14 『DAY×LIGHT』
戦いを終えたサツキは気を失ってしまった。
なんだか長い夢を見ていたような気分になったけれど、目が覚めたのを実感すると同時に、疑問が浮かんだ。
「ここはどこだ?」
――それより、この感覚は……。
温かくて妙に落ち着く。そう思ったら、クコが顔をやや振り返らせて言った。
「目が覚めましたか。おはようございます。そろそろ朝になりますよ。と言っても、先程からあまり時間は経っていませんが」
ふふっとクコは上品に笑っている。
「あの、それより、これは……」
サツキは、どうやら自分はクコにおんぶされているらしいと気づいた。
「お疲れでしょうからこのままでもわたしは大丈夫ですよ」
このままでもと言われても、サツキは断る。
「いや、俺のほうこそ大丈夫だ。自分で歩ける」
――あの戦いのあと、俺は気を失ってしまったようだ。そして今は、バスターク騎士団長から離れるために移動している。
とサツキは理解する。
「すまない、おぶらせてしまって」
「いいえ。歩けますか?」
そこまで気をつかわれちゃかなわない、と思いながらも、サツキは自分の足で歩けることに内心ほっとする。
「うむ。歩ける」
「よかったです。それにしても、サツキ様。すごかったです。あの目の魔法は、前から考えていたんですか? わたしにはまだ仕組みもわかってないんです」
楽しそうにしゃべるクコの言葉を聞いて、サツキは小首をかしげる。
「なんだ? 目の魔法って」
「まぁ。わからずに使ってたんですね」
驚き顔でサツキを見るクコ。
サツキは戦いを思い出してみる。
「そういえば、途中からよく目が見えるようになったんだ。動体視力が上がり、最後は敵の魔力の流れも、次の動きも見えた。だから、魔力が薄くなっている部分――手とライオンの境目を狙った」
うんうんと話を聞いていたクコは、
「では、無意識に瞳の魔法を使っていたというわけですね。また、それは動体視力の向上と魔力の視認に関係があると。視野が広がったりだとか、ほかにもこれまでは見えなかったものが見えるようになるなどありそうですね。いいと思いますよ、瞳の魔法。汎用性は高いかと思います」
と、自分なりの分析を交えて感想を述べた。
「それも悪くないか。クコ、体内の魔力を移動させてみてくれないか」
「はい」
突然の要求にも、クコは快く答えた。魔力を右手、右足、左足と移動させてゆく。このとき、サツキの瞳は緋色に変わっていた。
――瞳の魔法……。サツキ様、あのときは無意識だったのに、もうご自分でコントロールができるのですか。
驚くクコにもサツキは平然と言った。
「うむ。感覚を覚えているうちにやってみたが、やはり見える。練習していかないとな」
「魔法は、身体が覚えれば忘れないともいいます。しかし、日頃の練習をしないと鈍ってしまうものです。もちろん、個人差はありますが」
「なるほど」
つまり、スポーツや楽器、自転車などと同じで、忘れはしないが鈍りもするものということらしい。サツキはそう解釈した。
「さあ、サツキ様。出口も近いですよ。行きましょう」
また、クコはサツキの手を握った。さっき戦ったばかりだけれど、《
「(一応、この周囲に追っ手がいる可能性もあります。注意してまいりましょう)」
「(だな)」
それから少し歩くと、視界の先に、明かりが見えた。
それはただの明かりではなく、道を照らす明かり。これからの未来を照らす明かりのようにもクコには思えた。
夜の果てを抜けて、この長い世界樹ノ森を抜けられる。
二人は自然と歩く足が速くなった。
「(見えましたよ!)」
「(周りに敵はいない。走ろう)」
安全を確認し、二人は森の出口まで走った。
そして、やっとの思いで世界樹ノ森を出た。
森を抜けたところで、二人そろって足を止めて、クコが振り返る。
「やりました。ついに森から出られましたね!」
「ああ」
後ろに控える世界樹ノ森は、一つ一つの木々も背が高くて大きな森だったが、世界樹そのものは規格外に大きい。
「なんて大きさだろう。世界樹……」
「頂上のほうには雲がかかっていますね」
「3333メートルといったか。あの世界樹だけで、まるで一つの山だな」
「そうですね」
「でも、あんまりゆっくりしているわけにはいかない。まずは森から離れよう」
「はい!」
再び向き直り、早いうちに世界樹ノ森から距離を取ることにした。
自然いっぱいの街道を歩くことしばし、だんだんと空が明るくなりかけてきた。日が昇り始めたのである。
林みたいに木々が両脇にあった道から、周囲は草っ原になる。
まっすぐに伸びるゆるやかな登り坂を進む。
小さな丘のように高い地点まできたとき、日の出が見えた。
世界がどんどん明るくなってきた。
東の空が輝き出し、光が夜を塗り替える。
そのとき、背中の世界樹の空になにかがあった。
空を、鳥が飛んでいたのである。
大きな鳥だった。鷲のようにも見えるが、煌びやかな赤い鳥であるようにサツキの瞳には映った。
先にサツキの足が止まると、クコの足も止まった。
「あの鳥は……」
「あれは! きっと火ノ鳥です! 世界樹にまつわるトチカ文明にしばしば登場する、世界樹の頂上に住むと言われる守護神ですよ」
「トチカ文明……火ノ鳥……。知らないことがたくさんあるな」
「あとで説明させてください」
「聞かせてもらえると有り難い」
「はい! でも、今ここで一つだけ。火ノ鳥は、未来を見通すチカラがあり、正しい未来を拓く者の前に現れるといいます。サツキ様には、きっと火ノ鳥のご加護があると思います」
「それを言うならクコもだ」
そう言ってサツキが微笑むと、クコも笑った。
火ノ鳥が空高く舞い上がり、姿が見えなくなった。
「日が昇ってます。ここまで来れば、村に着くのもちょうどよい頃合いになりますよ」
「そうか。タイミングもよかったな」
「この先、こんな危険なことが何度もあるでしょう。だから、わたしもサツキ様も強くならなければいけません」
つないでいた手を離し、サツキに身体を向けて、クコは聞いた。
「サツキ様。改めておうかがいします。それでも、わたくしといっしょに、アルブレア王国を救うための旅に来てくださいますか?」
なにを野暮なことを言うのか。
小さく笑って、サツキは答えた。
「決まってる。俺にはそれしか道はないんだ。よろしく頼むよ」
「はい! こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
今度は、右手と右手で握手をした。いつもはどちらかが右手ならどちらかが左手だったけれど、これは友好と協力の握手だ。
サツキはこの半日を振り返っていろんな思いがよぎったが、今は案外、結構すがすがしい気持ちなことに気がついた。
――クコの王国を救うため、いよいよ俺の旅が始まるんだな。
そう考えると、どこかわくわくもしている。これから待ち受けるたくさんの出会いや冒険に、鼓動が高鳴る。
昇る朝日のせいか、サツキは前向きになってきた。
始まりを祝う、夜明けの光が空に満ちてゆく。
世界を照らす輝きは、二人の胸に希望を灯していた。
「では、いきましょう。遠い、遠い、アルブレア王国まで」
未来へと橋を架けるように、クコの目には先へと続く道がまっすぐに見えている。
クコがサツキの手を握り、ふわっと微笑む。
二人はまた、手をつないで歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます