第30話 遠のく意識の中、彼女は自覚する。
「デートに行きませんか?」
ブレンからデートのお誘いを受ける。あの事件?があった次の日、俺は野原で寝ころんでいるとブレンがさも当然のようにやってきてそう言ってきた。
「いいぞ、今から?」
「ええ、だってゼブはお忍びじゃないといけないじゃない」
「そうだな」
俺は王族として公式に公爵令嬢とデートするのは嫌いだ。俺は本人と二人ほどで回りたいのだ。
しかし、そう決めた後、すぐにクリスの姿が見えてくる。
「クリスが来ている、これではデートにいけないな」
クリスは自身がここに来る意味を理解しており、その意味はゼブもブレンも知っている。そう、何か事があるということだ。
「どうした?」
俺はクリスが近づいてきているので聞こえるように大きく問う。
クリスはその場で止まり、
「ブラッドレン令嬢に御用事です」
俺ではなくブレンか。俺はブレンの方を見るがブレンは心あたりがないような感じで、首をコテンと傾けていた。
「デューレン王国の記念式典です」
あ、そうだった。大体この時期に開催されるのだった。デューレン王国が建国された日は記念式典が開かれるのだ。ブレンも思い出したようでハッとしていた。
「ブレン、いってらっしゃい」
「うん」
ブレンは急いで屋敷に戻っていった。記念式典に行って帰ってくるだけで大体5日かかるので、それまではブレンとは会えなくなってしまう。はぁ、なぜか寂しいと思ってしまう。
俺はブレンとクリスがいなくなった野原で夜まで眠ることにした。
「記念式典...」
私にとって記念式典は嫌な記憶しかない。だって死の公爵の娘だ。周りからは腫物として見られるだろう。最近知ったのだが、ゼシャラルブ皇子が婚約してもあまり変化がなかったので私との不仲説が出ている。否定したい気持ちもあるが、してしまったらゼシャラルブ皇子に関してのデマが回ることになるだろう。だから今は何も言えない。
「お嬢様」
「どうしたの?マナ?」
揺れを感じる馬車の中で向かいに座っているマナが話しかけてくる。
「行かなくてもいいんですよ?」
確かに。記念式典に呼ばれてもヘイト帝国にいるので知らないフリはできるのだ。でもそんなことはしない。
「したいけどしません」
「そうですか...お嬢様、失礼します」
次の瞬間、私は刺された。マナに。
「マ...ナ」
あぁ、ゼブに申し訳ないな。遠のく意識の中でゼブのことだけ思っていた。能力を
使うことすら忘れて。
私は暗闇の中に沈んだ。
婚約のことを抜きにしても、私は彼に好かれていたい。すでに好いているのだから。やっと自覚できた。ゼブへの気持ちが。今までは期待からくるものばかりだったが、今は違う。私、彼のことが好きだ。好きなんだ。
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