第16話 祠のある山

「ちょっと待ってくれよ」

写真部で民俗学研究部の部長の敬一が呼んでいる。


「敬一さんが遅れてる」同級生の舞子が私の肩を叩く

「もう暗いから、懐中電灯を出すわ」

LEDの懐中電灯をリュックから出した。


昨日の事だ

「奇妙な祠(ほこら)があるんだよ」

いきなり声をかける、唐突過ぎて私は聞こえないフリをする

「玲子、敬一さんがお話あるみたいよ」

私は

「舞子さん、敬一なんて人は知らないわ」

棒読みで返す


舞子は呆れながら私の顔を掴むと、グィっと敬一に向かせる。

敬一と目が合うと、その不快感で人生を呪う

逆に敬一は照れている、なぜ照れるのかまったく判らない。


「祠がどうしたの!」

かなり強めの声で舞子も敬一も、私の不愉快さを理解した。

「玲子、ちゃんと聞いてあげてよ」

舞子が、写真部に入部しているので一応は彼は部長だ

あまり邪険にするのも悪いのは判るが、生理的な問題もある


「わかったから、ごめん敬一」

敬一が生きているからって、世界が破滅するわけでも無い

許してあげよう(上から目線)


「いいんだよ、女性だからイライラする時もあるから」

私は本気で呪詛を覚えようかと考える


「祠(ほこら)がどうかしたの?」舞子が代わりに聞いてくれた

「うん、見慣れない祠を見つけたんだけど、前には無かった」

私が

「新しく誰かが作ったんじゃないの?」と聞くと

敬一は

「その、かなり古びている、ずっと昔からある感じなんだよ」

彼は地元の民俗を調べている。勘違いでは無さそうだ。


「だからその、休みの日に一緒に見てくれないかなと」

「部員は・・・居なかったわね」幽霊部員は居るが、部活動はしないだろう

「わかった、待ち合わせしましょう」

舞子はまたニコニコしている。写真を撮る気だ。


次の週末に電車に乗って山まで行く。

「あれ?確かにあったんだが」

敬一は印をつけた地図を見ながら困惑していた。

祠はここにあったと証言する。


「敬一、写真あるの?」彼のデジカメを確認すると

黒く朽ちている祠は写っていた、この場所らしい事も判る


「なにかの撮影で一時的に置いたんじゃないの?」

しかし地面を見ても、人工的に触った印象は無い。

周辺を探すが見つからない。諦めて帰ろうと、

先ほどの場所に行くと、祠がある。


「あれ?さっきは無かったのに」

舞子も敬一も驚いてる、二人は写真を撮り始めた。

祠と言っても、非常に小さく、高さも30cmしかない

中を見ると顔の削れた地蔵?が置かれている


「お化け地蔵」かもしれない

キツネやタヌキが道を迷わせるために化けている

パターンもある


「舞子も敬一も戻って」

足早に山を下りようとするとお決まりのように迷う。

「携帯電話は通じる?」

「だめみたい」舞子が答える


登山対象の山ではない、電波は整備されていない。

日が暮れて闇が近づく、夜食分がないため遭難すると

きついかもしれない。


「山を下りたのに、祠がある・・」敬一は泣きそうだ。

祠を中心に閉鎖空間になっている。

そこでマンホールの事件を思い出した。


「真言を使って結界を破るわ」自信は無いが試してみる

最悪はこの現場で夜を過ごす事になる

舞子と敬一に真言を教えて、3人で同時に唱える。


「奇妙な祠(ほこら)があるんだよ」

気がつくと教室だ、敬一が私に頼み事をしている。

強烈な既視感から、私は敬一の手首を掴むと引っ張って

教室を出た。


「写真があるでしょ、見せて」

なぜか私を見ながらぼーっとしている敬一に、同じ台詞を聞かせる

「デジカメを見せて」


デジカメを見ると、祠を見ている私の写真がある。

「これいつ撮ったの?」

「え?いやなんで玲子さんが居るの?」敬一は驚いている。

私はデジカメの写真を順番に見ると、何枚も何枚も出てきた。


「敬一、あの山にはもう二度と登らないで」

理解不能な敬一は、うなずく事しか出来ない。

ループから脱出できるか、判らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る