2 『帽子×妖精』
手をあげて挨拶する明るい笑顔の二人組。
男女のコンビで、年は十代半ばから後半くらいだろうか。それとも童顔なのだろうか。
サツキがだれだろうかと思ってクコを見やると、クコは笑顔を咲かせた。
「アキさん! エミさん! お久しぶりです」
「もうかれこれいつぶりかな」
「ホント久しぶりだねー! あれれ? その子は?」
「だれ?」
アキとエミ。
少年と少女といってもいいように思われる二人が、サツキに興味を持った様子で聞いた。
クコは双方に紹介する。
「ええと、こちらがサツキ様。わたしと旅をすることになった方です。そして、こちらがアキさんとエミさん。サツキ様に会う前に、一時期いっしょに旅をしていた方ですよ」
「サツキくんか! よろしくね!」
「サツキくーん! 仲良くしようね!」
嬉々とした輝かんばかりの笑顔の二人に、同時に右手で握手を求められる。
――二人同時に手を出されても……?
サツキは困ったように、二人の間に右手を差し出した。
「はい、よろしくお願いします」
すると、アキがサツキと右手同士で握手をし、エミがサツキとアキの右手を両手で取って、二人は腕がちぎれるほどブンブン振った。
「今日からボクたちは友だちだ!」
「友だちに遠慮はいらないよ! なんでも言ってね」
「あ、はい」
二人の勢いに流されるように返事をする。
「クコちゃんの探してた子ってサツキくんだよね?」
エミに聞かれて、クコはうなずいた。
「はい。そうです」
「ちゃんと会えてよかったね!」
「おめでとーう!」
「ありがとうございます」
お礼を述べるクコを見て、アキとエミは自分のことのようにうれしそうだった。
突然、アキが首から下げていたカメラをパシャリとシャッターを切ると、カメラから帽子が出てきた。サツキの頭にかぶせた。学生帽のような帽子である。桜のエンブレムがついていた。
「これ、お祝いにあげるね!」
続けてエミが帽子の向きを直してくれて、
「似合ってるよ!」
と褒められた。
「いいんですか」
サツキが聞くと、二人は大きくうなずいた。
「もっちろん!」
「どうぞー!」
「ありがとうございます」
二人の好意を素直に受け取る。アキとエミに遠慮は不要に思われたというのもある。が、かぶった感覚がしっくりきたのも大きかった。
「サツキ様、ステキです。お似合いですよ」
「そうか」
クコにも褒められ照れるサツキに、アキとエミは帽子の説明をする。
「《
「
「これが似合う人がいたらあげなさいって言われててさ。『ぼう』に関する八つの効果があるんだ」
「使って楽しいと思うし、じゃんじゃん使ってね!」
魔法道具。
一見普通の帽子のようだが、《
――どんな帽子なんだろう。
サツキが質問しようと口を開く。
「あの――」
説明を求めようとしたサツキであったが、アキとエミはもう手を振っていた。
「ボクたち急ぐからまたね!」
「撮影したい場所がたくさんあるんだ!」
「はい。またお会いできるとうれしいです」
クコはなんの戸惑いも見せずに嵐のような二人に挨拶を返す。
「旅する二人に《ブイサイン》」
「道中気をつけてね、《ピースサイン》」
アキとエミは人差し指と中指を立て、ブイサインともピースサインとも呼ばれるポーズをした。
「おまけに《
エミはそう言って、どこからか取り出した小槌をサツキとクコに向けて一回ずつ振った。
「じゃ、良い旅を!」
「ごきげんよーう!」
大きく手を振って二人は妖精のように軽やかな足取りで去ってゆく。
呆気に取られるが、サツキは慌てて、
「さようなら」
と挨拶した。
クコは大きく手を振り返し、姿が見えなくなってからサツキに向き直る。
「まさかあのお二人にお会いできるとは思いませんでした」
「俺は最初、クコにはこんな村にも知り合いがいるのかと思ったぞ」
「ふふ。この村を訪れるのは初めてですよ」
「それにしても台風みたいな二人だったな」
「そうですか? 明るくて楽しい方たちですよ」
「うむ。それはわかるよ」
「
赤いつばのサンバイザーをかぶった二人組で、日の丸が描かれている。アキには『必勝』、エミには『安全』の文字もある。パーカーはオレンジと白を基調とし、ズボンとスカートは黒、身長は二人そろって一六五センチほど。二人共カメラを首から下げていたし、撮影したい場所があると言っていたし、カメラマンか写真好きな旅人だろうとサツキにも推測できた。だが、変わり者だとは思う。
「そういえば、あの二人、変わったことをしてたな」
すぐにクコはどのことを言ったのか察した。
「アキさんとエミさんの《ブイサイン》と《ピースサイン》は、勝利祈願の魔法と安全祈願の魔法なんです。それぞれ、勝負事に勝ちやすくなるものと、安全性が高まるものです。本人の頑張りや注意や行動もありますから、どちらも過信するものではありませんが」
「だからわざわざあんなポーズをしてみせたのか」
「また、エミさんの《
「なんだかいい加減な魔法にも思えるが――二人の気持ちはうれしいよ。今度会ったらお礼を言わないとな」
「はい」
「あと、この帽子なんだが……」
「可愛いですよ」
やや顔を赤らめ、サツキは言った。
「そうじゃなくて、アキさんとエミさんは魔法道具と言ってた。どんな効果があるんだろうか」
「確かに、聞きそびれてしまいましたね」
「またいつ会えるかわからないし、まずはいろいろと試してみないとだな」
「そうしましょう」
歩き出してすぐ、刀の店を発見した。
「サツキ様。すっかり整いましたけど、武器はありませんね。刀はどうです? 先の戦いでも、使いましたよね」
「そうだな。俺は空手をやっていたから素手のほうが戦い方は知ってるけど、どうしようか」
「わたしが見たところ、サツキ様は観察して戦うタイプです。相手の魔法がどのようなものか、それを見極める間、素手よりリーチが伸びて距離が取れる刀を持つのは悪くないと思います」
「うむ。それは一理ある。聞いておきたいんだが、魔力によって拳の威力を高めて剣以上の威力を出すことは可能なのか?」
「そうですね。結論からいうと不可能ではありません。ただ、切断性の高い剣と衝撃力の拳では種類が違いますから、威力の比べ方は難しいです。そして、魔力を最大限まで高めた場合、直接魔力をぶつけられる拳のほうがインパクトが大きくなり、魔力が弱いとやはり武器を用いたほうが打撃力も大きいですね」
「現状、俺程度の魔力じゃ素手だと剣や槍にはかなわない。どちらでも戦えるようにするとして、武器を持っていたほうがいいかもしれない」
「決まりですね。いきましょう」
が。サツキは呼び止めた。
「クコ。お金は大丈夫なのか? マントや服も買ったし、刀は高いだろう」
おおらかな笑みでクコは答えた。
「大丈夫ですよ。異世界からやってきた勇者様は、この世界で有用なものをなにも持っていないかもしれない。だからわたしを送り出してくれた博士が、必要になるだろうお金を多めに持たせてくれました」
もう、サツキはいったいいくら持っているんだとは聞かなかった。今日聞く気分ではなかった。
軽い足取りでクコは刀の店に入る。サツキもそれに続いた。
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