第26話 部室の透と部室の佑真


 佑真を締め出した透は、一人部室で落ち込んでいた。


「はぁ、言っちゃったぁ……。絶交とか、本心じゃないのに言っちゃったぁ……」


 感情的になっていた透自身にも非はあるが、すべては佑真を思っての行動だ。

 しかし、突き放すようなことを言ってしまったことに透は酷く後悔していた。

 佑真は感情が死んでいる。いや、押し殺しているといったほうがいいだろうか。八割ほどは精神的に慣れてしまっているが、過去をよく知る透にとって佑真の前で言ってはならない禁句というものがある。

 今回、その禁句に触れてないか、あるいは触れてしまったのではないかと不安になる。そんな情けない自分に呆れて溜息を吐いた。今度は佑真にではなく、透自身の不甲斐なさに向けて。


「……。でも、落ち込んでる場合じゃないよな」


 パンッ、と自分の頬を叩いた透は気持ちを切り替える。

 力加減間違えたせいでヒリヒリする頬を摩りながら、透は佑真が向かったであろう場所へ向かう準備を始める。

 あれだけ言った透は佑真の助力する気満々であった。


「まあ、佑真なら大丈夫っしょ」


 佑真を信用しているからできる行動だ。なにより佑真の行動パターンを熟知している透が間違えるはずがない。きっと佑真は道を間違えない。きっと佑真は求めているモノに辿り着いてくれる。失敗を繰り返した佑真だからこそ、自分なりに考え導き出した答えに辿り着ける。佑真が先に進むなら透は協力を惜しまない。

 今回は前例がなかったから佑真自身が戸惑っているだけだ。

 非があるから謝りたい気持ちと突き放したい気持ちが葛藤しているのだ。


「今まで椿姫ちゃんのような良い子ちゃんに出会わなかったからなぁ」


 過去を懐かむ透は笑う。

 数週間と短い間柄でも佑真にとって無駄ではなかった。鬱陶しくも楽しかった日々が佑真を押してくれる。足踏みをやめて踏み出す勇気を与えてくれるはずだ。

 そう、透は信じている。


「あっ、そうだ!」


 透は良いことを思いつき、携帯を取り出してある人物に電話する。


「あ、もしもし僕!」

『ふざけるなら切るわよ』

「じょ、冗談です……生徒会長さん」

『生徒会長はやめてくれる? いつになったら下の名前で呼んでくれるのかしら?』


 電話の主は生徒会長の西澤(にしざわ)京子(きょうこ)だった。


「呼びやすいんですもん。生徒会長じゃ、ダメですか?」

『べつにダメ、ってわけじゃ……まあいいわ。ところで、わたしになにか用かしら?』

「ああ、そのことなんですけど……」


 透は悪い笑みを浮かべると京子にとってとても美味しい話を提案する。

 生徒会の仕事の都合で断られるかと思ったが、携帯ごしから伝わる


『いいわ、その作戦に乗ってあげる』

「ありがとうございます。それじゃ、準備ができたら連絡しますねぇ」

『ええ、よろしく頼むわ』


 交渉成立がしたことに透は満足しながら電話を切った。


「さーてと。頑張って捕まえてきますかぁ!」


 意気揚々と透は部室を飛び出した。



 ――――



 視点は変わり、透が悪巧みをしていることは露知らず、佑真は目星をつけていた本校舎の二階端のトイレに向かっていた。

 部活動のない今日は運動部の切磋琢磨する声はなに一つ聞えない。教室にも向かう途中の廊下にも生徒はいない。誰とも接触せず、佑真だけが取り残されたような無人の世界だった。佑真が歩いていると椿姫を見つけた。


 椿姫が周囲に女子トイレに入室してから佑真は見張りがいないのを確認し、女子トイレの扉の近くまで近寄り、物音立てずにトイレの扉に背を向けて座った。

 聞くだけ聞こう、と佑真はそう思い、ラノベをポケットから取り出した。思い悩んで読書するほどの気力がないにもかかわらず、形だけでもと聞き耳と立てながら内容の入ってこないラノベに目を通す。



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