確定条件④



 以下の言葉は絶対である。

 以下の言葉は真実である。

 以下の言葉は摂理である。


 ――――


 彼自身が転生者だと自称していようと、自認していようと、この物語ゲームにおいて、彼が転生者である事実はまったく存在しない。

 すべて誤認、夢想のたぐいである。


 繰り返す。

 加地月彦は、転生者ではない。


 ――――


 しかしながら、この物語ゲームのジャンルは、ミステリーではなくファンタジーである。

 よってノックスの十戒の適応外であることを念頭に置いておいてもらいたい。


 たとえ今日こんにちに至るまで、ろくな登場もなかったとしても、かの転生者が行った介入はこの物語ゲームにおいて重要な意味を持っている。


 以上の言葉は絶対である。

 以上の言葉は真実である。

 以上の言葉は摂理である。


  ◇


 神はサイコロを振らない――しかし遊戯を前にしても、頑なに振らないわけではない。


「このセカイでの ゲームも そろそろ『おおづめ』ですね」


 空虚な暗がりの中で、『それ』は言葉を発していた。


「どんな 『おうぼう』も 『ぼうぎゃく』も ありうるセカイのピースとして 『ふわけ』され 『きしゃく』されますが……」


 創作物フィクション最大の利点だ。特に、物語ストーリーの枝分かれに重きを置いたものの。


 世界を創った神でも七日はかかった。小さな矛盾も、いずれ大きな皺寄せが来る。

 だが……そもそもが余剰の塊であり、分岐ルート複数の結末マルチエンドという可能性を内包しているゲームは、闖入者による改変も大目に見てくれる懐の深さがある。それが今回のような遊戯性を存分に盛り立てていた。


 具体的に言えば――辿


 おおよその矛盾は製作者スタッフの肩に委ねられ、皺寄せは世界の根幹にまで広がらない。

 どんなに凄惨な展開シーンを重ねようと、自分は血飛沫の一滴もかからない安全圏。垂涎極まる至高の娯楽だ。


 ――『は? チート能力くれねぇのかよ。しかも「なんでもだと範囲広すぎる」とか、ケチくせぇこと言うな~神様のくせに』


 『それ』は、かつての会話を思い返す。


 ――『じゃあ、えっと……あれだ、「どこにでも移動できる能力」! 単純に移動すんのメンドクセェからな。それと必要なのは、抵抗された時に「クソウゼェ聖剣とかを防げる力」か。惚れさせる能力……は別にいっか。どうせ女共は惚れるしな。じゃああとは、いい塩梅に■■の■■を合わせる力くらいか。これも便利だし取っておいて損ないよな!』


 そう言葉を交わしていた異邦人も、盤外から遂に物語へと踏み入れた。


「はたして 『みれん』は なくせるでしょうか? なくせないでしょうか?」


 勝利の女神が、うっそりとほくそ笑んでいた。


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