1440m競走

るふな

最早王者決定戦

「さあ始まりました、第3回1440ミニッツ競走、司会は私炭酸水素ナトリウムがお送りします。競技解説には野菜室を半年間生き抜きし萎びた伝説、生姜さんにお越し頂きました。生姜さんよろしくお願いします。」


「よろしくお願いします。」


「さて足の早さを競うこの1440ミニッツ競走も、今回で第3回目を迎える事となりましたが、まずは本戦出場の選手からご紹介しましょう。最初に現れたのは、昨年の対決で惜敗を味わった糖度の申し子、前大会準優勝のみかん!」


「前回の敗因は湿度調整でしょうね。ただ執念深いみかん選手のことですので、今回の大会に向けて相当鍛錬を重ねていますよ。」


「今回初参戦のアボカド!」


「レモンとのコンビネーションを使えない以上、アボカド選手もダークホースとなりかねませんね。」


「大海からの使者、サバ!」


「サバ選手もこの夏に向けての調整を怠っていませんね。」


「そして公式戦無敗のこの選手、もやしっ!」


「流石にもやし選手は貫禄と言いますか、王者の風格が漂ってきましたね。」


「そして今回は特別に海外からのゲストとしてバナナが参戦します。」


「バナナ選手が入ることで、展開が読めなくなってきましたね。」


「前大会そして第1回大会と、冷蔵庫の中を想定した環境でのバトルでしたが、なんとこの第3回大会では、外に置き忘れたビニール袋の中という環境での闘いとなります!」


「予期せぬ展開に観客席もどよめいています。」


「会場入りしたもやし選手も驚きを禁じ得ないと言った様子か、早くも周りの選手を牽制する動きを見せています。」


「この暑さで場外戦ですと完全に短期決戦になりますからね、バナナ選手やアボカド選手にとってはこうした環境下はホームグラウンドと言っても過言ではないでしょう。」


「今回のレフェリーは彼らを購入した大学生、レフェリーが彼らを発見したところから試合開始となります。」


「レフェリーによってかなりジャッジが左右されるこの競技ですが、今回の場外戦ということも相まってさらに予想がつきにくいですね。面白い試合になるでしょう。」


「さあレフェリーが会場入りして、今!試合が始まりました!まず手に取られたのはバナナ、多少黒ずみを見せてはいるものの、レフェリーはまだいけると判断したかそのまま場外の机に放置して様子を見る様です。」


「バナナ選手は見た目のインパクトはありますが、完熟と腐敗の境目が曖昧な選手ですので、今後どのように芳香でアピールしていくかが重要になりますね。」


「さて次に手に取られたのは、みかんだ!おっと、見た感じですと少し萎れ始めているか?」


「みかん選手は冷蔵庫での室内戦で、カビを用いての試合展開を得意としていますが、今回の場外戦では萎れていく作戦の様です。きっちりと前回の湿度管理の問題を克服してきていますね。」


「だがレフェリーは萎れつつあるみかんにまだ希望を見出したか、日陰に移して様子を見る様です。」


「太陽光を利用できないとなると、全てがみかん選手の思惑通りとはいかない様ですね。苦戦を強いられています。」


「レフェリーが徐に手に取るのは、今回のダークホース、アボカド!彼は一体どのような技を繰り出すのか…おっとこれは…レフェリーが何か違和感を感じている様ですね。」


「ちょっと様子がおかしいですね。」


「あぁっとこれは!ナイフで切られた断面が真っ黒だ!これは危険な香りがしますね!レフェリーもこれには顔を顰めています。」


「本競技では最初から腐敗しているというのは、最大の反則にあたりますからね。アボカド選手は一発退場です。」


「今、レフェリーからの正式な判定が下され、初参戦のアボカドは反則により退場です。誰が予想できたでしょうこの展開。」


「他の選手にも示しがつかないので、基本に忠実であって欲しいですね。」


「さあ次に挑むのは、初回そして前大会優勝のもやし選手、流石の王者も先の反則技に対して多少動揺したのか、普段通りのパフォーマンスが発揮できていない様にも見えます。」


「順調に変色している様にも見えますが、腐敗臭までは出せていないのか、確かに本調子ではない様ですね。やはり先程の牽制がかなり効いているものと見受けられます。」


「ここでまさかの王者もやし、キッチンに放置されたぞ!これは予想外!もやしも自らもうダメだと足の早さをアピールしていますが、レフェリーは首を横に振りません!」


「ここできてまだいけると判断するのは、完全にレフェリーの好みによるものですね、普通ではもやし選手で確定の流れでしたが、運を引き寄せられなかったか、今後はもやし選手かなり厳しい試合展開が予想されます。」


「さあ残る一品は、魚介類最早の異名を欲しいままにしてきた、海の覇者サバ!この灼熱の環境での場外戦ともなると、もはや彼の独壇場と言っても過言ではないでしょう。」


「この気温でのサバ選手はかなり早いですからね。」


「さあレフェリーがサバを手に取る、変色、腐敗臭、ともに申し分ないと言った様子か、レフェリーも副審との協議に入りました。」


「今回副審を務めるのは主審の学友で、試食のプロと言われています。彼もインドでのサバイバルを経験しているので、多少腐っているくらいでは判定をもぎ取れないでしょうね。」


「あぁっとしかし、今レフェリーのジャッジが下されました!今大会の最早はなんとサバ!サバが最早の座をもぎ取りました!大会始まって以来の大逆転劇に会場からも歓声が上がっています!」


「いや素晴らしいですね、文句の付け所のない早さです。」


「全くですね、さて今回優勝したサバには、大会主催の大学生から冷凍庫優待権と保冷バッグが贈られます。」


「いや〜次回の大会でも活躍を期待したいですね。」


「司会は炭酸水素ナトリウムと、解説生姜がお送りしました。ありがとうございました。」


「ありがとうございました。」


…何やってんだろ…。

俺はゆっくり冷蔵庫の扉を閉会した。

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