斜陽①



 ――『Re:turnerリターナー -fantasiaファンタジア gardenガーデン-』は『硝子ガラス野薔薇ノバラ』と『百合籠ユリカゴ』の二つの筋道ルートからなる物語だが、最初から二手に分かれているわけではない。

 最初は俗に言う『共通ルート』の形から始まり、天秤のごとき選択肢によって物語は二つの異なる側面を見せるようになる。


 最初は主人公の天道てんどう良太郎りょうたろうが異世界で魔王を討伐し、その余波で巻き起こった異世界災害で地獄絵図と化した元の世界に帰ってくるところから、物語は始まる。その後は幼馴染であるまゆずみ晴花はるかとの他愛ない日常、加地かじ月彦つきひことの奇妙な友情関係が描かれながら、徐々に不穏な空気が充満していく。


 先の自殺騒動にも似た、猟奇殺人事件の発生――恣意的な異世界災害の食べ残しが公に露見したことによる非日常が、良太郎を勇者へと呼び戻す。


 そして猟奇殺人事件の犯人である『魔王の蟲』――かつては魔王の懐刀であった忠臣との戦い。

 ブランクに苦しめられながら、因縁の敵に辛くも勝利を収めた良太郎を目撃していた人見ひとみ暁奈あきなに、半ば脅されるような形で共闘関係を結ぶ。以降は幾度となく振り返ってきた前月彦の嫉妬による暴走と、現月彦に繋がる顛末で今に至る。


 だがここで重要なのは、月彦に関してではない――、だ。


 選択肢によって魔王の蟲は生き延び、良太郎のあずかり知らぬところで加地かじ朔之介さくのすけに拾われ、力を蓄えながら魔王復活の策略を巡らせていくことになる。

 ――そう、ここで『硝子ガラス野薔薇ノバラ』と『百合籠ユリカゴ』のどちらかに傾く天秤が現れるのだ。消滅させていれば前者、消滅させられていなければ後者になる。


 厄介なことに、良太郎当人の視点からでは、魔王の蟲が再登場するまで生死の判別がつかない。気づくのは、最悪の事態が目前に迫り来てからだ。

 良太郎に直接訊いても詮なきこと。だとしても手回しの痕跡は確実にあるものだと踏んで、月彦は地道な情報収集を重ねてきた。朔之介の動きに注視し、戯崎ぎざき市以外で不審な怪死事件が起きていないかも、目を皿のようにして読み漁った。限界はあったが、それでも兆候らしきものは見つけられなかったと断言できる。


 しかし、それでも気は抜けない。なにせ月彦が転生者である記憶が目覚めた結果、知識にある筋書きとはかけ離れた道を歩んで久しいのだ。

 だからこそ、朔之介の真実を告白し、暁奈も覚悟を決めたタイミングを見計らって、良太郎に「朔之介が存在を認知しており、異世界化を強行している現状を思えば、(生きていればの話だが)接触して危険度が増すかもしれない」と話した。最早形骸化した「記憶が戻って」との文言も添えて。


 そして良太郎の返答は――。

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