第4話 姉の写真

「玲子君、この写真を見てくれオーブが映っている」

写真部で民俗学研究部の部長が、写真を見せにくる

彼を見ながら、「何君だったかしら?」


「君は、また僕の名前を忘れたのか」

「ああ朴君ね」

とぼけた事を言っても気にしない彼の名前は、敬一だ。


「君の物忘れも年々ひどくなるな、中学からの付き合いなのに」

一緒に居た舞子が、びっくりしたように

「ボーイフレンドが居たの?」

ゴキブリが飛んできて、手に乗った嫌悪感が走る。

「舞子、その冗談はマジでやめて」


敬一は、ちょっと照れたようにクネクネする

「そんな仲じゃないよ、彼女とはライバル関係だ」

なんでそんなにクネる、お前は『くねくね』か。

ライバルってなんだ、いつから競争している

突っ込みたいのを我慢して足を踏ん張る。


「それよりこの霊現象は、どう思う?」

どうやら私を霊能力者みたいに、勘違いをしているらしい。

中学の頃の事件で出会ってからは

校内で話しかけられる少数の知り合いの一人だ。


写真を見ると、光る玉が見える。

見えるだけで気になる点はない。

「オーブはデジタルカメラの不具合が定説じゃないの?」


昔から写真に幽霊が映り込む話は多い

21世紀にはデジカメが普及をして、従来とは異なるモノが

映るようになった、それがオーブだ。

デジタル処理の過程で、空気中の微粒子を過大に表現しているらしい。

もしオーブがあるならば、従来の写真にも多く残ると思える。


「もしこれがオーブだとして、あなたに何か関係するの?」

「ここは自宅なんだよ」

なるほど霊現象で怖いのかもしれない。

「いいわ、お祓いしてあげるわ」


舞子がそばで、にやにやしながら見ている。

「玲子さん、やさしいのね」

そうだ舞子も写真が好きだった筈だ、前に登山写真に付き合わされた

「あなたもカメラを持ってきて」

舞子は嬉しそうに「本物の心霊写真を撮れるかも」

逆に喜んでいる、彼女は好奇心が強かった。


休日に舞子とは駅前で待ち合わせをして、敬一の家に行く。

「彼の家を知ってるんだ」

嬉しそうな舞子は、完全に勘違いしてる。

「彼は中学の頃はイジメを受けてたの、

 それを助けてから友達と勘違いしているようね」

舞子が「それなら友達で、いいんじゃないの?」

ちょっと不可解な思考で、私には判らない。


敬一の家は、確かに不幸が多い家庭だ。

姉が自殺をしている。

その直後に彼もイジメを受けてから精神的に追い

詰められたらしい。


家についてインターフォンのボタンを押すが返事がない。

「留守?」舞子が不思議がっている

私は庭の方に回る事にする

舞子は古めかしくてひらべったいカメラを取り出す

「それは何?」

「ポラロイドよ、写真をすぐ見られるわ」

アナログカメラを持ってきたらしい。

デジタルでもすぐ見られると思うが黙っていた。


庭に、敬一が居た

「外に居たの?写真の場所はここなの?」

塩を取り出しながら、近づくと彼がふりむいた

見知らぬ女性の顔がある


確かに体は敬一なのだが、顔だけが別人だ。

見ていると、顔は歪みぼやけるを繰り返していた

なにかの霊が憑依したのだろうか?

塩を取りだして、彼の胸元にふりかけた。

真言をとなえるが変わらない。


パシャッ


背後で音がする、反射でふりむくと舞子が

敬一の写真を撮っていた。

「あれ?ここどこ?玲子君は来てたの?」

彼の顔は、戻っている。


舞子がカメラから出てきた印画紙を見せてくれた。

私の隣には女性が写っていた。

彼にも見せると「姉さん」とつぶやいて泣いている。


あのオーブは姉からのメッセージだったのだろうか。

姉の強い思いは、真言くらいで消せないようだ。


翌日に、敬一は私に写真を見せに来た。

「これは大事な御守りにするよ、舞子さんありがとう」

ニコニコと嬉しそうな彼は、姉と一緒に写っている

私の写真を大事そうにラミネートしていた。


私はその写真を奪い返したい衝動で苦しむ。

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