第6話 コンビニに行こう
都会に住んでいたときの休日は、ほぼ一日、家に籠ってネットやゲームをしていた。
だとすれば、都会だろうが田舎だろうが同じことで、自分の部屋という狭い世界が、田舎に来て畳二畳分ほど広くなっただけのことである。
まあ時にはふらりとコンビニに行ったりしたが。
……行くか。
コンビニの場所は地図上の情報として知っている。
もちろん選択肢は無く、その一店のみだ。
そして、ふらりではなく、決意に近い意気込みを要した。
よし、行くぞ、僕はコンビニに行ってみせる!
……五キロ先の彼方へ。
祖父母に挨拶して家を出る。
外はあからさまなほど青空だ。
近くに山があるとはいえ、道路沿いは田畑ばかりで
同じく白日の下に晒された自販機が見えてきた。
チラリズムというものが全く無いのは情緒に欠ける。
喉が渇いた、自販機でも無いかなぁ、お、あれ自販機じゃね? もうちょい近付かないと判らんな、ん、ただの看板かよ!
みたいな段取りが無く、はい自販機! と自己主張しているので味気ない。
お、見えそう、見えるか? 見えた? 黒? いや違う、ただの陰だ、ああっ、いま確かに白いものが!
という趣ある視覚情報の
……パンモロは嫌いじゃないけどな。
それにしても、地図を見てコンビニへの最短経路を
道路はこの先、くねくねと曲がりくねりながら国道へと……。
まさか、峠越え?
大した山ではないが、たかがコンビニに行くだけで山を越えるとか有り得んし?
くっ! 先ほどの自販機で妥協するか?
長いスカートの向こうにあるパンチラか、これ見よがしなパンモロか、二つに一つ。
……ふっ、何を迷うことがある。
見えるかどうか判らぬものより、見えているものを選ぶのは男の
決してパンモロに屈したわけではなく、据え膳食わぬは、というヤツだ。
僕は
自販機の前に立つ。
改めて見ると、白く滑らかなボディが太陽に照らされて
だが、大して欲しいものが無い。
お茶は家にあるし、水は水道水でも充分に美味い。
甘いものは好きではないし……。
「よ、よう、目高、偶然だな」
通りすがりのバイクに跨がる女が声をかけてきた。
僕はその金髪の女性がジーパン姿であることを確認すると、途端に興味を失った。
「ちょ、無視かよ!」
心の中では、わー、ヤンキーちゃんだー! と喜んでいるのだが、素っ気ない態度を取ると意外なほど凹んだ様子を見せる。
「なんだ、村崎か。金髪だったので気付かなかったよ」
「いつも金髪だろ!」
うん、派手で下品と思っていた金髪が、陽射しを浴びてキラキラ輝くのが綺麗だと思ってしまうくらいに、同じ金髪でも変化する。
「わざわざこの辺の道を何度も行ったり来たりして偶然を装わなくても、普通に誘ってくれたらいいのに」
「なっ!? べ、別にいいだろ! 暇だったから、その、時間潰しみたいなもんだし……」
……冗談で言ったんだが、マジだったのか?
まあ僕みたいな変人は、時間潰しにちょうどいいかも知れないが。
「じゃあ行くか」
「ど、どこへ?」
「コンビニ」
「え? お前、コンビニに行く途中だったのか?」
「そのつもりだったんだか、まさか間に山が立ちはだかっているとは思わなくてな」
「じゃあ乗れよ。バイクだったらバビューンって一発だぜ」
何が一発なのか解らないが、バビューンという表現が可愛らしくて笑ってしまう。
「で、今日はどこを掴めばいい?」
昨日はブレザーという上着があったが、今日は汗ばむ陽気のせいかヤンキーちゃんはブラウス一枚だ。
より女の子らしい背中は、触れるには尊いようにすら思える。
「か、肩でいいんじゃねーか?」
「肩かぁ……」
「ガッカリし過ぎだろ!?」
「ウッカリ手が滑って胸まで行ってしまわないか心配だ」
「シッカリ掴まってないと振り落とすからな」
そんなふざけた言い合いをしながら触れた肩は、壊れそうなほど華奢で、何故か昨日よりドキドキした。
そして、万が一
体勢、掴む位置、上手く引き寄せて路面と彼女の間に入り──
「日高」
「ん?」
「ちゃんと掴まれよ」
「あ、いや、大丈夫だ。出してくれ」
「お前、口はアレだけど、実際のところは紳士だな」
「変態紳士と呼んでくれ」
「そうやって茶化すのも、照れ隠しに思えてきた」
「気のせいだ。僕は今、透けブラを堪能している」
ヤンキーちゃんがクスッと笑ったのが、肩に置いた手から伝わってきた。
ブラは透けてないのに僕は見透かされているようで悔しいが、空は晴れているし、山は緑いっぱいだし、鳥が
そして、もしかしたら僕も──
「目指せ、コンビニ!」
柄にもなく大きな声が出た。
「おー!」
ちょっと照れ臭げな君の声が、高らかに響いた。
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