやねんけど、その後二人はすぐに追っ手のアルブレア王国騎士に遭遇してまう。

 騎士と戦いながら逃げて、広大な世界樹ノ森を抜けて、星降高原っちゅう地域を旅するわけや。

 その地域は『トリックスター』アキはんとエミはんのふるさとやから、クコはんにとっては再会、サツキはんにとっては初めましてやねんけど、二人と仲良うなって、サツキはんは武器も手に入れて、仲間集めを開始すんねん。

 仲間集めの最初が、『おうおくしき』の温泉街や。

 そこには、クコはんの旧友がおる。

 医者の娘で、強力な魔法を使える知恵者やな。

 非凡な頭脳のサツキはんを支える参謀っちゅうところか。

 ルカはんゆうねんけど、その子を仲間にして、三人は王都に向かうねん。

 王都ではさらに仲間集めをしたいゆうてな。

 世界最大の都――王都には、ルカはんに魔法を教えた『万能の天才』玄内はんがおるし、クコはんのいとこでデュアルな魔法の使い手ナズナはんもおる。

 おまけで言うと、温泉街でたまたまサツキはんが出会ったウサギ耳の少女も同じタイミングで向かっててな。

 その子はヒナはんゆうて、自称『科学の申し子』や。

 地動説っちゅう、この世界ではまだ受け入れられてへん考えを研究してんねん。そこにサツキはんが本格的に絡んでいくのは、王都の次の次の物語以降といってもいいかもしれへんけどな。

 また、クコはんの妹・リラはんも、魔法を完成させるとアルブレア王国を旅立って、それからすぐに出会った特殊な存在によって、王都にやってくる。クコはんとサツキはんに会うために。

 そんな人らが王都に集うねん。

 さらに言えば、表面的な部分でよう知らんでええ人らもいるな。

 トウリはんとウメノはんはその典型や。

 あとで知ればええんやから。

 そうした人々に、王都にいる少女歌劇団やら奇怪な住人たちを巻き込み、人斬り事件と怪盗事件を軸とした物語が展開されてゆく。

 一人だけ――このあと登場するミナトはんっちゅう少年がおんねんけど、この子はあまりに特別やから覚えていってほしいわ。



 最後に、ちょっとした妖怪学講義をさせておくれやす。



 怪異っちゅうのはどこにでもいて、どこ探しても目には見えへん。

 世界や自然を動かすことはあっても、干渉はちっとばかし難しい。

 うちみたいな陰陽師やないとな。

 せやから、怪異を常人より知っとるうちからの怪異的なばなしどす。

 言葉には霊が宿る、ゆえにことだま

 霊とは怪異であり、妖怪をも指す。

 この言葉の霊っちゅうんが怪異であり、実は世の中の多くのことを動かしてる目に見えざる原理や。

 引き寄せの法則なんてのは、思っていることをそのまま引き寄せるだけの単純で都合のいいもんやない。

 怪異がつながるものを引き寄せるわけやねん。

 つながりってのは大事でな、類は友を呼ぶように、言葉の音と音、意味と意味、あらゆるものがつながってまう。

 たとえばこの王都の物語も、意味あるもの同士がつながる。

 それは人と人かもしれへんし、それだけやないかもしれへん。

『会う』と『遭う』とは意味こそ違えど同じであるように、出『会い』の中にある『愛』と『哀』は別物やのに時として重なるように、『会う』は『え』と読むのも、『会う』ことは時か場所か人が『重なる』ことで、『』と読むように。

 なんでも裏ではつながってるものやねん。

 だれかの視点だけを追って物語を見れば唐突に見えても、それはどこか、裏ではつながってると思ってええんやないかな。

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