第25話 看病は得意
「ちょっと小耳に挟んだんだけど」
またかよ。
朝早くから人の家に来てどういうつもりか知らないが、僕は玄関先で不機嫌そうな顔を隠さず目の前の委員長を見据えた。
……えっろ。
タイトで丈の短いノースリーブのシャツにホットパンツ、脚と腕だけでなくヘソまで出している。
髪もアップで
出せるところは全部出しました、みたいな感じだ。
「委員長、クワガタのポーズを頼む」
「え? チョキチョキ?」
両脇が露になり、豊かな胸も強調される。
「出来ることなら小耳じゃなく小脇に挟んでくれ」
「え?」
「ちなみに僕は脇フェチじゃない」
「脇?」
理解してないのか、委員長は不思議そうな顔をして、自分の脇を覗き込む。
はしたない。
男の前で脇を
……えっろ。
「脇がどうしたの?」
「いや、なんでもない。それより夏休みなんだから、朝の八時はまだ寝てる時間だろ」
「めっちゃ目が冴えてるっぽいけど」
……睡眠欲より性欲が勝ってしまったようだ。
しかも今なら、朝の生理現象だ、という言い訳が出来る。
いや、別に
「で、何を小耳に挟んだんだ?」
「昨夜から熱を出したんだって?」
コイツ、どこでそれを!
僕は田舎の情報伝達スピードを
「補足すると、つつじと全身ビショビショになるまでやり合ってバイクで風を切って走ったからとか」
「誤解を招く表現をするな」
噂はこうやって広まっていくのだろうか。
「寝てなきゃダメじゃない」
「君が起こしたんだろうが!」
「任せて。私、こう見えて看病は得意なんだから」
「いや、委員長は面倒見がいいし、それは判るけど」
「え?」
「別に意外でも無いだろ。学校でも花瓶の水を替えてたり、綺麗好きで人の気付かないところを掃除したり」
「で、でも、汗を拭いてあげたり子守唄を歌ってあげたり座薬を
「ウザいよ!?」
「もう! 修也君って優しいかと思えば意地悪だし」
委員長はエロいかと思えばエロいし。
「じゃ、入れてくれる?」
「は?」
「家に」
「あ、家にね」
「じゃ、お邪魔しまーす」
「待て。入っていいとは言ってない」
「でも、お
くそ!
家に僕一人だとバレている!
「家主の許可を得ているなら仕方ない。僕は
「家族でしょ?」
「いや、まあ血は繋がってはいるが、面倒を見てもらってる立場だし」
「嫌ならちゃんと拒否してよ? 私、こう見えても傷付きやすいんだから」
「言ってることがちぐはぐなんだが!?」
「どっちもホントのこと。嫌なら拒否してほしいし、拒否されたら傷付くのも事実。どうするの?」
後ろ手を組んで胸を強調しつつ小首を
「お……お上がり下さい……」
僕は、屈するしかなかった……。
取り敢えず布団に横になるが、見られているかと思うと居心地が悪い。
しかも横向きに寝ると、体育座りをした委員長の股間が見えてしまう。
まあパンチラをこよなく愛する僕としては、スカートじゃない時点でどうでもいい──えっろ!
スカートじゃないから問題無いように思ったが、ホットパンツの隙間が危うい空間を形成している。
肌の白さと肉付きが描くその陰影、そしてギリギリの際どいラインで隠されたパンツ……。
「もう、こら! ちゃんと寝ないとダメでしょ」
僕の視線に気付いた委員長が叱ってくる。
だが、エロいことを優しく叱ってくれるというのは、どうしてこんなにも甘美なのか。
そこには拒絶や否定は無く、寧ろ
とはいえ、何か罪悪感のようなものを感じるのも確かなので、反対側を向いて寝ることにした。
「あ、こら、それはそれで寂しいからダメ!」
どうしろと?
元気だったら押し倒してしまいそうだが、幸いにも熱が上がってきたようだ。
僕は
「子守唄いる?」
「いらん」
「汗、拭こうか?」
「大丈夫だ」
「お尻出して」
「何でだよ!?」
「家にあった座薬を持ってきたから」
「まずは必要かどうか訊いてくれ! 座薬だけ決定事項になってるのはおかしいだろ!」
「熱を下げるためには有効だから?」
……まあ、子守唄より効果はあるかも知れないが。
「ていうか、そもそも嫌じゃないのか?」
「何が?」
「汗を拭くとか、その、座薬を挿れるとか」
「私、介護士になるつもりだし、家ではお祖父ちゃんの介護してるし」
委員長は、まるで何でもないことのように言う。
「それに」
「それに?」
「お祖父ちゃんのお尻を拭いたことは何度もあるけど、挿れたことは無いから実験台になってもらおうかと」
「断固として拒否する!」
「えー、なんでぇー」
いつものように、身体を
でも、あざといとか、エロいとか、そんなことは
たぶん、委員長はお年寄りに好かれるだろう。
そして必ず、お年寄りを元気にするだろう。
だから──
「委員長みたいないい子が、どうしてつつじの噂を広めたんだ?」
誰かと親しくなるつもりなんて無かった。
進学までの一年足らずの間に築く関係性に、いったいどれほどの意味があるのか。
つつじと親しくなったのはイレギュラーだ。
なのに──だから、ずっと気掛かりではあっても訊くつもりは無かったのに、僕は問うてしまった。
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