第17話 邪鬼

「八重さん、この部屋を使って」

今日から一緒に住む事になる、八重さんを客間に案内する。

「ご迷惑をかけてごめんなさい」

身長が高いので目線が上になる

「いいのよ、おじさんも無職になって大変でしょうから」


犬神の憑依が解けてからは、八重さんの家は一気に傾いた。

八重さんは遠縁の私の家から、学校へ通うことになる

転校も済んでいる


「あの・・置物があるんですが・・ちょっと怖くて」

八重さんは部屋の隅を指さすが、何も無い

「なにかあるの?」

「角の生えた小さな像があります」

自信なさげに答えるが、私には見えない。

「今日は一緒に寝ましょう」

部屋から出る


翌朝に八重さんと一緒に、学校に行く。

彼女は初日の挨拶のために、先生と待ち合わせだ

先に教室に入ると、玲子に相談をした


「客間に変な像があるの」

玲子は私をちらりと見ると

「霊障なの?」と短く答える

「私は見えないんだけどね」


玲子は片眉を上げながら「見えないのに居るのが判るの?」

教室の扉が開くと、担任と八重さんが入ってくる。

「はい、みんな座ってください、転校生を紹介します」


「八重です、この前はありがとうございます」

お昼休みに、私と玲子でお弁当をたべる

八重さんにも参加してもらう


玲子が「まだ見えるだけ?」

「すぐに客間から外に出たから」私は補足する

「じゃあ見てみるわ、手に負えないなら応援を呼ぶから」

私は良い事を思いつく

「パジャマパーティでお泊まりしましょう」

玲子は、なんか嫌な顔をしているのが面白い


支度をしてから玲子が私の家に来た。

「今日は泊まりだから急いで支度したから」

案外、ノリノリである、ちょっとかわいい


玲子を客間に通すが、見えないと言う

部屋の隅に小皿に乗せた塩を盛る


私の部屋に3人居ても十分に広い

玲子が「この部屋いいわね、私もこれくらいの部屋があると嬉しい」

「じゃあ何の話しましょうか」

「舞子、置物の確認しないと」玲子はまじめだ

「でも見えないなら・・」


八重さんが短く声をあげる

視線の先を見ると、私にも見えた。

置物?ではない、子鬼だ


もちろん玲子にも、見えているようだ

「邪鬼?」

鬼は数匹居て八重の方を向いている。

玲子が鬼に向かって何かを投げると、片端から消えた。

「塩つぶてよ、自作したの」

玲子は「明日は神社に行きましょう」


この日は怪異は、もう起きなかった。


神社に居る美成(みなり)さんに会いに行くと説明をしてくれる

「邪鬼(じゃき)は、名前の通りに悪さをする鬼ね

 八重さんから犬神が抜けた事で、大きな『うつろ』が残って

 閉じてない。

 邪鬼は『うつろ』を狙ってるわ」


八重さんは怖そうにうつむく。


「帝釈天のペンダントあるわ、使えばもう大丈夫よ」

玲子が呆れたように

「神社の巫女が、仏教の神様のアクセサリーを売るの?」

「いいのよ、帝釈天だって元はインドの神様だし」

美成さんが私たちに向かって手を出す


「え?お金取るんですか」

「当たり前でしょ、商売なんだから800円でいいわ」

微妙な金額なのが悔しいが出す事にした

八重さんが「私が出します」と言うが実際は一文無しで来ている

無理させられない。


「私がバイトするから、大丈夫よ」

玲子が美成さんと、ごにょごにょと話をしている。

「じゃあ帰りましょう」


八重さんはペンダントを大事そうに持ちながら歩いている

家の都合で、自分の身が犠牲になる

私には想像できない苦痛だろう

私は彼女の横顔を見ながら、何か力になれないか考えていた。

しばらくすると、彼女は突然立ち止まり、振り向く。


そして私の方を見て微笑んだ 八重さんは言った。

「ありがとうございます」

私にお礼を言うと、また前を向いて歩き出す。


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