第一章『夢を乗せて列車は走る』
夢を乗せて列車は走る①
ジャンルも現代ファンタジーと、言ってしまえばそれまでだが、実態はひと昔前に流行った、いわゆる現代伝奇ものである。ファンタジーと言いつつ、SF、ホラー、ミステリーなどの要素を含む場合もあり、妖怪や魔術、秘密結社といった
だが本作では、その要素に一石を投じることで、前世の月彦の目にも留まったのだった。
主人公――要は
奇をてらったストーリーに対して、システムは至極オーソドックス。イラストとテキストで物語が展開していき、選択肢によってエンディングが左右される読み物ゲームである。しかし、一般的なお目当てのヒロインに狙いを定めて交流を深め、最終的に結ばれるタイプのゲームと手触りは異なる。
ヒロインとの甘い交流も少なからずあるが、それ以上に肩を並べて戦う描写が多く、比例して陰惨な展開も山のようにある。また物語もヒロインごとに流れが定められているのではなく、前述した暗躍する魔法使いの思惑と異世界での因縁が物語分岐の軸となっている。
二つの
それだけ物語の方に注力したのだろうが、同系列のゲームの中でも極端に少ない。しかもその二枚看板のメインヒロインですら、エンディングによっては命を落とすのだから始末が悪い。
手がつけられないことに変わりはないが、どちらの
だというのに主人公との友人関係は破局を迎えず、あまつさえその主人公が厄介になっている家にまで上がり込んでいる。ゲームの筋書きを正史とすれば、青天の霹靂どころか天地がひっくり返ってもおかしくない異聞である。それが本来の物語からどう乖離していくのか……それは最早、神のみぞ知る話だろう。
◇
朝起きて身支度を整え、昨晩よろしく晴花謹製ごはんに頬をほころばせていたが、そうも呑気にはしていられない。時は平日の朝、後三十分もしないうちに通学しなければならなかった。
「良太郎くんは家近いけど、月彦くんは少し遠いだろ? よければ僕が車を出そうか?」
「ありがとうございます。助かります」
時雨の提案は、まさしく渡りに船だった。既読無視のメッセージを思えば、迎えが馳せ参じるような情は皆無だろう。さてどうしたものか……と、朝食を味わうのも二の次な思考が顔に出ていたのかもしれない。
取り敢えず目下の悩み事は解消された。これで心置きなく味わえると、大口でトーストの角に齧りついたところで、思いがけない一石が投じられた。
「――そんなに急ぐ必要、ないみたいですよ」
ほら、と晴花がスマホを掲げて見せる。丁度時雨と月彦のやり取りに被さるようにして鳴っていたそれは、不穏な情報を知らせていた。
人身事故による路線一時運休、それに伴う一時限目休校連絡――。
折しも憂鬱な平日の朝。その通勤通学のピークタイム。悲しい話だが、魔が差して線路に導かれてしまう人ぐらい、この現代社会においては別段珍しいものではない。日常と薄皮一枚で隔てられて繋がっているダークさなど、見飽きるほどそこらじゅうに転がっている。
「そうか、ならゆっくり一人で行った方がおうちの方にも気を遣わせずに済むかもね」
「それなら私は、余った時間で叔父さんのお昼のおにぎり作っておきますね」
「お、そりゃありがたい」
最早よくあることと化してしまった悲劇を前に、晴花も時雨も自然体の平静を保っている。薄情と呼ぶには、当たり前に馴染みすぎてしまった。
本来であれば、月彦も同じように流してしまっていたかもしれない……だが昨日の今日で、嫌な意図を感じずにはいられない。
視線を移せば、良太郎の表情が聖剣を握ったあの時のように、凄絶さをもってこわばっていた。
……日常が濁る気持ち悪さが、背筋を震わせた。
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